その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は西谷洋介さんの『 ポーターを読む(日経文庫) 』です。

【はじめに】

 マネジメント分野で影響力のある思想家のリストを挙げると、マイケル・ボーターがその筆頭に近い位置にいることは間違いないでしょう。企業の競争戦略についての参考書のリストには、かなりの確率でポーターの「競争の戦略』(ダイヤモンド社、原題 Competitive Strategy)が入っているはずです。

 『競争の戦略』は一九八〇年にアメリカで出版されたポーターの最初の主著ですが、日本語版が出版された一九八二年にはすでに企業戦略の分野での必須文献という地位を確立しています。日本語版の序文で「アメリカの有名企業の社長室の書棚には、必ずといってよいほど、この本が並んで」いると、ポーター自ら記しているように、実務家にも大きな影響を与えています。そして、出版から四半世紀を過ぎてもなお、基本文献としての地位を保ち続けています。

 ポーターのその他の主要著作も出版後相当な日時を経ていますが、引き続き各分野での必須文献としての地位を保っています。理論的な背骨をしっかりと通したうえで幅広い状況に適用可能な原則を述べるというスタイルを、ボーターの著作がとっているからこそ、多くの人に価値を認められ続けているのでしょう。

 いま、改めて、ポーターを読むことの意味はどこにあるのでしょうか。もちろん、経営学を勉強しようという学生やこれまでポーターに触れたことのない実務者の方が、ボーターの考え方の基本を理解するというのは本書の重要な目標です。企業や国がどのようにして競争力を維持向上させていくかという、基本的な問題について考えるうえで、ボーターの考えを学ぶことは必須でしょう。こうした「初めてのポーター」とも言うべき入門書としての役割を果たすことは、この本の一つの狙いです。

 同時に、ボーターの考えの概略はわかっているよ、という方にも、もう一度ポーターを手がかりに戦略を考えていただくきっかけを提供したいという狙いもあります。

 ポーターは、各企業が独自の戦略をとることを推奨しています。独自の戦略をとるためには、人任せでなく自分の目で顧客や競争の現実を見る必要があります。ところが、多くの企業において戦略がどのような根拠で組み立てられているかをよく見てみると、実際には、業界関係者や世間一般、マスコミが言っていることに依存していることが多々あります。本来は、顧客がどう行動するか、事業のコストや収益がどのような構造になっているか、競争企業がどのような戦い方をしているか、といった現実から戦略を組み立てるべきです。現実を自分の目で見るためには、自分自身のものの見方を確立する必要があります。何らかのきちんとした物事の捉え方の枠組みなしでは、世の中で起こっていることの本質を捉え、それをもとに何か新しい戦略を組み立てることなどとてもできません。ポーターの考えは、ものの見方をしっかり確立するための有益な指針となります。

 そこで、ポーターの考えがあまりに理論的で現実にはなかなか適用できないと感じている方にこそ、ポーターの業界分析の枠組みがなぜ有益で、戦略が大事なのかを理解してもらうために、この本を読んでもらいたいと思っています。ポーターの考えが当たり前だという人にこそ、その当たり前の見方を身近な事例や自分の会社の戦略に当てはめて考えてみると、どれほど新しい発見があるかを理解してもらうために、この本を読んでもらいたいと思っています。

 こうした狙いがどれくらい実現できたかは、読者に判断してもらうしかありません。筆者としては、この本を読み終わったときに、自分の会社や業界はどうするべきかと読者一人一人が考え始めること、また、この本を読む前とは少しでも違った、広い視点で経営や戦略について考えられるようになっていることを願っています。

二〇〇七年三月
西谷 洋介


【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示