その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小宮一慶さんの『 コンサルタントが毎日見ている経済データ30 』です。

【はじめに】

「経済を読む力」はビジネスパーソンの基礎力

 本書を手に取ったみなさんは、経済について少なからず関心のある方だと思います。急速に進む少子高齢化や拡大を続ける財政赤字など問題山積の日本が、将来どのようになってしまうのだろうと不安を感じている方もいるでしょう。日本経済の先行きが暗く、資産防衛をどのようにしていけばいいか、悩んでいる方もいるかもしれません。あるいは、さまざまな課題が横たわっている日本だからこそ、ビジネスチャンスがあると考えている方もいると思います。

 「経済を読む力」は、ビジネスで実績を上げていくうえで、もっと広い意味でいえば、この世の中を生き抜いていくうえで必須といっても過言ではないほど重要なスキルです。経済の仕組みや景気の読み方、先行きの予想の仕方が分かれば、皆さんのビジネスのみならず、生活、資産運用、ライフプランの設計に至るまで、大きな助けとなるはずです。

 では、経済を読む力を身に付けるためには、どのように勉強すればいいのでしょうか。学生時代の教科書を引っぱり出して読み始める。経済ニュースを片っ端からチェックする。書店で専門書を探してみる──もちろん、どれも間違いではありませんが、私がおすすめしたいのは、「経済指標(経済データ)の読み方」を理解することです。

 経済指標とは、経済活動に関する統計です。例えば、国内総生産(GDP)、消費者物価指数(インフレ率)、現金給与総額、有効求人倍率、完全失業率、外貨準備高、あるいは短期金利、政策金利、マネタリーベース、日経平均株価──どの言葉も、新聞やニュースで幾度となく目にしたことがあるのではないでしょうか。

 経済指標は、いわば経済に関する健康診断のようなものです。それぞれの指標の定義を簡単に知り、読み方をきちんと理解することで、経済の仕組みが分かるだけでなく、経済の現状や先行きを詳細に分析することができます。本書では大きく分けて約30の指標を取り上げています。

 経済指標を継続的に見ていると、それらの数字を通じて日本や世界の経済状況が手に取るように見えてきます。さらには、新聞記事やネットやテレビのニュースも関連づけて見えるようになるので、より深く理解できるようになります。その過程で思考力も身に付いていくので、経済の先行きを予測する精度も高まってきます。

 私はもう何十年もの間、経済に関する記事や経済指標を毎日チェックし、それぞれを関連づけて読む作業を続けてきました。今ではこれが自分の仕事に大変役に立っています。本職である経営コンサルタントとして、経済や会計の読み方にも強くなりました。数字と現象を見るという点では経済も会計も同じで、どちらも継続的な訓練でその能力は格段に高まります。

 私は、経済も会計もほとんど独学ですが、経済指標をずっと追っていたおかげで経済分析をある程度専門的にできるようになり、大学の経済学部の客員教授も長く続けていますし、会計についても大学院の特任教授として4年間ほど学生たちに教える機会に恵まれました。

 もちろん、経済や会計の専門性を高められるだけではありません。現状の分析と先行きの予測ができれば、自分が今どのように動けばいいかが分かりますし、ビジネスをするうえでも社内外に向けて良い提案ができるはずです。あるいは将来に向けて、今、自分がどのように動けばいいのかも冷静に考えることができます。

新聞の見出しとリード文を毎日チェック

 そして、みなさんにはできるだけ「紙」の新聞も読んでいただきたいと思います。特に若い人たちの中には、「ネットの記事を読むだけでいい」「SNSで流れてくるニュースを見るだけで十分」と考えている人が少なくありません。

 今では各新聞社が電子版を展開していますので、それを見るのももちろんよいのですが、紙の新聞は一覧性が優れています。紙面を広げれば、どのような記事がどこにどれだけの大きさで載っているかを瞬時に把握することができます。そして、紙面全体でどのような話題が扱われているかを把握することで、社会の関心の全体像を捉えることができるのです(もちろん、紙面をスマホなどのビューアーで見るのでも大丈夫です)。

 また、ネット記事だけだと、自分の興味や関心のあるものしか読まなくなってしまいます。おそらく多くの人は、スマホでニュースの見出しをスクロールして、関心のないものは読み飛ばしてしまうのではないでしょうか。それは非常にもったいないことです。

 紙の新聞ならば、見出し、リード文、本文が同じ面に載っているので、見出しとリード文をチェックするだけで大まかな内容を把握することができます。こうしてすべての面に目を通す習慣を身に付けると、ビジネスや人生ではとても大切な「関心」の幅を広げていくことができます。できればすべての記事を丹念に読めればベストですが、大きな記事の見出しとリード文をチェックするだけでも、積み重ねていけば大きな差になっていくのです。

経済指標から見える日本経済、世界経済

 本書は、経済指標を読み解きながら、その背後にある本質や経済システムの特性を解説するものです。本書を読むことで、次のような力が身に付きます。

(1) 経済指標の定義を知る
(2) それぞれの経済指標を関連づける
(3) 背後にある社会情勢や、日本のみならず米国、欧州、中国などの経済システムの本質や違いを理解する

 これらを学びながら読み進めるにしたがって、日本経済や世界経済の全体像をつかめるようになります。

 第1章では、経済指標の中でも特に重要な指標をピックアップし、定義を理解しながら、日本や米国における経済の大きな流れについて読み解きます。世界中の市場関係者が注目するGDPや雇用統計、貿易統計などを詳しく解説します。

 第2章では、日本、米国、中国を中心に、経済の動向をより詳細に分析していきます。コロナ禍を経て、世界は急速なインフレに襲われました。なぜ、インフレが起こったのか。この状況はいつまで続くのか。各国の景気がどのように動いていくのか。日本と欧米との違いなど、詳しく解説します。

 第3章では、個別業種に関する指標を読み解いていきます。旅行、百貨店、不動産、半導体、鉄鋼、自動車など、注目すべき業種をピックアップしました。

 第4章は、金融の指標の解説です。2013年4月に日本銀行の黒田東彦総裁(当時)が打ち出した「異次元緩和」は、日本経済にどのような影響をもたらしたのか。金融正常化に向けてようやく舵(かじ)を切った植田和男・日銀総裁は、今後、どのような金融政策を打ち出していくのか。岸田文雄首相は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、国民の資産所得倍増を目指して投資を推進していますが、その先にはどのような未来が待っているのか。一つひとつ解説していきます。

 第5章では、投資に役立つ指標の見方を解説します。みなさんが稼いだ大事なお金をどのように守り、どのように増やしていけばいいのか。指標の解説とともに私なりの投資のポイントを述べていきます。「株式投資には興味があるけれど、どの銘柄を選べばいいのだろう」「株式はどのタイミングで買い、そして売ればいいのだろう」と悩んでいる方は特に参考にしてください。

 巻末では、本書に掲載している主な経済指標を一覧でまとめました。各データを取得しやすいサイトも紹介していますので、参考にしてください。

 それでは、経済指標の解説をスタートします。難しいことはありません。ゆっくり読み進めていけば、どなたでもきちんと理解し、経済の基礎力を身に付けることができます。

 本書の原稿作成にあたっては、森脇早絵さん、日経BPの小谷雅俊さん、当社の小宮弘成君にご協力いただきました。深く感謝申し上げます。

 2024年8月

著者

【目次】

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