その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は佐々木一寿さんの『 KPIマネジメント 』です。
【はじめに】KPIマネジメントの原則を学ぶ
ビジネスプロセスの「計器」
KPI(Key Performance Indicator キー・パフォーマンス・インディケーター)とは、シンプルに言うと、着目すべき重要な「パフォーマンス状況を知らせる計器」のことです。
「パフォーマンス」とは、私たちの日常のビジネスにおける「進捗度」のことだとまずは考えてください。
ビジネスにはプロセスがあり、プロセスを上手く進めるためには状況を把握する必要があります。そのモニタリングを可能にするのがKPIです。
車の運転で言えば、ダッシュボードの計器類がそれにあたります。時間内に安全に目的地に着くために、速度はどうか(速度計)、距離はどうか(走行距離計)、燃料は持つか(燃料計)、といったことがリアルタイムで確認できますが、それを見ながら速度を調整したり、給油の計画を立てたりすることが可能になります。
私たちの仕事にも目標とプロセスがあります。目標を達成するためにはプロセスを把握しておく必要がありますが、それを可視化するための指標がKPIなのです。
KPIがなかったら?
仮にKPIがなかったとしたらどうでしょう。自動車の運転の例で言えば、走行距離計も速度計もない状況です。不可能ではないとしても、そのプロセス管理は不安を伴うものになるのではないでしょうか。
またビジネスには多くの人が関わります。関係者の間でプロセスについての話し合いが行われるとして、その際に共通して参照できる指標が必要です。
たとえば自動車で遠出をしたときに同乗者同士が走行距離計も速度計もない状況で時間内に安全に目的地に着けるかどうかの議論をすることはなかなか難しいのではないかと思います。
「KPIはビジネス上での議論をする際の前提になるものだ」ということは、これから導入を考えている方であっても大まかにイメージしていただけるのではないでしょうか。
KPI運用はシンプルであるべき
「KPIは必要だ」ということはすでに認識できたとして、ではどのように設定、管理、活用すればよいか。それに関しては、各人の仕事内容によってさまざまな正解がありえます。
何を目標にしているか、どのようなプロセスか、また必要なプロセス改善の方向性等により必要なKPIは異なります。たとえば車の運転と飛行機の操縦では、自ずと必要となる計器類も異なるでしょう。
その上で、大まかに共通するところもあります。それは、「KPIの設定、運用はできるだけシンプルであるべき」ということです。
KPIに関しては、いざ運用を始めてみると、取り扱いが複雑化してきたり、あれもこれもと追加をしたくなってくるものです。もちろん必要に応じて変えたり増やすことは本来よいことなのですが、それによって管理の負荷が上がってしまったり、共有しにくくなったり、不必要なものに気を取られたり、過剰に不安になったり、あるいは根拠なく安心してしまうこともあります。
つまり、KPIを的確に運用できないために本来気付くべき本質的なことが逆に埋もれてしまう、といったケースも思いのほか多いのです。
ビジネス環境は複雑だが……
KPIが複雑化しやすい理由に、昨今のビジネス環境が複雑化していることが挙げられます。そのような状況に合わせようとすると、KPIを追加したい衝動にかられるものです。そしてそれが歯止めなく進んでいくと、なかなか収まりがつかなくなってしまいます。
「あれも必要」「これも重要」とKPIを追加した結果、各KPIの重要度がわかりにくくなったり、関連性・類似性を考慮できない状況になってしまうと、必然的にそれらの解釈にもバイアスが生まれやすくなります。
また、関係者との議論も複雑なものになってしまうかもしれません。とくに部外者の方との意思疎通は決定的に難度が上がってしまうでしょう。
各人の注意力(アテンション)や判断力も時間に限りのあるビジネスの場合はとくに貴重なリソースとなります。いかにバイタリティがあり思考力が卓越したビジネスパーソンであっても、負荷の高い状況が続くとミスをしやすくなってしまいます。アテンションや判断力のコスト(負荷)が小さく行える環境の整備は、各人の力量とはまた別に意識して目指していくべきものと言えるでしょう。
必要とされるKPIを最低限に絞ってシンプルに管理することが、KPIマネジメントの効果を最大限に引き出す秘訣です。状況把握においてわかりやすく誤解が少なく迅速に判断ができ、改善行動にもすぐに移せる。そのようにプロセス管理を的確かつ簡便にすることこそが大きな目的であり、シンプルなKPIによるマネジメントはそれを可能にする手段なのです。
これから学ばれる方はもちろん、すでに活用をしている熟達者であってもこのことを常に留意しておけば、さらによいプロセス管理が可能になり、ビジネスをまた一歩前進させることができるでしょう。
複雑化したらシンプルにし直す
「必要なものは網羅したいが、多すぎると的確な判断を遠ざけてしまう」
この感覚がKPIマネジメントには重要です。とくに上級者は常にその感覚が研ぎ澄まされていると思います。
増えすぎてきたと思ったら、重複はないか、重要度は高いかといった観点から思い切って削ぎ落としてみることも一案です。なかなか勇気がいるかもしれませんが、測定自体は続けつつ参照しないケースを実際に試してみるなどして問題がなさそうであればKPIから外す、ということも有効なアプローチです。
また、複数のKPIを兼ねるKPIを見つけることができたら、それに置き換えるという方法もあります。
自動車の運転であれば、平均速度が不安定であるならば、時計と走行距離計を目安に都度で到着時間を想定することが重要でしょう。一方で、平均速度が安定していれば時計を確認することで走行距離計をさほど頻繁に見なくても状況はわかりますので、後は速度計を見つつ道路状況に集中して運転をすればよい、といった判断ができます。
いずれにしてもビジネス状況は生き物であり試行錯誤は必要になりますが、負荷なく絶妙で素早い状況判断と改善ができるシンプルなKPI設定・運用へと習慣的に修正することが身に付けられれば、自身のビジネスプロセスのマネジメントは格段に進化するでしょう。
シンプルなKPIが仮説検証を可能にする
KPIマネジメントは定量分析の一種であり、定量分析とは「数量をもって分析を行うこと」です。そして定量分析を「総合して」判断するということは、想像以上に難しくその人のセンスが重要になってきます。
数字から自ずと答えが出るということはビジネスでは稀であり、各人が総合的に解釈して意思決定を行う必要があります。シンプルなKPIマネジメントができていれば自ずとその解釈がしやすくなり、判断のセンスが磨かれ、より的確な意思決定が可能になっていくはずです。
そして、ビジネスにおける仮説検証がきちんと行えるようになります。これはビジネスパーソンとして重要な武器を備え持つことにつながります。
一般的にビジネスの仮説検証を行うことを「PDCAを回す」と言いますが、きちんと検証ができていないためにPDCAが回せない、あるいは間違ったPDCAをしてしまい改善ではなく改悪をしてしまう、といったことはじつは思いのほか多くあります。KPIマネジメントを通じて検証に熟達することで、ビジネス改善の再現性を大きく高めることが期待できます。このあたりは本書においても重要視していますので本書後半でしっかりと解説していきます。
また上級者は自身で絶妙なKPIを作ることもよく行いますが、シンプルなKPI運営に熟達すればそれも可能になります(有名なところではたとえば孫正義氏の二乗の法則や、稲盛和夫氏のアメーバ会計システム等があります。応用的であるため本書では触れませんが、ご興味がある方は研究をしてみても面白いと思います)。
すべてのビジネスパーソンにとって、KPIをあらためて考えてみることはビジネスの全般的なセンスを再確認し、磨くために非常に有用です。
初学者の方であっても予備知識なく理解できるように噛み砕いた説明をしていますが、上級者の方であればすでに理解済みの箇所は確認程度にしてスキップしていただいても差し支えありません。全体像の把握とさらなる応用を主眼とするならばそのほうが目的に早く進むことができると思います。
初学者上級者ともにご自身のペースにて読み進めていただき、KPIマネジメントの理解を通じてビジネス全体を俯瞰的に捉えつつ、現場においては個別具体的なセンスを発揮することが可能になる、本書がそのようなきっかけとなれば幸いです。
【目次】









