その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はミレイユ・ジュリアーノ(著)、羽田詩津子(訳)の『 フランス人はなぜ好きなものを食べて太らないのか 』です。
【はじめに】
フランス女性は太らない
年に三〇〇回の外食でも太らない
フランス文化における、ある驚異の事実を、おそらくみなさんはご存じないだろう。すなわち「フランス女性は太らない」ということである。
わたしは医者でも生理学者でも心理学者でも栄養学者でもない。だが、フランスで生まれ育ち、鋭い目で、生涯にわたってフランス人を観察してきた。さらに、食欲旺盛だ。どんな規則にも例外はあるが、大半のフランス女性はわたしのように大食漢である。つまり、好きなだけ食べ、太らないのだ。それはなぜだろう?
進化の過程で、ほっそりした女性の遺伝子が新たに作られたのだろうか? そうではないと思う。フランス女性はある手法──磨き上げられたコツ──を会得しているのだ。
わたしは生まれたときからそれを仕込まれ、子供時代も一〇代のときも、母に教えられたことのおかげで幸福に過ごしたが、思春期のある一時期、その働きが停止したことがあった。交換留学生としてアメリカで過ごしたとき、まったく思いもかけない不幸に見舞われたのだ。体重一〇キロ増加という不幸だ。幸い、助力を得ることができた。いまだにドクター・奇跡(ミラクル)と呼んでいるかかりつけの医者のおかげだ。彼は代々受けつがれているフランスの食習慣の英知をわたしに改めて認識させ、以前の体型をとりもどさせてくれた。
現在、わたしはほとんどアメリカで暮らし、仕事をしている(アメリカ人であることとフランス人であることの最良の部分を体現していると信じている)。大学卒業後数年してアメリカに渡って、国連の通訳として働き、さらにフランス政府のために、フランスの食べ物とワインを宣伝する仕事をした。やがて、すばらしいアメリカ人と結婚して、ついに共同生活というものを知ることになった。
一九八四年に、それ以降、ふたつの文化のはざまで生きることになる転機があった。一七七二年に設立された由緒あるシャンパーニュ・メゾン(シャンパンの生産・販売会社)ヴーヴ・クリコが、ヴーヴ・クリコのシャンパンと他のすばらしいワインを販売するために、アメリカに子会社を作るという英断を下したのだ。まもなく、初期の従業員だったわたしは、一八六六年に亡くなったマダム・クリコ以来、社内でもっとも地位の高い女性になった。現在は高級品のLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ)の傘下に入ったヴーヴ・クリコの米国現地法人クリコの最高経営責任者(CEO)であり、モエ・ヘネシーの役員を兼任している(二〇〇四年当時。現在は退職して文筆業)。
そのあいだじゅう、わたしは大半のフランス女性が自然にやっていることを実践してきた。しかも、長年にわたって通常では考えられないような危険に直面していた。大げさではなく、レストランで年に三〇〇回ぐらい食事することを仕事上求められるのだ。わたしはそれを二〇年間こなしてきて、常にかたわらにはワインかシャンパンのグラスがあった。しかもフルコースの食事だ。わたしだけチコリのサラダと微発泡のミネラルウォーターという簡単な食事ですますわけにはいかない。それでも繰り返しておこう。わたしは太りすぎでも不健康でもない。この本では、わたしがいかにそれをやり遂げたか、さらに重要なのは、あなたもいかにやり遂げることができるかを解説するつもりである。その前にまず、意外な事実を申し上げておこう。過激で苦しいダイエットをしても、半数以上の女性が、安定した健康的な体重を維持することができないということだ。
過激なダイエットは続かない
アメリカの大半のダイエット本は過激なプログラムにのっとっている。かたやフランスでは、過激主義は流行(はや)らなかった。アメリカでは異なった哲学、すなわち、てっとりばやい解決策や極端な方策に惹かれる傾向がある。そういうダイエットは一時的には効果があるが、一生続けられるものではない。現実感を失い、本来の姿を見失い、自分の摂取カロリーがわからなくなってしまう。だからこそ、どうかよく聞いてほしい! ダイエット本を捨てなさい! イデオロギーも技術も必要ではない。必要なのは、フランス女性が身につけているものだ。つまり長年にわたって実証されてきた食べ物と生活に対するバランスのとれた関わり方なのだ。
最後にとどめの一撃として、こうした過激なプログラムは代謝の個人的な特質を無視している、ということを強調しておく。大半が男性によって書かれているので、女性の生理機能が男性とまったく異なることをほとんど認識していないのである。さらに女性の代謝は時とともに変化する。体重を減らすべき二五歳の女性は、五〇歳の女性とは異なる課題に直面するのだ。
わたしの話と教訓は誰にでも役立つものだが、この本は女性としての経験に基づき、おもに女性向けに書かれている。アメリカ女性だけではなく、仕事のプレッシャー、個人的ストレス、グローバリゼーション、二一世紀社会のありとあらゆる落とし穴に直面する先進国の女性たちに向けたものだ。具体的にいうと、人口の大きな割合を占めている、体重を一キロから一〇キロ落とす必要のある女性たちに語りかけている。それでも、この本はすべての年代の人々に役立つはずだし、それぞれが人生のさまざまな時期にあうように調整していただければと思う。具体的には生活に対する総合的なアプローチと、一人ひとりが自分にあわせて作っていく戦略と哲学を提案したい。さらに誰でも実践できるメニューと簡単なレシピをご紹介しよう。それらは、いかに行動するかの指針となるだろう。
鍵は「自分をだますこと」
さて、フランス女性の秘密とは何なのか? すべての中年女性が二五歳のスタイルのまま、パリの大通りをそぞろ歩いていることをどう説明するのか?
まず最初に、フランス女性は、多くのアメリカ女性を悩ませている「体重」にやたらに怯えないということを申し上げておこう。アメリカのカクテルパーティーで耳にしたダイエットについての話題はどれもこれも、フランス女性の眉をひそめさせるものだった。フランスでは、初対面の相手とは「ダイエット」について話題にすることは絶対にない。
フランス女性はたっぷり食べていても、ほっそりした体型を保つことに喜びを感じる。かたや典型的なアメリカ女性は食べることを闘争とみなし、克服することに執念を燃やす。フランス女性は食事を抜いたり、食事代わりにやせる飲み物ですますことはしない。昼食には二、三品の料理を食べ、夕食にはさらに三品(ときには四品)の食事をとる。もちろん、ワインといっしょに。どうしたらそういうことができるのか?
そう、それがこれからお話ししたいことなのである。ヒントをひとつ。彼女たちは頭を使って食べるので、食べすぎたとか、うしろめたいとか感じながらテーブルを立つことはないのだ。
「より少なく」が、「より豊か」になりうることを知り、節制しながら何でも食べることができる方法を発見すること、それが鍵である。さらに摂取するカロリーに比例して、それ以上に大量の水を飲むことが大切だ。もはや炭鉱や農場で一日に一八時間労働することはないし、石器時代の採集狩猟生活は遠い過去の話だ。それでも、大半のアメリカ人は、生きるためではなく心理的な飢餓感を満たすために、必要とされる量よりも少なくとも一〇パーセントから三〇パーセント多く食べている。
大切なのは、自分の食欲を管理し、満足させること。その一方で、いかにして、いつ、何を減らすかを決めなくてはならない。新しいメニューを導入すれば、すばらしい満足感を味わえるだろう──たとえ全体的な摂取量は減ったとしても、喜びは増す──それによって、健康的な道を進んでいこうという意欲がわいてくるはずだ。このためには、もっとも基本的なフランスのルールを学ぶだけでいい。すなわち、「自分をだますこと」である。
多くの栄養学者はきわめて常識的なやり方を推奨しているくせに、それをいかに実践するかを教えるとなると莫大な料金を要求する。ではフランス女性の秘訣を実践するためには、どのぐらいのコストがかかるのだろう? コストの基準に照らせば、ごくわずかだ。わたしの手法は、文字どおりあらゆる女性の収入の範囲におさまっている。唯一の道具は、きわめて重要な最初の三カ月のあいだ、食べ物を量るための小さな秤(はかり)だけだ。もしわたしのプログラムにおいて重要な要素である「本物のヨーグルト」を食べたければ、ヨーグルトメーカーを買ってもいいかもしれない。さらに年齢が四〇歳を過ぎているなら、体力増強のためにダンベルを購入するべきだろう。それですべてである。
わたしはフランスで子供時代を送り、その後、若い女性のご多分にもれず体重と闘う経験をした。初めての肉体的な警告を受けて、わたしは伝統的なフランスの手法に助けを求めた。すなわち食べ物だけではなく、健康的な生活への「総合的なアプローチ」である。それを参考に、すべての読者に各自の「バランス」を見つけてほしいと思っている。そのまま実践できるような手法を提案するつもりだが、ひな型のような手法は紹介するつもりはない。すべてをあなたの好みによって、自分自身の肉体、スケジュール、環境、その他独自の個性を考慮し、変えてほしい。ここで強調したいのは、簡便さ、柔軟性、自分で実践することによる見返りだ。こうした微調整は、会ったこともない本の著者には決してできないものだ。
それでは、わたしが思春期の崩壊状態から抜けだすために頼り、その後何十年にもわたって効果を発揮し、役立ってきた手法をご紹介しよう。それが、あなたに手がかりを与えられたらうれしい。以下はひとつの完全なプログラムである。
第一段階 警報。昔から行われていることだが、三週間分の食べ物の一覧表を作る。食べているものをしっかりと眺める。それだけで、たった二日後には変化が表れてくる。
第二段階 体質改善。食べ物の正体を見極め、一時的にいくつかの食べ物の「犯人」を棚上げする。これには通常三カ月かかるが、一カ月で効果を発揮する場合もある。これは食事療法の訓練キャンプではなく、あなたの肉体を調整するチャンスにすぎない。規律はあるものの、この大きな動機づけの段階では、柔軟性がきわめて重要である。食事と活動の両面でいつものやり方を見直し、量よりも質を重視することが大切だ。続けて三日間ピザを食べるのはよくないが、土曜日にジムで三時間過ごすこともお勧めしない。五感で新しい食事習慣(ガストロノミー=フランス語になる以前に、ギリシャ語で、「胃の規則」という意味だった)に順応しよう。
三カ月は短くないが、二度とする必要がないことに取り組むには長すぎる期間ではない。当然、多くの過激なダイエットが提唱している三・五キロの水分を排出するよりも、体のダイヤルをリセットするほうが時間がかかる。しかし、フランス流のやり方なので、楽しみはどっさり味わえるだろう。
第三段階 安定化。あなたの食べたいものすべてが、適正な基準で再び食べられるようになる。あなたはすでに「バランス」をとりもどしていて、少なくとも体重減少の目標達成まで道半ばにさしかかっているはずだ。驚くべきことに、この時点で、好物をたくさん食べても体重の減少は続くし、すでに「バランス」のとれた状態にあればそれを維持することができる。
旬のものを食べること、そしてスパイスを利用することをぜひ実践していただきたい。これは強力な手段であり、想像されるほど手間はかからない。さらに、ひとつのテーマについて、フランスの技巧を凝らしたさまざまな種類のレシピをご紹介しよう。また、ひとつの料理からおいしくて簡単な別の三皿の料理を作り、時間とお金とカロリーを節約する方法もお教えしたい。
第四段階 その後の生涯。目標体重になり、安定したバランスを手に入れる。そうしたら、あとはただ改良していくだけだ。自分自身の肉体について熟知すれば、予想外の流れで何が起ころうとも、とりわけ、新たな人生の段階に入るときにも、どう修正したらいいかを心得ているはずだ。今やあなたの食生活の習慣は自分自身の嗜好と代謝にあわせて作られているので、古典的なシャネルのスーツのように、わずかな手直しをすれば一生涯役に立つ。今後はまったくちがう観点から食べることになるだろう。フランス女性に比肩する直感力も発揮できるはずだ。すなわち、新鮮さや香りを大切にし、盛りつけ、色、とりあわせが与えてくれる感覚的な喜びの世界への扉を開くだろう。そして、罰のためではなく、喜びのために行動するようになり、ディナーといっしょにグラス一杯のワインやチョコレートを楽しむことだろう。
栄養はもちろん重要であるが、健康的な生活は楽しくなければならないと思う。食べ物に関しては、極端な方法は必要ではない(肉体的に、感情的に、知的に、精神的に、経済的に)──ただバランス感覚だけが必要だ。そこには、わたしがフランス流の「禅」と呼ぶ要素が含まれている。それは短期間に簡単に学べるもので、どこででも実践できる。フランス人でさえ、人生は食べることだけではないと承知しているし、あなたもフランス人には他の気晴らしがあることを発見するだろう。たとえば愛や笑いだ。今こそ、「健康な精神は健康な体に宿る」というモンテーニュの洞察がこれまでになく意義があるとしっかり認識することが重要である。精神と体両方の健康を維持していくために、人生の喜び(ジヨワ・ドウ・ヴイーヴル)にまさるものはない。
さて、話を始めよう。
【目次】




