その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は岩谷直幸、ミケーレ・ラヴィショーニ編著の『 マッキンゼー 未来をつくる経営 日本企業の底力を引き出す 』です。

【はじめに】

 エベレスト登山に例えた挿話で、この本の趣旨を最初に示したい。

「征服するのは山ではなく、自分自身である」

(エドモンド・ヒラリー)


 世界最高峰のエベレスト山は、海抜約8848メートルを誇る雄大な山である。多くの登山家が何年もかけて心と体を鍛え抜いて挑むも、登頂に成功するのはほんの一握りだ。1953年にエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイが初めて登頂に成功して以来、その後に続いたのはわずか5000人ほどである。

 エベレストでは頂上に近づくにつれ、登頂成功の難度が上がる。最終キャンプから山頂までのトレイルは「デスゾーン」と呼ばれ、薄い空気と過酷な天候が意識混濁や幻覚を伴う身体への深刻なダメージを引き起こす。しかし、その困難を乗り越えた精鋭たちには、魔法のような瞬間が待っている。登山家たちはこの瞬間に、文字どおり世界の頂点に立つのだ。

 「成功するかしないかは、重要ではありません」と、エベレスト登頂の経験を持つ登山家は語る。「山頂は、山のごく小さな一部にすぎません。自然の美しさや遭遇する奇跡のほとんどは、頂上までの過程で体験できるものだからです」

 世界には多くの美しい山々、見たこともない景色が存在する。

 本書を手にとった皆さんにはぜひ新たな高みを、エベレストを目指していただきたい。それはなぜか。CEOや経営チームメンバーが企業や社会に与える影響はとても大きい。リーダーシップとして高みを目指す過程からは非常に有益な学びが得られ、それは企業と社会にポジティブな効果をもたらす。

 富士山のように3000メートルを超える山を登る目標も十分に挑戦的であるし、そのなかで得られる学びや達成感は素晴らしい。

 しかしながらグローバルな市場を見据え、そこでの大きな競争力と存在感の向上を真剣に目指すことは、さらなる高みへ、未来へ続く道を切り拓くことにつながる。

 リーダーの皆さんはより高い目標を持つことによって、今まで見たことのない素晴らしい景色を目にすることになるだろう。

 その進化や変革の過程そのものから別次元の学びを獲得し、企業と社会に多大なる影響を及ぼすものとなる。

 この未来をつくる経営こそが、今の日本に求められている。

 日本経済や、企業の経営においても、現状に満足せず、一見達成不可能と思えるような挑戦的な目標を掲げ、目標達成を目指すプロセスで得られるものこそ、リーダーや組織の飛躍的な成長につながり、次世代に、より多様性に富み、持続可能な社会を渡していくことが可能になるのではないか。

 そこで本書だが、日本発の企業がグローバルでの競争力を高めて存在感を高めるために直面する共通の課題を明らかにしたうえで、マッキンゼーのこれまでの活動を通じて得た学びや、解決に向けたアプローチをまとめたものである。そのなかで、日本での活動を通じて蓄積された知見にとどまらず、われわれが全世界で行っている最新の調査や分析の結果なども紹介している。また、グローバルの視点と日本の視点を統合して、本書を執筆するために、我々もグローカル(Global+Local)チームであたった。

 第1章では、日本発のグローバル企業が世界規模で成長することの意味を提示し、加えて、包摂性に富み、かつ持続可能な社会における企業の役割について考察した。

 第2章では、同章以降の内容への理解を深めるために、まず日本発グローバル企業の特徴を日本の風土・文化的な観点から整理し、特に日本企業として独自性を活かす方法と、あわせてグローバル企業として省察すべき点をまとめた。続いて、現在の日本企業の経営における重点テーマに絞って、マッキンゼーの知見を紹介している。

 第3章で企業価値の向上に向けた要件を整理し、第4章では最新のデータドリブン経営のアプローチを紹介する。そして第5章では、企業を構成する組織と人材についての考え方、経営者が取り組むべき組織や人材改革の手法も提案した。

 そして最後の章で、グローバル企業の優れたCEOから得られた学びを紹介し、今後の日本発グローバル企業としての成功に向けた要諦を提示している。

 もしあなたが現在のCEOや経営チームメンバーとして、もしくは将来のCEOや経営チームメンバーとして、世界の最高峰に挑戦するなら、情熱や志にあふれたその旅路を心から応援したいと思う。

 日本発グローバル企業の持つポテンシャル、そしてその企業がステークホルダーや日本に、そして世界にもたらす価値や成果はとても高い。日本企業にはまだまだ多くの優れたアイデア、商品やサービス、勤勉で優秀な人材、日の目を見ていない技術など、たくさんの資産が活かされきれずに眠っていると信じている。大変、もったいない。

 いまこそ、日本企業は自らの高い可能性を信じ、同時に強い危機感を持ちながら、挑戦的な目標を掲げて、次の進化を目指した旅路に漕ぎ出すときである。読者の皆さん一人ひとりの強い想いと挑戦が、日本およびグローバルで多彩な仲間の輪を広げ、いままで見たこともない絶景を見ること、そしてその過程でより良い未来を築いていくための学びを得ることを可能にすると、マッキンゼーは強く信じている。

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示