その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は佐藤 一郎さんの『 2030 次世代AI 日本の勝ち筋 』です。

【はじめに】

 本書では、2030年を見据え、筆者が想像、予測した将来の生成AIの活用を数多く紹介します。現時点で実現できていない活用も含まれますが、読者の皆さんが、生成AIのポテンシャルを生かした活用の可能性を見いだすきっかけとなれば幸いです。執筆に当たってはAIの専門技術についてはできるだけ平易に解説し、幅広い読者層に読んでいただけるよう配慮しました。

 本書の内容について、簡単に紹介させてください。生成AIの急速な普及については、いまさら説明の必要はないでしょう。まず第1章では、生成AIを中心としたAIの動向について概説します。AIに詳しい方は読み飛ばして構いません。

 第2章ではChatGPTなどの文章生成AIの活用について概説します。しかし、ビジネスにおける生成AIの活用の多くは、文章の作成や要約といったごく限られた領域にとどまっています。さらに、生産性向上のために導入したはずが、結果として生産性を下げている企業は珍しくありません。第2章は生成AI活用としてはうまくいっていない事例に関する課題解説が多くなっていますが、これは第3章以降につなげるためです。

 「AIエージェント」というキーワードが流行しています。筆者はITの流行語には慎重な立場ですが、本書ではあえてAIエージェントを取り上げます。というのは世の中にはAIエージェントの解説・論考があふれていますが、その大半が自社の業務効率化という一人称の視点のみに閉じており、さらに技術の実状と乖離(かいり)しているからです。第3章ではAIエージェントの現状を分析した後、取引先や消費者がAIエージェントを導入したとき、企業に与える影響とその対策を概説します。AIエージェントのまったく違う一面が見えてくるはずです。

 将来の生成AIの活用法を考えるとき、「生成AI単体で何ができるか」を考えがちですが、他の技術と組み合わせることで、その可能性は大きく広がります。第4章では、生成AIと音声入出力AIの組み合わせを取り上げ、いわゆるブルーカラーの現場における活用例を紹介します。生成AIと音声入出力AIの組み合わせというと、議事録作成などを思い出されるかもしれませんが、むしろスマートフォンを含む機器の使い方、デザインを変え、さらに企業の業務および業務システムも変えていきます。

 そもそも生成AIは非常に強力な技術です。その本来のポテンシャルを理解すれば、まったく異なる活用の方向性が見えてきます。そのひとつは生成AIによるデータ合成です。ビッグデータが注目された時代には、実データを保有することが企業の競争力になるとされてきました。しかし、生成AIの登場により、不足するデータを合成できるようになります。つまり、データは「集める時代」から「合成する時代」へと変わり、企業はデータ戦略の変革が求められます。これは第5章で解説していきます。

 また、生成AIは「未来予測装置」にもなりえます。この特性を積極的に活かすことで、生成AIの新しい活用を切り開けます。さらに科学の在り方に影響を与える可能性まであります。詳しくは第5章9節を御覧下さい。筆者の生成AIに対する関心事もそこにあります。

 そして最後の第6章では、生成AIを中心としたAI活用がいかにして「日本の勝ち筋」となりえるかについて、筆者なりの方策をいくつか紹介します。そのうちのひとつの要点を挙げれば、AIはビジネスにおける様々な業務の手段である以上、重要なのは「どんなAIを作るか」ではなく、「AIをどう生かして新しい業務の仕組みを作るか」です。優れた業務の仕組みがあれば、その業務の仕方を導入することで、企業の競争力は高まります。そして、その業務の仕方を支えるAIは日本だけでなく、世界に広がることになります。

 本書の読み方ですが、章間の依存性はありますが、どの章からも読めるように配慮しました。まずは日本の勝ち筋が知りたい方は第6章から、生成AIの斬新な活用に興味がある方は第5章から、ブルーカラーの業務改善に関わる方は第4章から、AIエージェントによる影響に関心がある方は第3章から、生成AI活用の実状と課題に興味がある方は第2章からでも構いません。

 あわせてコラムを多く掲載しました。本文はコラムに依存しておらず、興味のあるコラムだけを拾い読みいただいても構いません。
 なお、本書では画像生成AIなども扱うため、文章を対象とするものを「言語生成AI」と表記し、「生成AI」と記す場合は言語・画像を含む広義の生成AIを指します。しばしば「LLM(大規模言語モデル)」と呼ばれるものもありますが、LLMは生成AIそのものではなく、言語用の基盤モデルを意味するため、本書ではLLMと言語生成AIを区別して表記します。

 ところで筆者の前著『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ、2023年)は、生成AIが社会に与える「影響」を中心にまとめたものでした。一方、本書は生成AIの「活用」に焦点を当て、生成AIの潜在力を生かした展望を提示します。両書は独立して読めますが、生成AIの影響に関心のある方は、あわせてご覧いただけると幸いです。

【目次】

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