その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は根本祐二さんの『 インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」(日経プレミアシリーズ) 』です。

【はじめに】

 筆者は、前著『朽ちるインフラ 忍び寄るもうひとつの危機』(日本経済新聞出版社、2011年)において、日本全体でインフラが老朽化しており、近い将来予測されるインフラの事故を未然に防ぐ必要があることを提起した。しかし、残念ながら、その後も老朽化に伴う事故は多く発生しており、特に2025年1月の埼玉県八潮市の道路陥没事故など、国民の生命に直接関わる事故も防げていない。この問題を軽視した末路は本書の序章「2040年の日本崩壊 衝撃の近未来予測」で示す。もちろん、そのような問題の解決を次世代に先送りするような無責任なことをするつもりはない。
 本書は、改めてインフラ老朽化問題を取り上げ、その発生理由や生じている問題、今後の見通しを解説し、解決策の実行方法を提言することを目的としている。予備知識のない方、前著をお読みいただいていない方にもわかるように、体系的に整理した。

 まず、本書におけるインフラという用語の定義を説明する。

 インフラとは、公共施設と土木インフラの総称である。公共施設とは、国や地方公共団体が所有する学校、市役所や町村役場などの庁舎、消防や警察署、学校、公営住宅、公立病院、図書館、公民館などの建築物である。土木インフラとは、道路、橋りょう、トンネル、ダム、水道、下水道、公園、港湾、河川施設、空港、治山治水などである。このほか、廃棄物処理施設、火葬場などのプラントもあり、それらもすべて含めてインフラと呼んでいる。
 日本政府でもインフラを定義している。老朽化問題に初めて対応した「インフラ長寿命化基本計画」(2013年12月政府策定)における「インフラ」という用語、その地方公共団体版行動計画である「公共施設等総合管理計画」(2014年5月総務省指針発表)における「公共施設等」という用語は、いずれも、本書と同様に公共施設と土木インフラの両方を含んだものである。

 インフラの共通点は、コンクリート、金属、プラスチック、木材など、もともと寿命が有限の素材で作られている点である。公共施設や橋、水道管などに寿命があることはわかりやすいだろう。土や石でできた道路は寿命が無限に見えるが、路面を舗装しているアスファルトやコンクリートには寿命がある。インフラは時がたてば次第に機能が劣化し、いずれは何らかの障害が発生することになる。何年使えるかは、インフラの種類ごとに目安が存在する。水道管は40年、下水道管は50年、橋や建築物は60年、道路舗装のアスファルトやコンクリートは15年である。目安の期限を過ぎてもすぐに壊れて使えなくなるわけではないが、壊れる危険性が増すことは間違いない。逆に、目安の期限が来る前に壊れることも珍しくない。
 どのような障害が発生するかはインフラの種類によって異なる。公共施設(建築物)では倒壊、雨漏りなど、道路はひび割れや陥没、橋りょうは崩落、水道管は破裂や断水が生じる。詳細は、第1章の「放置シナリオ」で紹介する。いずれにせよ、インフラ老朽化は国民の生命や生活に甚大な影響を与えかねない問題である。序章で述べる2040年の近未来は、単なる妄想や脅しではない。十分な対策を速やかに講じない限り、実際にそうなってしまいかねない現実なのである。

 そのように恐ろしい状態はなぜ発生したのか。どのように解決すればよいのか。我々日本人は何を変えればよいのか。本書を通じて明らかにしていきたい。

 第1章は、「インフラ老朽化問題はなぜ起きたのか」として、問題の本質と理由を述べる。わが国でのインフラ整備は、1970年前後の高度経済成長期を頂点として、その後急速に減少するピラミッド型で行われたこと、今後、老朽化インフラを更新するためには再度ピラミッド型の公共投資が必要であるにもかかわらず、その財源がないことを明らかにする。数字の目安として、高度成長期の公共投資が名目GDP(国内総生産)の約10%であったのに対して現在は約5%であることから、おおまかには現在の半分のインフラしか維持できないことを示す。

 第2章は、「インフラは今どのような状態なのか」として、インフラの必要性を種類別に述べる。ほぼすべてのインフラは法律に基づいていること、一方、単純に更新することができない以上、何らかの工夫が必要であることを説明している。また、公共施設の中の子育て・福祉・医療分野などでは、国全体の保険や補助制度が充実しており、民間(社会福祉法人、医療法人など)が設置しているものが多いこと、一方、土木インフラは、国または地方公共団体が責任を負っていることを明らかにする。

 第3章は、「インフラ老朽化問題の解決方法」として、具体的な解決方法を体系的に整理する。「施設と機能の分離」が可能な公共施設については、「機能を維持して量を削減する方法」である広域化、ソフト化、集約化、共用化、多機能化を提示する。一方、量を削減すると機能に影響する土木インフラについては、「量を維持して費用を削減する方法」が有効であること、また、両者に共通の処方箋として、「施設やネットワークを使わない方法」「サービスの受け手が移動する方法」「収入を増やす方法」を紹介する。

 第4章は、「『省インフラ』でインフラを持続させる」として、第3章で示した解決策の実行方法を示す。省インフラは、「インフラの負担を最大限削減しつつ、インフラが提供している公共サービスを持続させる方法・技術・製品・サービス」を総称する造語である。省インフラをすべて実施すれば半分の予算でもインフラの役割を維持できること、省インフラは省エネルギー同様に新しい産業を興して日本経済を成長させ、海外のインフラ老朽化問題の解決を通じた国際貢献も可能なコンセプトでもあること、ただし、無理な我慢ではなく自然に実現するために、文化(カルチャー)として定着させる必要があることを述べる。

 第5章は、「選択と集中を行うコンパクトシティへの転換」として、省インフラ後の世界をシミュレーションする。全国各地に人口1万人ごとに1万カ所の拠点を設置しインフラ機能の選択と集中を行うことで、地域の経済社会を維持しつつインフラも持続可能にできるというのが結論だ。また、合意形成にあたっては、「全体計画の提示」「基準の合理性」「適用の公平性」の3原則が必要であることを示すとともに、具体的な方法として、「公共ROA」「標準原単位方式」「東洋大学式デリバレイティブ・ポリング」を紹介する。
 インフラ老朽化問題に危機感をお持ちの方には、それぞれの立場でぜひ「省インフラ」の実現に力を発揮していただきたい。本書がそのお役に立てば幸いである。

 なお、筆者は現在、東洋大学国際PPP研究所において、インフラ関連の民間企業や地方公共団体の有志にお集まりいただいて任意団体「省インフラ研究会」を主宰している。本書で展開している議論の多くは同研究会で発表し、メンバーから様々な助言を頂戴したものである。また、日経BPの小谷雅俊氏には、前著に引き続き企画から発行まで粘り強く支援していただいた。この場を借りてお礼を申し上げたい。
 最後に、教員退官後にもかかわらず、早朝から執筆に励む筆者の健康と生活を支え続けてくれた妻にも心から感謝するものである。

  2025年10月

根本 祐二

【目次】

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