その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は斉藤壮司さん、佐藤雅哉さんの『 核エネルギー革命2030 核融合と4種の新型原子炉がひらく脱炭素新ビジネス 』です。

【はじめに】

 核融合反応や核分裂反応(原子力)で得られるエネルギー、すなわち核エネルギーを用いた発電技術が、あらためて注目されています。政府や民間を含む多くのプロジェクトが2030年代の商用化や実証を目指し、研究開発を進めています。

 2011年に発生した福島第1原子力発電所の事故の後、特に原子力発電に対する世間の風当たりは、相当なものでした。つい13年前のできごとです。しかし、昨今は打って変わって、世界は「脱・脱原発」ともいうべき方向へと進もうとしています。

 原発事故から10年の節目に当たる2021年、著者の1人である斉藤は幸運にも、廃炉作業が進む福島第1原発を訪れる機会がありました。目の前にあったのは、変わり果てた原発の建屋だけではありません。防護服に身を包んで大型の重機を動かし、廃炉に向けて着々と仕事を進める作業員の方々の姿がありました。

 同じような原発事故を再び繰り返すことは許されません。東日本大震災の後、日本や世界の一部の国で「脱原発」の世論が広がったのも無理はありません。しかしそれでもいま、日本を含む世界の多くの国々がこうした事故の記憶やリスクを大小抱えながらも、原子力発電の推進をあらためて表明し、さらにその先の核融合発電の実現に向けて動き出しています。一体、その背後には何があるのでしょうか。

 本書では、そうした素朴な疑問に動かされて取材と執筆を続けた日経クロステックの記者2人が、あらためて書籍の形にまとめ直しました。

世界はなぜ核エネルギーに再び注目するのか

 はじめの第1章では、世界がなぜ再び核エネルギーに期待し始めているのか、2023年11~12月にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた「第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP[コップ]28)」での動きを振り返りながら解説します。

 核融合発電や原子力発電は、天候に関わらず発電できる安定電源でありながら、稼働時に二酸化炭素(CO₂)をはじめとする温暖化ガスを排出しません。これまで、脱炭素電源としては太陽光発電や風力発電をはじめとする再生可能エネルギーが注目されてきましたが、それだけでは2050年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の達成が難しそうだとの見方が広がっています。

 もちろん、核エネルギーが期待される理由は、温暖化対策に有効であるということだけではありません。IT、特にAI(人工知能)の利用拡大に伴うデータセンターの建設や自動車の電動化など、私たちが住む世界ではここに来て、電力需要の増大に直面しています。

 さらに、2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、核エネルギー推進の方向を決定付けたと言っても、過言ではありません。資源輸出国であるロシアによる戦争は、日本を含む世界各国にエネルギー安全保障の強化を迫ったのです。

 各国が「将来の夢のエネルギー源」ともいわれる核融合発電に期待を寄せ、脱炭素電源の「現実解」である原子力発電に回帰するのは、そうした複数の要因が重なり合った結果といえそうです。

2030年代に始まる「核エネルギー革命」とは何か

 そうはいっても、核融合発電と原子力発電は現在どのような状況で、将来的に何をどこまで期待できるのでしょうか──。この点が、本書を手に取っていただいた、読者のみなさまの大きな関心だと思います。

 そこで第2章では、近年スタートアップ企業の参入などで大きく状況が変化し始めた核融合発電の現状を解説しました。多くの企業が2030年代を商用化や実証の目標時期に定めています。

 ただ、一口に核融合といっても、様々な方式があります。そこで、世界各国の核融合スタートアップについて資金調達額をランキング形式でまとめた上で、主要企業の技術を紹介しました。また、核融合発電の研究開発はこれまで、各国の政府主導や国際協力によって進められてきた経緯があります。そうした大型プロジェクトの状況についても、2章ではあらためて整理しています。

 脱炭素電源の「現実解」として再評価される原子力発電ですが、最大の関心事はその安全性です。第3章では、国が注目する4種の新型原子炉について、その技術的な特徴や研究開発を進める国内外のスタートアップ、そして大手原子炉メーカーの動向についてまとめました。こちらも2030年代に向けて商用化や実証が相次ぎます。

 第4章では、そんな核エネルギー開発の動向をデータから探ります。原子力発電と核融合発電について、それぞれ特許出願の動向を調査しました。研究開発やスタートアップの動向では米国を中心に動きがありますが、特許出願という切り口で見えてきたのは、中国の影響力が高まっている現状です。世界的な核エネルギー回帰の裏側には「米中対立」の構図も見え隠れします。

 新技術への期待が膨らむ核エネルギー開発ですが、そうはいっても国内では当面、既存の原子力発電所を活用していくしかありません。しかし高経年化した原発を巡っては、一部のメディアやSNSでは「老朽原発」などと揶揄(やゆ)されています。果たしてそれは正確な見方なのでしょうか。そこで第5章では、国内の原発について再稼働の状況を整理した上で、原子力規制庁などへの取材を基に、原発の「寿命」について考えます。

 以上のように、本書では核融合スタートアップが描く明るい未来から、原子力発電の現状まで、核エネルギー開発の現在地をありのままの姿でお伝えすることを目指しました。それでは、2030年代に向けて始まる「核エネルギー革命」について、詳しく見ていきましょう。

2024年7月吉日 著者 斉藤 壮司・佐藤 雅哉


【目次】

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