その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は及川美紀さん、前野マドカさんの『 幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条 』です。

【はじめに】なぜ今、ポーラが幸せ研究をするのか?

株式会社ポーラ 代表取締役社長/ポーラ幸せ研究所 所長 及川美紀

「私は何のために生きているのだろう?」
 誰もが「生きる目的」という問題に頭を悩ませたことがあると思います。たどり着く答えは人によって様々でしょうし、人生の局面によっても変わってくるはずです。ただ、私たち全員が共通して目指すところは、「幸せ」という素朴な一言で表現できるようにも思います。何をもって幸せとするかは人それぞれ違っても、誰もが「幸せになるために生きている」。そう言っていいのではないでしょうか。

 最近「ウェルビーイング」(心身の健康や幸福)という言葉を、しばしば見聞きするようになりました。精神的にも身体的にも、そして社会的にも健康で満ち足りた状態は、誰もが目指す人生の目的地です。

 幸せを組織マネジメントの拠り所に据える動きも活発になっています。従来、企業活動の最たる目的は収益の獲得でした。ところが近年、従業員を幸せにすること、社会に幸せを広げることを、収益にも増して重要な目標として掲げる企業が増えています。現在私が社長を務めるポーラもその1社です。企業理念は「私たちは、美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現します。」であり、幸せへのこだわりの強さには自負があります。

 2021年4月には、「ポーラ幸せ研究所」を設立し、幸福学の第一人者である、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授の前野隆司さんと、そのパートナーであり本書の共著者でもある前野マドカさんと共同研究を始めました。幸せのメカニズムを科学的に分析し、ポーラでの実践・トライアル&エラーを積み重ねながら、得た知見を社会に提供するのが目的です。
 日本国内の少子高齢化によるマーケット縮小、人手不足、環境問題、長引く新型コロナウイルスの影響など、多くの組織が大なり小なり未来への不安を抱えている中で、「なぜ幸せ?」「まず利益をあげることが先でしょう」と疑問を抱く方もいるかもしれません。私もその厳しさに日々直面している経営者であり、リーダーのひとりです。コロナ禍の最中には「存亡の危機」という言葉が頭をよぎったこともあります。

 その上で、だからこそ今、リーダーは幸せについて考えるべきだと思い至りました。一緒に働く仲間、その家族、そして自分自身を幸せにすることができなかったら、お客さまや社会を幸せにすることができるはずがなく、やがてその組織は社会にとって必要とされなくなってしまいます。つまり、社会の永続的な幸福に貢献できないのなら、企業の永続的な成長もないと私は考えています。

 本書で後ほど詳しく触れますが、幸福度とビジネス上の成果に強い相関があることは様々な研究によって裏付けられています。言い換えるなら、働く人の幸福度が高まれば業績的な成果は後からついてくるのです。

ポーラショップのスタッフはなぜか幸福度が高い

 私たちが研究所をつくってまで、幸せを探求するに至った重要なきっかけとなってくれたのはポーラの事業の最前線にいる約2万5000人のビューティーディレクターたちです。かつて「ポーラレディ」という名で知られたビューティーディレクターたちは、全国に約2700店ある(百貨店は除く)ポーラショップで働く、いわゆる美容部員です。カウンセリング、エステを行い、お客さまにポーラの製品とサービスを届ける美のプロフェッショナルです。
 10代から100歳を超える方まで年齢層は幅広く、多様なバックグラウンドを持つメンバーがチームをつくり、ポーラショップを盛り上げています。全員が個人事業主で、自由な働き方が可能な一方、スキルや収入は個人の努力次第です。つまり実力主義の職場なのですが、アンケート調査を行ったところ、「ポーラのビューティーディレクターは一般の働く女性よりも幸福度が高い」という結果が出ました。私たちにとってもうれしい驚きでした。

 幸福学の研究によれば、美に関わる仕事、人の肌に触れる仕事に携わる人はそもそも幸福度が高い傾向があるそうですが、それに加えて何か秘密があるはずと思いました。そこでビューティーディレクターたちの職場であるポーラショップのチームマネジメントについてさらに調査を行い、チームメンバーの幸福度が高く、かつ成果を出しているチームのリーダーの行動や特徴を分析しました。その結果、導き出されたのが、本書でご紹介する「幸せなチームづくり7か条」です。7つのアプローチのそれぞれが幸福度と生産性にどう関わるかにも踏み込み、統計的な分析も行っています。
 これは企業にとどまらず、あらゆる組織やチームにとって有用なデータだと思います。私たちだけで独占しているのはもったいない、ぜひ日本中に広めたい。本書を紡いだのは、そんな思いに突き動かされてのことです。

 大企業も中小企業も、飲食店や美容院のような個人商店も、人の集団=チームであることに変わりはありません。リーダーもメンバーも幸福に働ける、しかもパフォーマンスが高まるチームマネジメント。言い換えるなら、仲間と働くことの喜びを心の底から味わえるようなチームづくりを模索している方に、ぜひお役立ていただきたいと思います。とりわけ、厳しい経営環境やチームマネジメントの難しさを感じているリーダーの皆さまに、ヒントと明日への活力をお届けしたいと思っています。

 めまぐるしいまでの環境の激変は、これまでの常識をすっかり変えてしまいました。トップダウンのリーダーシップや目先の数字ばかりを重視する成果主義は通用しない時代です。「ならばこれから、何を拠り所にチームづくりをしたらいいのか?」。私自身、経営者としてとことん悩み、模索しました。実のところはまだジタバタと試行錯誤を続けているのですが、共著者の前野マドカさん、ポーラ幸せ研究所のメンバー、ポーラショップの皆さんの多大な協力のもとに、科学的な分析を重ねてたどり着いた「幸せ」というキーワードの力に、今、確かな手ごたえを感じています。

 リーダーの皆さまが、この本を読み終えた後、幸せな気持ちになっていただけることを心より願って、まずは前野マドカさんに幸福学と企業経営との関わりから解説していただきます。


【目次】

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