その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野中郁次郎さんの『 経営管理(日経文庫) 』です。

【まえがき】

 経営管理論は、日常何らかの組織にかかわりをもっている私たちにとって、最も関連の深い学問です。それは基礎学問と同様に、経営現象についての理論化を志すとともに、経営管理の実践についての示唆も与えなければなりません。「よい理論ほど実際に役に立つものはない」というクルト・レヴィンのことばがあります。おそらく経営管理論は、このようなことが最も要請される学問領域でしょう。

 しかし、経営管理は理論化の可能性を越えて、人間の直観や洞察を必要とする研究対象でもあります。事実、経営管理論の発展は、実務家の革新から端を発し、学者が後からそれを理論づけるというプロセスから生まれることも多かったのです。しかし、最近では基礎学問の進歩とともに経営管理の理論化も進み、理論と実践の相互作用の中から豊かな内容の経営管理論ができあがりつつあります。私は本書でその内容の一端を紹介することに心がけました。

 経営管理論は、たとえば経済学の約二百年の伝統に比べれば、まだたかだか百年足らずの新しい学問なので、現在でも日進月歩で絶えず新しい理論が誕生している状態です。したがって、本書でも少なくともこれから五年間は古くならない内容を盛ろうと努めました。このため、私なりのアプローチをとり、多少の新鮮味をだそうと心がけました。小冊子ですが、個々のテーマについても、かなり突っ込んだ議論をしたつもりです。学生諸君にとって本書がきっかけとなって、より深い経営管理の研究へと動機づけられ、また、現実の経営管理にたずさわっている実務家の方々には、経営管理の理論の面白さを伝えることができ、日常の経営現象への新しい洞察にいささかでも貢献ができれば、これにすぐる喜びはありません。

 本書は私にとって初めて書きおろした入門書です。このため、執筆中これほど苦労したことはありませんでした。なんとかまとめることができたのは、多くの人々のご尽力に負っています。慶応義塾大学の奥村昭博氏、一橋大学の榊原清則氏、防衛大学校の鎌田伸一氏は、私の原稿を一字一句読んで、さまざまな示唆と改善点を与えてくれました。ハーバード経営大学院竹内弘高氏、同大学院留学中の神戸大学加護野忠男氏は、貴重な資料と情報を送ってくれました。防衛大学校管理学二四期の私のゼミ生一二名の諸君、私の授業に参加した管理学と理工学専攻の諸君、彼らとの真撃な議論から多くのアイデアを得ました。原稿の清書と資料の整理については、社会科学教室事務室の皆さんのご支援を得ました。私の妻も「もっとやさしくならないの」といいながら、私の文章を読みやすくしてくれました。最後に私に入門書を書かせるというリスクをあえておかし、絶えず激励してくれた日本経済新聞社の黒沢綏武氏。これらの人々のおかげで、できあがりました。心からお礼をいいたいと思います。

一九八〇年四月  野中 郁次郎


【目次】

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