その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は北 康利さんの 小澤隆生 起業の地図 困難をいかに乗り越え、事業を成功させるのか です。

【はじめに】

 本書はこれまでの私の評伝とは少し毛色が違う。
 これまで書いてきたのは、福沢諭吉、渋沢栄一、松下幸之助、稲盛和夫といった教科書に載るような人物だ。だが今度は、起業を目指す若者のための“アニキ・アネキ的先輩”を書いてみたいと思った
 そこで白羽の矢を立てたのが小澤隆生だ。
 20代でeコマース(電子商取引:EC)の先駆けとも言うべきIT企業を設立。三木谷浩史に誘われて楽天に移ってからは新球団・東北楽天ゴールデンイーグルスを立ち上げ、ヤフーに移ってからは、孫正義の右腕として社長にまで駆け上がった。
 その間にも数多くの起業や起業支援をしてきたが、現在、強い思い入れを込めて設立したベンチャーキャピタル(VC)であるブーストキャピタルの社長として、一層本格的に若者たちの起業支援を行っている。
 この業界では“おざーん”の愛称で通っている彼は、多くの起業家が「事業立ち上げの師」と仰ぐ人物なのだ。 だから小澤の周りには、笑顔の素敵な起業仲間が集まり、今も彼に教えを乞いたいと多くの若者が列をなしている。
 彼らのワクワクしている顔を見ていて、(まるで宝探しをしているみたいだな)と感じた時に本書のタイトルが決まった。
 『起業の地図』!

 宝探しには地図がつきものだが、小澤隆生の描いてくれる地図は懇切丁寧。たとえ話もふんだんで、ビジネスだけではない生きる知恵に満ちている。
 起業は運次第。だが運で成功した人間に学んでも成功はおぼつかない。天才に学んでも、持って生まれた能力には限界があるから天才にはなれない。
 天才はえてして癖が強い。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは強烈な個性で、長年の友人を切り捨てたり家庭を崩壊させたりしながら前人未踏の事業をやってのけた。
 だが、そんな人生をすべての人にお勧めはできない。
 その点、小澤は違う。
 「友人や家族は何よりの宝物です。それを犠牲にする起業など意味がない。みんなも含めた社会すべてを幸福にする仕事がしたいじゃないですか! 友だちを増やして笑って生きていく延長にこそ起業があるんです」
 小澤が語るような、「楽しくて面白くて社会のためになる起業」が本書の目指す起業である。
 小澤はそんな起業を、持ち前の工夫と努力で何度も成功させた。そういう意味ではまさに「起業成功の極意をつかんだ男」なのだ。

 伝説の起業家の中には松下幸之助のように、父親が手を出した米相場で富裕な境遇から転落し、貧しさの中で家族のすべてを病気で失った人間もいる。シャープ創業者の早川徳次のように、関東大震災で家も工場も妻も子どもも失ったところから這い上がった人間もいる。
 もちろん小澤にも通常の起業家同様、「大いなる試練の時」(Hard things)は訪れるのだが、幸いにも松下幸之助などのように心の闇を生じさせるほどのものではなかった。
 「僕は“挫折なし、トラウマなし、コンプレックスなし”ですから」
 と口にし、少なくとも多少の困難は、明るく前を向いて解決していった。
 どろどろした情念を力に変えて這い上がっていった起業家の人生には勇気をもらえるが、小澤隆生の人生のほうが、「僕も起業してみたい」という気持ちにしてくれるに違いない。

 そして小澤には、起業とは別に学ぶべき点がある。
 楽天の三木谷浩史に9年、ソフトバンクの孫正義に11年の計20 年仕え、サラリーマンをしているということだ。すぐれたリーダーは優秀な人物を右腕にするものだが、小澤は彼らの負託に見事応えた。いわば“スーパーサラリーマン”として活躍しているのだ。
 IPO(新規株式公開)だけが成功への道ではない。M&Aによる事業売却も立派な出口(EXIT)戦略だ。一時、巨大企業の傘下に入った際、どう振る舞うべきか。その具体的な成功事例を、彼は我々に教えてくれる。
 取材を通じ、楽天もヤフーも、自由闊達(かったつ)な働きがいのある企業であることがわかった。そもそも日本人はチームプレイが得意な民族だ。組織によって発揮される強さや、みんなで一つの目標に挑戦する喜びは、大企業で働く醍醐味でもある。
 起業家は誰しも大きな成功を夢見ている。だが最初から大企業経営に通暁(つうぎょう)した人間などいない。それなら大企業がいかなるものか早いうちから味わっておくのは役に立つはずだ。たとえ最終的には起業を目指しているにしても。
 本書は1人の起業家の人生をたどりながら、いろいろな働き方や生き方についても考えることのできる、とてもお得な「起業マニュアル」でもあるのだ。

 小澤は言う。
 「おそらく誰の人生にも何度か、社会が変わり膨大な富がそこに集まる現象(ゴールドラッシュ)が訪れるんですよ。僕の場合、それがインターネットだった。そうしたチャンスを見つけたら、とにかくできるだけ早く、そこに飛び込むべきです。なにはともあれ、できるだけ早く!」
 それは今で言えば生成AIなのかもしれないし、核融合なのかもしれないし、宇宙開発なのかもしれない。そして、それらがゴールドラッシュなのか一時的流行なのかを見極める眼力(勘?)が求められているのだ。
 世の中に確実なものなどない。しかし“勝つ確率を上げること”はできる。
 一度きりの人生だ。納得のいく生き方をしよう。本書がこれから起業を目指す人たちの、あるいはお子さんをそう育てたいと願う人たちの、よき道しるべとなることを祈っている。

【目次】

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