その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は鈴木貴博さんの『 戦略思考トレーニング3(日経文庫) 』です。
【はじめに】
ソフトバンクって何の会社かご存知ですよね。
「携帯電話の会社だ。あたりまえだろ」
いや、怒らないで聞いてください。では、ソフトバンクはいつごろから携帯電話の会社だったのか、思い出してみてください。いつからでしょう?
答はちょうど今から8年前です。
たった8年前! その前にはソフトバンクのiPhoneも、白い犬のおとうさんも無かったのです。それが8年後には携帯電話業界をリードする企業になっている。
ソフトバンクがボーダフォンを買収して参入した当初の契約者数はわずか1500万人でしたが、その後8年で3500万人に増え、いつauを追い抜くかというところまであっという間に来てしまいました。
9年前には「携帯電話事業に新規参入したい」と言って総務省と、ちまちまと電波の割り当ての交渉をしていた会社が、参入戦略をボーダフォンのM&Aに切り替えたとたん、あっという間に業界の風雲児になってしまう。現代は、このような大変化の時代なのです。
ソフトバンクだけではありません。音楽流通で最大の企業はどこでしょうか? 今やHMVでもTSUTAYAでもなく、アップルのiTunesが音楽流通に対して最大の影響力を持っています。
電子マネー業界の最大勢力はどこでしょう? 三菱東京UFJやアメックスのような大手金融機関ではなくJR東日本のSuicaが最大の勢力です。
ソフトバンク、アップル、JR東日本など、業界の外にいた競争相手が、非常識な発想で業界に参入してきて、革新を引き起こす。そのような時代にわれわれは生きています。
言い換えると、たとえ生真面目なビジネスパーソンでも、業界の中で生き残っていくためには、現代くらい「柔らかな頭で戦略を考えること」が重要視される時代はないのです。
このような業界の風雲児たちが仕掛けてくる戦略に、あなたの頭はどこまで柔軟に対応できているでしょうか? そのことをチェックするために、この問題を試してみていただけないでしょうか?
最近、ウォールストリート・ジャーナル紙にアマゾンの新しい戦略にまつわる記事が載りました。その内容をクイズ形式にしてみたので、みなさんも答を考えてみてください。
■顧客の注文前に出荷する
これは流行りのビッグデータを用いたビジネスアイデアのひとつです。アマゾンの膨大な顧客データを分析すれば、新しいベストセラー商品が発売されたような場合、高い確率で買ってくれそうな顧客を予測できるそうです。そこに着目したアマゾンは、特に買う確率が高い顧客に関してあらかじめ商品を出荷しておいて、顧客の自宅の近くの配送センターで待機させることを考えているそうです。
顧客が注文するよりも前に、先に出荷してしまう。このアマゾンの非常識な新サービスのアイデアについての記事を読んだ私の周囲の反応もさまざまです。
多い反応としては、
「これはよくあるネタとしての記事じゃないの?」
というものです。世界的な経済紙の紙面でも、まじめな経済記事、スクープ記事などさまざまな情報の中には、ネタとして面白いから掲載するようなニュースも混在しています。
確かに記事を読むと、アマゾンが特許を申請したと書かれているだけで、いつからこのサービスを始めるかといったことについては触れられていません。
しかし、一方で、私のようなビッグデータについての取材を重ねてきた人間から見ると、そうとも言えません。一年以上かけて何度も米国に渡ってさまざまな先端企業がビッグデータというものにどう取り組んでいるのかを調べてきた私の知識に照らし合わせてみると、このサービスが成立する可能性は低くはない。というよりも普通の会社には無理なのですが、アマゾンの保有する膨大なビッグデータを前提に考えたら、アマゾンだけは比較的広範囲の商品でこのサービスを提供できる可能性があるかもしれないと思います。
このエピソードは別の見方をすると、頭が固いと、
「ばかばかしい話だ」
と新聞記事を読んですぐに頭の端に忘れてしまうようなことが、しばらくすると現実の脅威として目の前に現れてくる可能性があることを示唆しています。
実際、この10年間、「非常識、外界、革新」による競合の出現の洗礼を浴びたのは、携帯電話業界、音楽業界、電子マネー業界だけではありません。
たくさんの業界で、頭が固いビジネスパーソンが、思わぬ外敵にやられてしまいました。
固い頭をなんとかして、柔らか頭の状態に変えられるようにトレーニングすることが、これまでにないぐらい重要な時代なのです。
ポイントは、
「常識、業界内、定石」
という、これまでの古い競争環境で有効だった戦略思考をいったん忘れて、
「非常識、外界、革新」
からやってくる敵の脅威に①気づくことができて、②その脅威を評価分析することができ、③戦うための選択肢をたくさん思い浮かべることができるようになることです。
そのようなことができるように、あなたの戦略脳を柔らかくトレーニングし直す必要があるのです。
この本はベストセラーとなった日経文庫『戦略思考トレーニング』のパート3として、戦略思考力の中でも特に、柔らか頭を作るためのトレーニングに重点を置いてみました。
柔らかな脳を作ることにフォーカスしたいのであれば、パート1から読むのではなく、この本から読み始めれば大丈夫なようにプログラムを構成しています。
もちろん広い視野で戦略思考力を鍛えたいのであれば、パート1から順番に読み始めてもOKです。
冒頭の問題を含めると、トレーニングの問題は全部で51問。
各章ごとに柔らか頭を鍛えるためのそれぞれのポイントを用意して、問題を解きながら自然に柔らか頭を作る訓練ができるように構成しました。
ぜひみなさんもこの本を手に取って、思わぬ外敵に即座に気づき対処ができるような、柔らかな戦略思考力を身につけていきましょう。
【目次】





