その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は裴英洙さんの『 医療経営学各論 人・組織マネジメント 』です。「刊行に寄せて」をお届けします。
【刊行に寄せて】
医療機関の経営課題を議論する時、多くの人はまず戦略、医療安全、診療報酬や収支、地域連携などを思い浮かべるかもしれない。しかし、私が医療経営コンサルタントとして全国の医療機関を長年支援してきた経験から申し上げると、最も難しく、そして最も多くの時間と労力を要するのは「人と組織」の課題である。2025年刊行の『医療経営学概論』では医療経営の基礎知識を体系的に整理し、幸いにも多くの方から好評をいただいた。本書は、その続編となる「各論」の第1弾で、医療経営の成否を大きく左右する「人・組織」に焦点を当てた。医療現場では、職種間の対立、世代間ギャップ、管理職の育成不足など、人・組織に関する課題が多く発生する。そして、それらの問題は収益や稼働率、安全管理、医療の質といった経営成果にも大きな影響を及ぼす。どれほど優れた経営戦略や事業計画を立てても、それを実行するのは「人」であり、その人々が集まる「組織」である以上、人と組織の問題を避けて医療経営を語ることはできない。
一方で医療界では長らく、人や組織の問題は「管理する側の人柄」「個人の力量」で解決するものと考えられてきた側面がある。もちろん、人間性や経験は重要だが、それだけに頼ると同じ問題が繰り返し発生し、対応する管理職や経営層は疲弊してしまう。実際には、人や組織の問題への対応には理論や方法論が存在する。組織行動論、リーダーシップ論、モチベーション理論、組織開発などの知見を理解すれば、多くの課題はより冷静に整理でき、再現性のある形で対応できるようになる。医師でもある私はこれまで、臨床現場の視点を大切にしつつ、実際の経営支援の場や大学院などの経営人材育成の場で、数多くの医療機関の経営層や管理職と対話を重ねてきた。その中で痛感するのは、医療機関ごとに規模や地域性、歴史は異なっても、人と組織の悩みには驚くほど共通点があるということである。そして、その解決には経験や勘だけでなく、体系的な知識と実践的な方法論が必要なのである。
本書は、現場での経験と経営学・組織論の知見を融合させながら、医療機関における人・組織の課題を体系的に理解できるようまとめた。理論の解説にとどまらず、経営実務で起こり得る具体的な事例や課題を交え、実践的に学べる内容を目指した。管理職や経営層はもちろん、これから組織運営に関わる若手職員にとっても自身の職場をより良くするヒントを得られる一冊となれば幸いである。
2026年7月15日
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科/経営管理研究科 特任教授
裴 英洙
【目次】




