その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は鈴木貴博さんの『 戦略思考トレーニング(日経文庫) 』です。
【はじめに】
経営戦略論はいまやビジネスマンにとっての常識です。でもいい戦略で成長する会社が全体のごく一部なのはなぜでしょう?
それは戦略を立案し決定する力に個人差が大きいからです。
そして、その個人差は、結果的に企業戦略の差、ひいては企業業績の差として現れます。
このように言うと、よくある経営者からの反応は、
「うちのスタッフには、いい戦略を立案する能力が足りない」
というものです。逆にスタッフに聞くと、
「うちの経営陣は、いい戦略を決断する能力が足りない」
などと嘆いたりします。これはどちらも問題です。
いい戦略を立てるためにも、いい戦略を決めるためにも、実はいい戦略思考力が必要です。
戦略論の教科書がたくさん書店に並ぶようになってきた結果、戦略の立て方は日本のビジネスマンの間にもかなり浸透してきました。けれども、肝心の戦略を立てたり決めたりする際の思考力の鍛え方がまだわかっていない人が多いのです。
サッカーの戦略理論はわかっても、フィールドの中で頭を働かせ周囲を見回しながらプレーするのは違うことですよね。それと同じで戦略的に行動するには頭の使い方を訓練する必要があるのです。
さて、サッカーの場合の戦略思考力とは視野の広さやチームメンバーの身体能力の把握、仲間の動きを見ての瞬間的な判断力などが重要ですが、ビジネスの戦略思考力の場合は何が重要なのでしょうか? いくつかポイントがあるのですが、それを説明する前にまずトレーニング問題を一問解いてみましょう。
(次のページをめくる前に、なぜこのように矛盾した現象が起きているのか、原因を考えてみてください)
■小型犬ブームが起きた
21世紀に入った当初、レトリバーとかシベリアンハスキーといった大型犬ブームがありました。そのブームが一巡して、今ではチワワやミニチュアダックスフントのように家の中で飼える小型犬が売れています。いくらペットの頭数が増えても、あれだけ体格が違うと食べる量が10分の1以下と全然違うのです。そのような構造変化が起きたからドッグフード業界では販売数量を増やすのではなく、高級化でなんとか乗り切ろうとしているのです。
さて、この問題を解けた人も解けなかった人もいると思いますが、この問題から戦略思考力とは何なのかを紐解いてみましょう。
「この問題の答を知っていた」という人以外でこの問題の解答にたどり着けた人は、以下のいくつかの力を併せ持っていたはずです。
ひとつは常識を超える力。正解にたどり着けなかった多くの方が「顧客数が激増しているのに売上高が減少するなどありえない」という固定観念にとらわれてしまったのではないでしょうか。解答を見ればそんなことはないことが後からわかるのですが、それではだめですね。問題文を読んだ段階で自分の頭の中の常識を疑ってみないと、正解にはたどり着けません。
2つ目に論理思考力。これは左脳が強い人の能力です。具体的には「売上高が減っている」と聞いたときに即座に、
売上高=顧客数×単価×購入量×購入頻度
といった計算式を頭に浮かべる力です。そして問題文の「顧客数が増えているのに売上高が減っている」という前提を聞いて、「それなら単価が下がっているのか、ないしは購入量が減っているはずだ」と解決の糸口を見つける能力です。
3つ目に柔軟な発想力が必要です。論理思考で購入量が減っているのではという糸口を見つけても、まだ正解にはたどり着けません。購入量が減った原因が小型犬ブームだという発想力が伴わないと、構造はわかっても理由がわからないのです。
4つ目に事例をたくさん知っているということも重要かもしれません。常識に反するこんな事例があったということを知っているだけで、別の常識に反する現象につきあたったときにも、似たようなメカニズムが働いているのかもしれないという思考を働かせることができるようになります。
このように常識を超える力、論理思考力、柔軟な発想力、たくさんの事例についての知識といったものを併せ持つことが高い戦略思考力につながります。そして経営戦略についてのフレームワークを理解しただけでは、これらの力の訓練にはなりません。経営戦略を知っているだけでは、戦略思考のビジネスセンスは高まらないのです。
この本は常識的で優秀なビジネスマンの皆さんが毎日の隙間時間に、普段とは違う発想をしながら戦略思考を鍛える訓練を行えるように作られています。問題数は全部で51問。常識を超えた戦略的発想の実例を集めてクイズ形式のトレーニングにしてみました。
ひとつひとつの問題はわかりやすいものばかりなので、さっと読んで戦略思考力を確認することができます。それではもったいないという方は、週5日、毎日1問ずつ思考力を鍛えていけば2カ月以上、じっくりと戦略思考の訓練を続けることができます。
さらに問題を解き終わったら、ひとつひとつの問題が後々、新しいビジネスアイデアにつながる知識にもなるような題材を集めています。ですから事例として記憶することでも戦略を作る際に役に立つはずです。
さあ、通勤電車の中で、ランチタイムの間に、デートの待ち時間に、この本を開いて、戦略思考のトレーニングに挑戦してみましょう。
【目次】



