その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は吉田直樹さん、森谷健史さん、宮永充晃さんの『 ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました 』です。
【はじめに】
この会社ちょっと変わってるかも……。
こんにちは。吉田直樹と申します。2019年より、ドン・キホーテおよびその親会社株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の社長をしております。お見知りおきお願いいたします。
僕がドン・キホーテ(ドンキ)に入社したときに感じた第一印象が、“変わってる”でした。2007年、17年前のことです。そして、その第一印象は、結構当たっておりまして(笑)、社長になった今でも、よく感じています。
本書は、この「変わってる」と、本書のタイトルである「好き勝手」をキーワードに、ドン・キホーテのPB(プライベートブランド)のリニューアルプロジェクトと、こういうオモシロイ商品とオモシロイお店を出し続けているドンキという組織についての物語です。最後までよろしくお願いいたします。
さてさて。僕のドンキ人生で初めて与えられた仕事は、海外事業本部長兼Don Quijote(USA)社長というハワイ法人の社長でした。そこで、僕は「この会社変わってる……」といきなり大いに戸惑いました。それは、「僕が言ったこと」とか「僕が決めたこと」が、何でもすぐ会社の方針として決まってしまったことです。
仮にも社長なんだから社長が言ったら、それが会社の方針でしょ?と思われる方は、多分、まだカイシャに入る前の年代の方かもしれません。カイシャは、特にコガイシャでは、通常そんなふうになってないんですよ(泣)。
社会人になると、だいたい、はじめに慣れなければいけないのは、決裁とか稟議(りんぎ)というものです。会議で盛り上がって決まったこととかが、会社の意思決定になるために必要なプロセスが、稟議であったり決裁だったりするわけです。社内で稟議書がぐるぐるぐるぐる回っていって、やっと決裁(=カイシャの意思決定)になる。で、決裁が通ったときには、時間がかかっていて、これ何の話だったっけ?だったりだとか、いろいろな部署の意見で元々の話から追加とか削除が入って、修正を重ねた結果、そもそも決めていたことと違うことになっていたりとか……。
そんなこんなを受け止めて、それでも前に進む……というのが、ジャパニーズ・ビジネスマンの道なんだと教えられていたはずなんですが、当社は全然違っていたんですね。会議で盛り上がったら、その通り、すぐに意思決定されるんですね。
最初は、僕が社長という立場だから僕の判断でその場ですぐ決められるのかな?と思いながらも、一定の規模の企業で、何の手続きも経ず、社長に就任したばっかりの人間の判断で会社の方針が決まっちゃっていいのか?という戸惑いのほうが大きかったです。
例えば、入社直後に行った広告のミーティングの時です。そこで、ハワイの幹部たちと侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をして、ある結論を出したんです。長年にわたって続いていた広告の方針を根本から変えるような話でした。会議の後、こういうことって、会社としては、どうすれば意思決定になるのかと聞いたところ、「会議で決まったことが会社としての決定です」と言われました。「本社に言わなくてもいいの?っていうか本社の了解がそもそもいるんじゃないの?」とツッこんでも、ドンキから出向している社員たちには「何のためですか?[シャチョー大丈夫?]」と諭される始末。コガイシャの悲哀どころか、まさに好き勝手(笑)。
入社後、だんだん当社のことがわかってきました。この好き勝手は、特に、商品軸について顕著です。当社は1兆6000億円くらいの仕入れをしていますが、基本的に稟議もありません。そもそも担当者自身に委譲された権限というのがびっくりするほど大きくて、担当者もそれをフル活用している(フル活用しなければならない、のほうが正確)ので、担当者の判断であっという間に仕入れ行為がなされるんですね。
僕も入社したばかりとはいえ、コガイシャの社長です。大きな権限(=責任)が与えられて当たり前であり、本社にお伺い……とかしてないで、早く決めちゃいなよ[今度のシャチョウ遅いね]!と社員のみんなが思っていたということは、後々わかることになります。
ただ、入社したての僕にとっては、あまりに新鮮というか、どちらかといえば「え、大丈夫?」といった気持ちで、こんな素人のオレが決めちゃっていいのかと、ちょっと心配になってしまったというのが本当のところです。
この本では、最初から最後まで、こうしたドンキの「変な」エピソードがたくさん語られています。そんな変わった社風の会社が、ずっと同じノリのまま、どうやってここまで成長できたかについて、PBの再生(リブランディング)物語を中心にお伝えしていきます。
2019年に僕がPPIHの社長になって、役員として唯一営業関連で管掌していた(過去形です・笑)のがPB事業なので、今回の執筆者として僕にお鉢が回ってきたのだと思いますが、実際は共著者であるPB事業責任者でマーケティング戦略担当の上席執行役員・森谷健史のリーダーシップ[好き勝手し放題]と、同じく共著者である博報堂のクリエイティブディレクター・宮永充晃さんの絶大なご協力[寛容と忍耐]の下、この事業は遂行されたので、これは僕が担当した事業です……とはとても言えません(笑)。
その代わり、本書では、僕は、創業から35年で売上高2兆円までになったこの稀有(けう)な会社のモノの見方、商売の考え方、特に「どんな会社なの?」という部分について執筆を担当することにしました。僕は営業出身でもなく、また、当社の中心である20代からドンキで働いている、という経歴でもなく、まして、創業者やそれに準ずるような社歴があるわけでもありません。ドンキのことを語るにはもっとふさわしい人がいる。でも、40代になっての転職組の僕だからこそ書ける当社のユニークさ[「変わっている」こと]がある、ということで、執筆の機会をいただくことになりました。
入社後、僕の先生は若い社員たちだったのですが、さらに驚いたのは、この若い先生たちが、最終権限を様々な形で持っていることでした。
例えば、カテゴリーリーダーという仕事があります。これは当社の花形のポジションで、7つに分かれている商品の仕入れの責任者のことです。カテゴリーリーダーの仕入れの最終権限の金額は、年間で約500億円から約4000億円という巨大な金額になります。今もカテゴリーリーダーは全員30代、40代ですから、若いです。
ただ、カテゴリーリーダーも各部門の部門長に、部門長もその部下の担当者に、どんどん権限を委譲していきます。結局、仕入れ権限の責任者はカテゴリーリーダーですが、それは最終責任を負うということのみで、彼らが実際に仕入れを手掛けるのはほんの一部。ほとんどは、権限を与えられた、各店舗の最前線にいる従業員が担当しているのです。
しばしば本書に出てくる、当社グループの企業理念集『源流』には、「自分の権限を自ら剥奪し、部下に与える」とあるのですが、文字通り、その通りやっています。実際、いわゆる正社員でない社員(当社では「メイト」さんといいます)が、普通に仕入れ権限を持っているのが当社です。当社グループの仕入れの1兆6000億円は、全てこの方式で仕入れてるんですよ。
ちょっと変わってますよね。
でも、だからこそ、若い従業員が、入社からの数年間で、どんどん実力をつけてきて、グングン伸びてくる、というのも事実です。
このカルチャー(任せちゃうという価値観)は、当社の創業者である安田隆夫の信念からきています(安田の著書に詳しく書いてありますので、ご興味ある方はぜひお読みください)。安田会長の一番スゴイところは、突き抜けた楽観主義に基づいた経営ということだと思います。入社後、僕はオドロキの連続のドンキ人生を送ることになるのですが、とにかく信じて任せちゃう、というのが安田の経営方針です。え、こんなこと任せちゃっていいんですか?ということを、安田は、莞爾(かんじ)と、満面の笑みで「頼んだよ」と言うのです。だから、小売業経験ゼロの僕が、入社と同時にアメリカの社長に任命されちゃったんですよね。
でも、やっぱり変わってますよね(笑)。
さて、変わってる、変わってると、自社のことを書いていますが、これは僕にとっては最もポジティブな、言い換えれば、従業員にとってやる気の出るドンキの特徴です。「変=strange」という意味での変わってるではなく、「異なる=different」という意味での変わってる、とご理解ください。実際には、変なこともいっぱいありますが(笑)。
ところで、私たちのグループの売り上げは2兆円を超えているのですが、その話をすると、一様にみなさん驚かれます。小売業界でいうと、セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ファーストリテイリングに次ぐ規模なんですよ。僕が言いたいのは、規模がデカい、ということではなく、ドンキの面白いところは、この規模になっても、僕が入社したときに感じた、あの変わっているところを維持し続け、また、それを変えてはいけない、と信じているところです。このノリの会社がここまでの規模になったのは、何かやっぱり理由があるんじゃないか。そういったことについて、読者のみなさんに興味を抱いていただけるととてもうれしいです。
読んでいるうちに「え、本当なの?」という部分が多々出てくると思います。そういう反応を得られれば、多分、うまく伝えられている……ということなんだと思います(そして、本書で取り上げられているエピソードは全て実話です)。
本書の僕の書いたパートには、しばしば、「笑」が文章の末尾に記されています。これは、僕がドンキに転職してから、様々な場面で、他社だったら笑えない話でも、ドンキでは「笑うしかない」あるいは、「笑ったほうが正解」「笑を付けたほうがドンキでの本音」ということが多く、ビジネス書の分類の本なのに申し訳ないのですが、「笑」を入れないとニュアンスが伝わらないというか……。
僕なりに真面目に書いたんですが、やっぱり「笑」を入れないと真意が伝わらない、というノリでございます。
僕は、夜になると、早く朝が来ないかなあと思っています。明日になったら○○さんと話したい、XXさんの考え聞かなきゃ、などと役員や社員の顔が浮かんでくるのです。毎晩が、遠足前日の小学生の気分。その根本にあるのは、従業員との信頼関係なんだと思います。入社してから17年たって、安田会長の信念、「信じて任せる」という経営方針が少しわかったような気がします。
いくら「信頼する」と言っても、本当は危なっかしく思っていたに違いないのに、安田会長は常に任せてくれます。いろいろ言いたいことがあるに違いないのに、結果が全て、と、決まったことに途中で異を唱えられたことがありません。そんな、創業者の安田イズム、そういったものを、大した社長ではありませんが(本書で、それも明らかになっていきます・笑)、僕というフィルターを通してみなさんにお伝えできれば、と心から願っています。
本書は、代表取締役社長である僕、吉田直樹に加えて、当社の上席執行役員の森谷健史、そして博報堂の宮永充晃さんの3人で執筆しました。
2019年、僕が社長に就任したとき、これからの当社の成長って、自分たちだけの世界観にとらわれず、異なる価値観を持った他社と仕事をすることで達成できることも多いんじゃないかと考えていました。ということで、会社のこれからのあり方として、他社と組むことを提示しました。僕はそのほうが絶対オモシロイことができると思ったんですね。
PBのリブランディングプロジェクトでも、それを森谷に頼みました。もちろん、そのパートナー選定は森谷に託したわけですが。
その結果、森谷のチームが博報堂さんと組むことを勝手に(とてもポジティブな意味です・笑)決めてきたので、博報堂さんがパートナーになりました。その博報堂のリーダーが宮永さんです。博報堂さんとチームアップすることになったのは、そんな経緯です。
宮永さん、あるいは博報堂さんと僕は、それまで何の接点もありませんでした。森谷が決めてきた[好き勝手に決めてきた]博報堂の本プロジェクトリーダーの宮永さんは、初めて会ったときから当社とずっと一緒にお仕事をしていた人のように感じました。宮永さんの視点はとてもユニークで、当社の考え方とは全く違うけれど、何だかうまくいきそうな予感がしました。2年くらいたったときに、宮永さんの年齢を知ったのですが、(若くて)正直オドロキました。ドンキよりも若くて権限を持っている人がいた!
森谷は、当時、最年少で当社の執行役員になったPBの責任者です。ドンキでの社歴は僕より長く、先輩です。すごくドンキっぽい人材で、自分のシゴトを、好物か好物でないかで判断するようです(後述するマーケティング部門の責任者に任命したときには、「大好物です」という返事でした・笑)。
そんな3人で、2020年以来、たくさんのことを語り合ってきました。チーム宮永という社外の方と一緒にシゴトをすることにより、かえって、自社、ドンキらしさ、といったものについて考えざるを得なくなり、また、変えなければならないことについても思い切った決断ができたのではと思います。そういう試行錯誤の結果、世間にもわかりやすいオモシロイ成果を挙げているのが、本プロジェクトではないかと自負しています。
こんなオモシロイ話は3人で語るだけではもったいない。また、こんな会社をオモシロイ、と思ってくれる人には、ぜひ、入社していただきたい!(笑) 仲間になっていただきたい!(笑) そんな思いで1冊の本を作ることになりました。
さて。本書は著者3人で、ろくに打ち合わせもせずに書いてしまったという事情があったので(あなたの勝手でしょ!と、ぜひツッコんでください・笑)、構成がグジャグジャになっちゃいまして、ここで、僕から本書の流れについて説明させてください。
序章・第1章では、主にドン・キホーテという企業の文化や考え方について書いています。第2章は、ドンキのプライベートブランドが、リブランディングをしなければならなかった事情について、第3章は、リブランディングがどんなプロセスで生まれていったかについて説明します。
第4章では、僕たちのPBのデザインが、どういった考えで今のデザインに行き着いたかについて、第5章では、PBの商品企画、特に当社の独自性、トンガリがどうやって商品になっていくかについて、背景を解説します。
第6章では、僕たちの商品やサービスが、お客さまとどうつながって、そのお客さまとのつながりがどう商品やサービスに影響を与えているかについて、第7章では、僕たち独自のマネジメント手法、社内に大宣伝という話をします。
そして最後の第8章では、なぜ、ここまで好き勝手を推奨するのかということについて解き明かし、僕たちの大きな特徴である権限委譲という文化と、その裏側にある当社流の好き勝手とはということについて書いています。
ドン・キホーテで、実際、どんな仕事をやっているのか、どんな会社なのか、そんなドンキのことをリアルにお伝えできれば望外の幸せです。
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
代表取締役社長CEO 吉田直樹
【目次】










