その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は堀 公俊さんの『 ロジカル・ディスカッション[新版] チーム思考の整理術 』。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

 「議論を上手にまとめたい……」 そう思って本書を手に取った人が少なくないと思います。残念ながら、そう思っているうちはうまくいかないでしょう。そもそも、「まとめたい」と思っているから、まとめられないんです!

 たとえば、こんな経験はありませんか。「今日こそはスッキリと会議をまとめてやるぞ!」と気合い十分。そこで、前もってみんなの意見に探りを入れ、落ち着きそうな結論、いわゆる“落とし所”に当たりをつけて会議に臨みました。
 ところが、そこに向けて完璧に仕切ったつもりが、予想外の意見が3つも4つも出てきました。こうなると、頭の中は「この意見をどうやって落とし所に持っていこうか?」で一杯です。あせって落とし所に引っ張ろうとすればするほど、みんなは抵抗をします。
 結局、時間切れとなって落とし所に落ちず、後で個別に調整する羽目に。「まとめよう」と思うあまり、用意した結論にどう持っていくかしか考えられなくなってしまったからです。

 逆もあります。あまり仕切ると嫌がられるので、ある程度自由に語ってもらったところ、収拾がつかなくなってしまったケースです。
 論点からズレた思いつき発言が出てきて、何について話し合っていたのか分からなくなってしまう。前の意見を受けて発言するのかと思いきや、まったく関係のないことを、声の大きい人がまくしたてる。つかみどころのない発言が延々と続いて、何のことやらさっぱり分からない。そんな状況です。
 「時間がないので、そろそろ議論をまとめませんか?」といっても、結論をめぐってまた発散が始まります。まさに始末に負えません。

 こんな状態に私たちはどう対処したらよいでしょうか。本書のメッセージは「まとめようとするな、整えよ!」です。
 実は、熟練のファシリテーターでも、まとめるのが上手な人は、それほどまとめを意識していません。彼/彼女が全身全霊を傾けているのは、議論の交通整理です。
 具体的には、論点をかみ合わせる、発言の意味を共有する、議論の筋道を整える、全体像を分かりやすく見せる、合意点を明らかにするなどがあります。それを丹念にやっているうちにおのずと結論が見えてきて、ファシリテーターが落とさなくても、まとまってくれるのを知っているからです。
 ファシリテーション(facilitation)の接頭辞であるfacilはラテン語でeasyを意味します。「やりやすくする」「容易にする」「円滑にする」「スムーズに運ばせる」というのが英語の原意です。つまり、ファシリテーターの役割は、「議論をまとめる」ことではなく、「議論がまとまるようにする」ことなのです。

 議論を整えるには何かよりどころが要ります。たとえば、警官が交差点の真ん中に立って交通整理できるのは、交通ルールが共有されているからです。議論でいえば、論理(ロジック)がそれに当たります。本書では、論理思考~ロジカルシンキングの考え方を土台にして、「議論がまとまるように整える」ためのポイントを解説していきます。
 といっても、誤解しないでください。論理学を一から身につけようというのではありません。筆者の豊富な経験に基づき、議論を整理するために、アンテナを張っておくべきポイントを紹介しようと思います。
 まずはアンテナの感度を上げて、異常に気づけるようになってください。「あれ、テーマからズレている?」「根拠は何だろう?」「これでまとめの言葉になっているの?」「この枠組みで考えていいんだろうか?」といった具合に。
 その上で、「今何の話をされましたか?」「理由を教えてもらえませんか?」「その言葉で大丈夫ですか?」「他の枠組みで考えるとしたら?」などの質問を投げかけて、発言者を含め議論しているメンバーに整理を促すようにします。これが整理の基本的な考え方です。必ずしもファシリテーターが整理してみせる必要もないのです。

 この考えに立ち、本書では4つの点に工夫を凝らして執筆しました。
 1つめは、議論のステップに応じて、ファシリテーターが求められる役割を5つに集約したことです。具体的には、①要約する、②検証する、③整理する、④統合する、⑤構造化する、です。さらにそれを、12の基本動作に展開して、アンテナを張っておくべきポイントを明らかにしました。特に、言葉だけが頼りとなるオンライン会議において重要となります。
 2つめは、議論の整理を促すための、ファシリテーターの問いかけの具体的なフレーズを豊富に紹介しています。新版に改訂するに当たり、より一層の磨きをかけましたので、声に出して読んで、口癖になるくらい自分のものにしてください。
 3つめは、トレーニング方法です。スポーツと同じように、練習と試合が両輪となって腕前は上がっていきます。仲間内で集まってワイワイと楽しくやれるトレーニングを考えてみましたので、これで腕を磨いてもらえればうれしいです。
 4つめは、巻末のフレームワーク集です。新版では項目や内容を一から見直して、ビジネスに必要なフレームワークを一通り網羅しました。いつでも手元に置いておくと、心強い味方になってくれるはずです。

 では、前置きはこれくらいにして、「整理上手」「まとまり上手」への第一歩を踏み出しましょう。
 どこから読んでもらっても結構です。全部を読み切ってからでないと実践できないということはありません。1つでもピンとくるものがあれば、早速現場で使っていってください。
 「あの人が来ると、議論がまとまるね」
 「そうそう、自分たちが何を話し合っているかを見失わずに済むんだ」
 「自分たちの頭の中が整理されるような気がするよ」
 と言われる人を目指して、さあ、修業開始です!

 2024年8月

堀 公俊

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示