その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は梅田悟司さんの『 言葉を武器にする経営。 なぜあのリーダーのもとにひとが集まるのか 』です。
【はじめに】
「あの言葉、いまでも社内で使っています」
これは、コピーライターをしている私にとって最もうれしい言葉である。「あの広告、話題ですね」でもなく、「アクセス数が伸びてます」でもなく、心の底から納得できるコピーを書けた瞬間でもなく。
私はいくつかの企業でコミュニケーションやマーケティング支援に携わっているが、そのなかに、社員が100人を超える急成長中のIT企業がある。この企業の取締役陣と「よなよな会議」と呼ばれるオンラインミーティングを行っている。
夜9時から始まり、終わりの時間は決まっていない。取締役が揃うなか、部外者は私ひとり。大事な言葉を決めるとき、「この件は内部で検討したうえで、梅田さんに相談しよう」という話になるようで、その都度、会議が設定される。
取締役陣が話し、私が問いかけ、議論を聴きながら議事録を取る。そのなかから核心を見抜いて、その場で言語化していく。
そんな、よなよな会議の冒頭のことである。本題に入る前に、共につくってきた言葉がいかに社内で流通しているかを聞かせてくれる。
定期的に全社で自社が大切にしている価値観や言葉をまとめたカルチャーブックの読み合わせを行っていること。ミッションやビジョンに込められた思いを語り合っていること。そして、言葉によって、社内の結束が固くなるのを実感していること。
会議室で交わされる議論のなかで、営業先へ向かう移動中の雑談のなかで、採用面接で会社を語る場で。仲間である同僚を励ますひと言として、自然にその言葉が使われている。こうした光景が目に浮かび、言葉の本当の価値を改めて教えられる。
その一方で、形骸化される言葉もある。
あなたの会社には、こんな言葉はないだろうか。
名刺の裏に印刷されているのに、誰も口にしないビジョン。
会議室の壁に貼られているのに、判断の拠り所にならない社訓。
全社ミーティングで社長が熱く語ったはずなのに、すっかり消えているパーパス。
策定に何か月もかけたのに。
言葉そのものは正しいのに。
しかし、現場では使われない。
経営者自身もいつしか、自分たちで決めたその言葉を使わなくなっている。
そんな言葉たちである。
なぜビジョンやパーパスは社内で浸透しないのか。
なぜ正しいはずの言葉が、現場では使われないのか。
なぜ外向きには整って見える言葉が、内に向けては力を発揮できないのか。
こうした問いが、本書の出発点になっている。
言葉が評価されることも、世の中に広く届き、売上に直結することも重要である。しかし、それ以上に大切なのは、生み出された言葉が、会社案内やホームページに留まることなく、社員一人ひとりの業務において躍動し、会社の成長を支えることにほかならない。
コピーライティングは、広告や販促のための技術として認識されることが多い。商品の魅力を伝え、サービスへの関心を高め、認知や関心や購入につなげる。そのために人を動かすための表現技法である。
広告を行うことは、企業にとって投資の一部である。そのため、当然のことながら、数字につながることが求められる。しかし、本書で扱いたいのは、数字に直結するような「外に向かう言葉」のつくり方だけではない。もっと広義な経営と言葉の関係であり、経営を力強く後押しする「内から外へ向かう言葉」を見出すための視点と方法である。
経営は、ヒト・モノ・カネといった資源を活かし、社会のなかで価値を創出していく営みである。そのなかで、言葉は大きな役割を担っているものの、経営という観点から語られることは少ない。
経営者が何を語るのか。組織が何を目指し、どこへ向かおうとしているのか。社員がどのように自らの目的を認識し、互いに確かめ合うのか。
こうした企業における魂にあたる部分は、言葉で表現され、伝わっていく。信念や思想が色濃く反映された「信じられる言葉」を持つ企業からは、連体感のようなものが強く感じられる。
もちろん、信じられる言葉があるだけで事業が生まれるわけでもなければ、売上が立つわけでもない。しかし、人と人との正確な合意形成は、言葉を媒介としてしか成り立たないこともまた事実である。組織は言葉を介して形成され、活性化していく。だからこそ、言葉の精度にこだわることは、経営そのものにこだわることと同義である。言葉は、経営の意志に形を与え、組織の行動へと橋渡しする、きわめて実務的で戦略的な資源であると言えよう。
個人的には、経営やビジネスを支える「ヒト・モノ・カネ」に「コトバ」を加えた、「ヒト・モノ・カネ・コトバ」として扱われてもいいのではないかとすら感じている。
本書で提示するコピーライティングの原則や方法は、気の利いた一行を生み出すことを前提とはしていない。企業が本来持っている価値を掘り起こし、経営者や社員の実感と結びついた言葉へと昇華させ、組織の行動にまで接続することを目的としている。
どんなに美しいフレーズでも、経営者自身が腹落ちしていなければ、社員の心に残ることはない。いくら正しい言葉でも、現場の実感から離れていれば、神棚に置かれたままになる。言葉は、掲げられた瞬間に完成するのではなく、現場で使われ、判断や行動に影響を与えてはじめて、「経営の言葉」として成立する。
さまざまなプロジェクトに携わってきて感じるのは、言葉は生み出されるまでがゴールになりやすいことである。しかし、本当の目的は、その言葉から新しい行動が生まれることにある。言葉はゴールではなく、スタートラインなのだ。
本書では「内から外へ」という指針を、いかに企業のなかで実現していくかに、理論と実践の両面から迫る構成となっている。
まず、会社の内側にある「内なる言葉」に耳を澄ます。そして、経営者をはじめ、社員が言いたいけれど言葉にならないことや、業務に追われるあまり目が向かなくなった死角に気づき、意識を向ける。経営層や現場のリーダーだけでなく、若手社員の声に耳を傾けることで、現状と理想の差が見えてくることもある。社内で日常的に使われている言葉を拾い集め、全社の言葉として昇格させることもある。
そのなかから「自社らしさ」の芯を見つけ出し、適切な形に整えることで、自分たちの言葉として語りたくなるものにする。すると、本当に、社員の会話に入り込み、判断基準となり、迷ったときの支えになる言葉が生まれるのだ。
社員が自ら使いたいと感じる言葉が生まれれば、発言量は自然と増えていく。社内だけでなく、社外の人に、家族の誰かに、話すこともあるだろう。言葉は語られることでより大きな力を持ち、影響力を高めていく。「内から外へ」を体現するように、社員の日常から、自然と外ににじみ出ていく。こうした「外に向かう言葉」を生み出すのが、本書の目指す最終到達点である。
内側で育った言葉は、外に向かったときにも効果を発揮する。広告でも、広報でも、採用でも、嘘なく、ぶれることなく、真っすぐに進んでいく。こうした言葉を、本書では「信じられる言葉」として定義したい。
信じられる言葉の力は絶大である。社員が自分の言葉として語り、行動の拠り所とし、会社そのものになっていく。言い換えるならば、経営における無形資産になり得るのだ。
掲げるための言葉から、使われる言葉へ。
外に向かう言葉ではなく、内側を支え、勇気づける言葉へ。
社員が信じ、自分の言葉として語りたくなる言葉へ。
このような言葉は経営を力強く支える武器になる。そのための視点と方法を、一緒に考えていきたい。
【目次】





