その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は植村信保さんの『 経済価値ベースのソルベンシー規制 生保経営大転換を読む 』。「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
2000年前後に起きた中堅生保の相次ぐ経営破綻について関係者へのインタビューを中心に検証した『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(日本経済新聞出版、2008)を、出版してから早くも15年以上が過ぎた。
終章「破綻から何を学んだのか」で当時の筆者は次のように述べている。
「経営内容の『見える化』が進めば、生保経営は必然的にサープラスの拡大とそのボラティリティの管理を目標としたものに変わらざるをえない」
ここで言う「サープラス」とは、まさに経済価値ベースの純資産のことである。当時すでに金融庁は、中期的には経済価値ベースの健全性規制を導入する方向で検討を始めていた。ところが予想外に検討が長引き、ようやく2025年度末に新たな規制が実現する。
これだけ時間が経ってしまうと、かつての生保危機を当事者として知る人の多くは現役を退いていて、もはや歴史の一コマとなってしまっている。2000年時点には30代前半だった筆者も、すでに50代後半である。しかし、保険分野に限らず、現代社会を理解するうえで、歴史を学ぶことは不可欠であろう。過去の経緯を知らないと、いまどうしてそれがそうなっているのかを理解するのが難しいからである。金融庁が本書で示すような形で新たな規制を導入するのも、ある日突然、そのアイデアが出てきたのではない。かつての生保危機の経験があり、外部環境の影響も受けつつ、その後の試行錯誤を経て、現在に至っている。
筆者はたまたま30代前半から保険アナリストとして生保破綻を間近に観察するとともに、規制策定にも関わっていた。『経営なき破綻』を執筆した後も金融庁(統合リスク管理専門官)やコンサルティング会社、あるいは研究機関で働く者として、保険会社の経営管理・リスク管理や健全性規制のあり方について外部から観察を続け、時には提言を行ってきた。こうした経験を生かし、一般に「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれることの多い新たな規制の本質を示すことが本書の目的である。したがって、本書は新たな規制そのものの詳細な解説書ではない。
第1章の「生保危機から新規制まで」では、『経営なき破綻』を参考にして生保危機の時代を振り返るとともに、なぜ新たな規制の実現にこれほどの時間がかかってしまったのかを探っている。第2章の「経済価値ベースのソルベンシー規制とは」では、新たな規制の内容と心配された「留意点」について筆者独自の視点から解説している。第3章の「新規制とどう向き合うか」では、新たな規制の本質は何か、保険会社は何を求められているのかについて、近年の筆者による研究成果を踏まえつつ示している。加えて、第2章と第3章のおわりには、総合企画室長として生保危機に直面した経験を持ち、2010年からは社長として経営を担っている富国生命保険の米山好映社長と、私の「同志」であり、金融庁の2007年および2020年の有識者会議メンバーを務めたキャピタスコンサルティングの森本祐司代表のインタビューをそれぞれ掲載した。
さらに、巻末には付録として『経営なき破綻』の中核となっている破綻事例の検証(「事例検証 どこで道を誤ったのか」)を掲載した。破綻生保の内部で何が起きていたのかを記録として残すことの意義を理解してくださった編集担当の堀口祐介さんには大変感謝している。
保険業界や保険会社経営に関心を持つ読者の皆さまが、いよいよ導入される「経済価値ベースのソルベンシー規制」の本質を理解するうえで、本書がその一助になれば幸いである。
2024年9月 植村信保
【目次】








