その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は上野泰也さんの『 2036年 世界と日本、マネーはこう変わる 人気エコノミストの大胆予測 』です。

【はじめに】 上野泰也流「経済とマネーの先読み術」

 「世の中はこのところ大きく変わっており、先が見えにくい混迷の時代に突入したな」と日々実感させられているのは、筆者だけではないだろう。金融市場に近いところに身を置いて情報の洪水に直面していなくても、日常生活で必要な買い物をしたり、街の人々の様子をただ眺めていたりするだけでも、そういう思いがふつふつと湧いてくる。
 本書は、そうした見えにくい将来、具体的には今から10年先の2036年に世界と日本がどうなっているのかを、さまざまな角度から、ときには大胆に予測してみたものである。

 米国では、格差拡大を伴う「K字型」の経済成長が続く中、イランやベネズエラに軍事力を行使するなど、自国の利害を優先して既存秩序を軽視する姿勢が鮮明になっている。
 中国では、経済成長がかつての勢いを失い、人口減・少子高齢化や不動産不況といった構造問題に苦しみながらも、軍事力増強が継続し、米国への対抗心があらわになっている。
 日本では、人口減・少子高齢化への対処が不十分なまま、低い経済成長が続いているが、「SNS選挙」を経由して外国人に不寛容な空気が広がり、政治に影響が及んでいる。

 今から10年前にこれらの状況を筆者が十分正確に予想できていたのかと問われると、残念ながら、答えは「イエス」にはなりにくい。
 日本の人口対策が不十分なものにとどまり続けることなど、シナリオとして筆者が描いていた部分はあるものの、既存秩序の破壊者として振る舞い続けるドナルド・トランプ大統領が打ち出した過激な政策の数々などは、事前には全く予想できなかったサプライズである。
 では、どうせ当たらないのだから将来予測のようなことをするのはやめて、実際に起きてくる数々の事象を見極めた上で、その都度対応していればよいのかと言うと、けっしてそうではあるまい。
 日本には昔から、「備えあれば憂いなし」という格言がある。国内と海外のさまざまな出来事に日頃からアンテナを張り巡らせておき、重要な変化やその兆しになり得ることをいち早く見つけ出す努力をしていれば、必ずや報われることがあるだろう。少なくとも、筆者はそう考えている。
 不断のブレーンストーミングが行われていれば、新たに生じる事態への冷静な対応が、ある程度まで可能になる。完全な不意打ちになってしまい、戦国時代の桶狭間の戦いにおける今川義元のように首をとられることまでは、おそらくならないだろう。

 最初にお断りしておく必要があるが、この本は10年後に世の中がどうなっているかの予測をピンポイント的に、完璧に行おうとする内容ではない。
 筆者は金融市場(マーケット)の世界に1988年から身を置いており、90年から「マーケットエコノミスト」として活動を続けているのだが、内外経済や金融市場の予測を大きく外してしまい、青くなったことは何度もある。
 全く想定外のことが起こったり、重視していなかった点があとで重要な意味を持ったりと、予測が外れた原因はさまざまだが、仮に外れてしまったなら、原因をしっかり把握した上で、修正した新たなシナリオを組み立てる。
 また、マーケットエコノミストという仕事を長く続ける上では、「あっ!」と驚かされるような出来事がたびたび現実になることが、欠かせない刺激になってきたように思う。

<中略>

 ここからはいよいよ個別のテーマごとの予測に話を移したい。10年の月日が経った後、世界とマネーは2036年に、いったいどのような状況になっているのだろうか。

 第1章では、2036年の世界がどうなっているのかについて、まず、経済の規模が特に大きい米国・中国・欧州の3カ国・地域を取り上げる。
 米国では、トランプ大統領という「ビジネスマン的な政治家」が、この国のありようを大きく変貌させた。中国では、習近平(シー・ジンピン)国家主席が権力を握り続ける中で、台湾海峡やレアアース(希土類)供給の問題を含め、米国との対立関係がどうなるかが関心事である。欧州は、安全保障の面で「米国離れ」を余儀なくされており、新たなポジショニングを模索している。

 第2章では、2036年の世界を予測する前章の続きとして、インドなどの「グローバルサウス」、世界全体に共通するいくつかの問題点、そして日本を取り上げる。
 インドやインドネシアは、米欧・中ロいずれにも与(くみ)せず、バランス外交を続けている。北朝鮮の今後も気になるところ。世界経済の保護主義への傾斜、高いインフレ率、軍事支出の増大についても考察する。日本では、「人口減・少子高齢化」が淡々と続くだろう。その下での景気や物価の行方、政治の「多党化」「SNS選挙」などを考察する。

 第3章では、2036年の世界で、AIがどのような存在になるのかを考える。著名な学者が、AIが「人類の上に立つ」リスクを警告しており、危うさのあることがすでにいくつも起こっている。「ロボット三原則」も参照しながら、警戒的な予測を提示する。

 第4章では、基軸通貨であるドルの行方を考える。米国のトランプ政権の政策運営は信頼感に乏しく、ドルの信認を低下させた。では、ドルは失墜するのだろうか。金(きん)(ゴールド)、仮想通貨、ステーブルコインに大きな未来があるのかを考える。

 第5章では、人口減少が続くとともに、いわゆる「金利がある世界」が復活した日本で、個人や企業のマネーの流れがどう変わっていくのかを考える。日経平均株価が最高値を更新した根底には、利益配分のスタンスなどからうかがえる、日本企業の変貌がある。資金運用で「安全性」重視だったシニアも「収益性」に傾いてきたことには理由がある。2036年にかけての長期金利(10年物国債利回り)・不動産価格・ドル/円相場の見通しについても、筆者なりの考察を加える。テールリスクとしての自然災害も気になるところ。

 第6章では、「マネーをめぐる攻防の最前線」として、政府vs.中央銀行vs.マーケットという三者のせめぎ合いについて考える。政府からの「中央銀行の独立性」は、米国だけでなく日本でも守勢である。だが、その政府も「マーケットの力」に逆らい続けるのが難しい。日本で広がる「投資熱」の行方、「タンス預金」の行き先、「キャッシュレス決済比率」の上昇余地なども、考察対象である。

 第7章では、「リスクの海を渡っていく」上での、ヒントや発想について考える。謎解きミステリー(本格推理小説)の世界、軍事評論家が説いた「クライシス(危機)」への対処法、近年の金融市場(マーケット)の特性、3つまでギリギリ絞り込んだ日米の「ウオッチしておきたい経済統計」などを説明する。最後に、世界の国々の政治・経済動向よりも次元が一段高いリスクである「地球温暖化」の10年後についても考える。


 2036年の世界を考える上では、さまざまな角度からの考察が自ずと必要になってくる。このため、本書がカバーしている範囲は多岐にわたっているが、読者の方が特に興味を抱かれた章から、気軽に読み進めていただければと思う。


【目次】

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