その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は井上潤吾さんの『 BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」 』です。
【はじめに】
昨今は不確実性がさらに増してきた。ロシアとウクライナの戦争、米中対立の激化、トランプ関税、生成AIの登場など、挙げればきりがない。もはや不確実性から逃れることはできず、それは今後も高まっていくに違いない。こうした時代に経営者はどう臨めばよいのだろうか。
何か起きたらその時に考えよう、そう思っている経営者は意外に多い。あるいは、いろいろと考えてはいるが、何か手を打つわけではなく、部下に対応を考えておくよう指示するにとどまる経営者もいる。
しかし、それでは経営者の責任を果たしているとは言えない。最低限の準備はしておくべきだし、何かあればすぐに対応できるように体制を整えておく必要がある。それが経営者の責任であろう。
筆者は、不確実性に対応するには、「分散」「柔軟」「進化」がキーワードだと考えている。企業であれば、1つの予測に固執せず、起こりうる未来を想定して、単一事業への依存から脱却し、複数の事業でポートフォリオを形成してリスクを「分散」する。個人であれば、スキルの習得を中心にキャリア形成を考え、どの企業や他の職種でも通用する実力を身に付けてリスクを「分散」する。
「柔軟」とは、変化や衝撃が起きてもすぐに立て直せる回復力を備え、大規模な長期計画よりも小さく試し、迅速に学んで変化できる俊敏性を身に付け、素早く対応するために異なる視点や専門性を常に包容する多様性を持つことである。
そして、「進化」は、情報の真偽や背景を見極める力をつけ、環境変化とその影響を学習して、たとえネガティブな出来事であっても、それを変革のきっかけにして、よりよい状況を目指すことである。
会社を経営したり、事業を運営したりする際には、必ず課題が存在する。簡単に解決できる課題であればいいが、その会社固有の事情があって解決が難しい、他社を見ても参考にならず、どう解決したらいいか方向性がわからない、そもそも課題の全体像が捉えきれていない、ということが多いと思う。不確実性が増す中、過去のやり方が通用しない複雑な状況も想定される。こうした難しい課題を解くには、紋切り型の課題解決法では歯が立たない。
難しい課題を解くには、まず課題の全体像を理解しながら、検討の流れを組み立てることが肝要だ。例えば、課題に対して、自社が現在どのような状況にあるのかという“立ち位置”を確認し、何を目的(ゴール)にするかを設定し、どのような方針で検討するかを決め、それを踏まえて実現可能な実行計画を策定する、というように。その流れが設計できたら、それぞれの項目、すなわち立ち位置の確認や目的の設定などについて検討する。その際に役立つのが本書で紹介する20の思考ツールである。代表的なものに「構造化」「類型化」「コンテクスト重視」などがある。具体的な説明は本章に譲るが、これらを活用して検討を進めていく。一通りの検討を終えたら、今度は、改めて全体を見渡して、7つの思考要素(Who、Whatなど6W1H)で課題のツボを押さえることで、解決の成功確率を高める。
この思考法は、製造業の世界では一般的な「モジュール化」や、ソフトウェア開発における「マイクロサービス」の仕組みを参考に筆者が独自に開発した。製品やシステムを設計・生産するときに、機能ごとのモジュールに分けて効率や柔軟性を高めるのがモジュール化だ。大規模かつ複雑なソフトウェアを、小さな独立したサービスである「コンポーネント」の集合として構築することによって、開発効率を高め、多様な対応ができるようにするのがマイクロサービスの考え方である。
モジュールやコンポーネントに相当するものが思考ツールで、思考ツールを適切に組み合わせれば、どのような課題も解決できる。その上で、課題の特徴に合わせたツボを押さえれば、メリハリのついた解法が見いだせる。筆者がこの思考法を体系的に考え、有効だと実感したのはコンサルタントになって15年を過ぎた頃である。数多くの現場で、クライアントとともに試行錯誤しながら課題解決に取り組んでいくうちに、いくつかの基本的な思考法が多くの場面で役に立ち、それを組み合わせることで効率的かつ効果的に解決策を見いだせることに気づいた。実際、筆者だけでなく若手の同僚にこれを教えると、彼らの課題解決能力が向上し、成長につながることが見て取れた。
この思考法、言い換えれば「コンサルタントの眼」を習得できれば、およそどのような難題にも成功確率の高い解決法が見つかるはずだ。不確実性が高い時代だからこそ、ぜひ、この思考法を自分のものにしてほしい。
筆者は今年で経営コンサルタント歴30年を迎える。その前は大学院で研究に没頭した後、事業会社で新サービスの開発に従事していた。経営コンサルタントになった当初は、30年も続けるつもりはなく、事業管理や経営の視座を一定程度習得できれば、自身で会社を設立するつもりでいた。それが30年も続けることになったのは、一言で言うと「進化」が楽しかったからだ。
経営コンサルタントは、内外の環境が変化する中で、社会、企業、個人がより良い方向へ変わっていくのを促すことができる職業だ。経営コンサルタントの仕事を説明するのに、「企業のお医者さん」と言うことが多い。言い得て妙の部分はあるが、少し物足りないと思うのは、医者は具合が悪くなった状態を健康に戻すことはあっても、経営コンサルタントのようにさらなる進化(成長)を促すことはない、ということだ。
変化に適応して進化を遂げる企業・組織の支援に長年携わり、その経験の中で培った「コンサルタントの眼」を共有することで、現在、経営に従事している、あるいはこれから経営を志す人の思考や行動の助けになればと思っている。本書を通じて、どれほど難しい経営課題でも解決に導けるように「進化」していただくことが、筆者の願いである。
2025年10月 ボストン コンサルティング グループ
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 井上 潤吾
【目次】


