その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小倉広さんの『 コーチングよりも大切な カウンセリングの技術 』です。

【はじめに】

 私は年間300回を超える管理職研修に登壇しています。その中で、受講者である管理職の方の声を聴いていると、多くの方が部下とのコミュニケーションに悩んでいることがわかります。私は同時に、十名弱の会社員の方と契約を結び、定期的に心理療法を行う心理カウンセラーでもあります。彼らの多くもまた不安を抱えています。「テレワークで上司にどう思われているのかわからず不安だ」「自分はチームに迷惑をかけているのではないかと罪悪感がある」、このように悩む方も多いのです。両者の気持ちを聴くほどに、私は職場のコミュニケーションが機能不全を起こしているように感じました。そして、その解決にカウンセリングの技術が有効なのではないかと本書の担当編集者にご相談したところ、ぜひその内容を本にしましょう、と本書の発刊が決まったのです。

 フォーカシング指向心理療法の第一人者である関西大学大学院心理学研究科の池見陽教授の著作『心のメッセージを聴く 実感が語る心理学』(講談社現代新書)の中に次のような興味深い調査結果が書かれています。「上司はカウンセリング・マインドが豊かだ」と思っている部下たちの方が、「上司はカウンセリング・マインドが乏しい」と思っている部下たちに比べて「職場の活性度が高い」と感じる人の割合が17ポイントも高く、1.5倍近い標準得点数値を示している、というのです。

 これまで、職場を活性化させるコミュニケーション手法としてはコーチングが注目されてきました。しかし、コーチングだけでは現代の職場におけるコミュニケーションの機能不全を解決できるとは思えません。VUCAな時代(Volatility変動性、Uncertainty不確実性、Complexity複雑性、Ambiguity曖昧性)と呼ばれる現代は、極めて不確実で先が読めない時代です。

 こんな時、明確なゴールを描き、ゴールに向けて目標達成の手段を描くコーチングでは限界があるように思うのです。そうではなく、先が読めずゴールすら描けないことを認め受け容れ、その上で上司と部下が二人三脚で試行錯誤を重ねていく、カウンセリングこそが求められる時代なのではなかろうか。私は常日頃から、そう強く思っています。

 旧来から職場で使われているティーチング、そして20年ほど前から職場に浸透しつつあるコーチングに加え、新たにカウンセリングの技術が職場に浸透してきたら、きっと社会は変わるに違いない。そのような思いから本書を執筆いたしました。

 理論だけではなかなかピンと来ないカウンセリングの対話をマンガという手法を使ってわかりやすくお伝えしようと試みました。皆さんに少しでもカウンセリング型コミュニケーションの奥深い世界を感じていただければ嬉しく思います。

  2021年7月

小倉 広

【目次】

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