その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山野千枝さんの『 アトツギベンチャー思考 社長になるまでにやっておく55のこと 』です。

【はじめに】

 同族企業のアトツギにはさまざまなイメージがあります。

「地元に根差した会社の将来の社長候補」「将来の地域のリーダー」になる存在として期待される一方、「ボンボン」「七光」などと呼ばれ、「経営者の家族だからという理由だけで特権がある人」といわれることもあり、その見方は実に多様です。

 私が注目するのは新規事業の担い手としてのアトツギです。

 日本の開業率は国際的に見て低く、なかなか新たなビジネスが定着しません。しかし、同族企業のアトツギが新規事業を立ち上げれば、これをカバーできる面があります。また、家業で新しいビジネスを起こすことが若い世代に魅力的に映れば、今深刻になっている中小企業の廃業を抑えるきっかけになるかもしれません。

 そのための主役となるのがアトツギです。本書はどうしたら家業を円滑に引き継ぎ、さらに新たなビジネスを立ち上げられるかを55の視点から記しています。

ベンチャー型事業承継とは何か

 本書が扱うのは主に「ベンチャー型事業承継」の考え方と進め方です。

 ベンチャー型事業承継とは、同族企業のアトツギが世代交代を機に、先代から受け継いできた有形・無形の経営資源をベースにしながら新規事業、業態転換、新市場参入など、新たな領域に挑戦することを指します。その狙いは、永続的な経営を目指すと同時に、社会に新たな価値を生み出すことです。

 私はこの言葉の提唱者として、アトツギが家業で新しい挑戦を始めるための環境整備に長年取り組んできました。2018年には全国に普及させるため「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を立ち上げ、代表理事を務めています。本書は私にとって初めての著書であり、この分野に携わってきた数十年の経験をもとにしています。

 本書の執筆に当たって特に参考になったのは、全国各地でベンチャー型事業承継を実践するアトツギ経営者100人の声です。

 100人は同社団法人が運営するオンラインコミュニティー「アトツギファースト」で、悩みを抱えるアトツギの相談に乗るメンターを担当してくださっています。業種や規模はさまざまですが、いずれも家業を承継した後、新しい領域に挑戦しています。実現したい未来と目の前の現実との間で葛藤し、孤軍奮闘し、迷走したり逆走したりしながら成果を上げてきた方々です。その経験は私自身学ぶところが多く、これからベンチャー型事業承継を進めたいアトツギに多くのヒントを与えてくれます。改めて謝意をお伝えいたします。

 5章で野村証券、みなと銀行、りそな銀行に、データ編で経済産業省・菊川人吾大臣官房審議官、産業人材課・佐藤公平さん、中小企業庁の皆様にご協力いただき謝意をお伝えします。


 同族企業の事業承継を巡ってはアトツギの不祥事が時々あり、そのたびにアトツギの在り方が問われます。本書がこれからのアトツギの姿を考える上で関係者に示唆を提供できたら、これ以上のことはありません。


 その意味で本書はアトツギだけでなく、先代や同族企業の社員、同族企業と取引している企業の関係者にもぜひ読んでいただき、アトツギや彼らを取り巻く環境への理解を深めていただければと思います。

 本書の内容は日経BPの中堅・中小企業向けの月刊誌「日経トップリーダー」と、同社の電子媒体である「日経ビジネス電子版」に掲載した私のコラムに大幅に加筆しています。これからもベンチャー型事業承継の積極的な広がりに向けて活動し、発信していきます。

2023年10月 山野千枝


【目次】

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