その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は内田泰さんの『 宇宙ビジネス革命 270兆円へ、膨張始まる 』です。

【はじめに】

 技術立国・日本がイノベーション欠乏症に陥って久しい。日本発イノベーションの代表例である、ウォークマン(ソニーグループ)、ハイブリッド車(トヨタ自動車)、QRコード(デンソー)のいずれも、世の中に登場したのは2000年以前のことだ。そんな日本にとって、今後、イノベーションを起こせる可能性がある数少ない分野の1つが宇宙である。

 2010年代後半、それまでは政府系機関による科学探査の場であった宇宙を、民間企業によるビジネスの場として捉える「ニュースペース(New Space)」という言葉が、メディアを賑わした。その後、米スペースX(SpaceX)による再利用型ロケットの実用化というイノベーションが起きたことなどによって、宇宙への輸送価格は大幅に低下。民間企業が人工衛星などを打ち上げてビジネスをするための環境がようやく整ってきた。世界における衛星コンステレーション(多数の小型衛星を連係させて一体的に運用するシステム)などの構築計画から、宇宙ビジネスは今後、爆発的な成長が期待されている。2035年の市場規模は、2023年比で3倍の約270兆円に成長するとの予測もあるほどだ。

 日本人最多の5回の宇宙飛行を経験している宇宙飛行士の若田光一氏はこう語る。「今後、月や火星を含め、宇宙での有人活動の領域は広がっていく。こうした中で有人宇宙活動を持続的に発展させるためには、地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)の活動は民間主導で盛り上げ、一方でより遠い宇宙空間での活動は政府主導で進めるといった役割分担が重要になる。このような連携によって、有人宇宙活動全体が技術面と経済面の両方で持続的に発展し、世界的な経済効果を生み出していくと期待している」。

 現在、LEOへ1トン以上の打ち上げ能力を保有している国は世界で7カ国しかない。この一角である日本は、宇宙産業を経済成長の柱の1つと位置づけ、政府が様々な支援策を推進している。その目玉が、2024年3月に設立した、最大10年間で総額1兆円規模の資金を民間企業や大学の技術開発に投じる「宇宙戦略基金」だ。

 宇宙には至る所にビジネスチャンスが転がっている。例えば、もし月に存在するとされる水資源を本当に活用できるとなれば、人類の長期滞在への道が開け、地上で利用されている生活インフラなども含めた「月面経済圏」が誕生する。2020年代後半に立ち上がると見られている、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去や衛星への燃料補給といった「軌道上サービス」も、全く新しい市場だ。「宇宙ビジネス革命」という大波が、起きようとしているのである。

 本書では、「宇宙通信」「月面開発」「観測衛星」「測位衛星」「スペースデブリ除去」「宇宙太陽光発電」といった、世界で競争が活発化している宇宙ビジネスの代表的な分野について、最新事情や先端技術の動向をまとめた。さらに、宇宙戦略基金で活気づく日本の宇宙ビジネスの現在地や勝ち残り戦略について分析した。

 特徴と言えるのが、それぞれのビジネスを支える技術の詳細を一般読者にも分かりやすく解説した点だ。例えば、宇宙通信では、昨今話題の衛星とスマートフォンの直接通信を実現する技術だけでなく、次世代通信として注目されている光衛星通信などの技術も取り上げた。手前味噌ながら、宇宙ビジネスの様々な分野について、技術の詳細まで踏み込んで解説した書は類がないと考えている。

 日本の宇宙系スタートアップは100社を超えた。そして宇宙ビジネスへの参入を検討している企業も多い。本書が新規事業のアイデア想起や事業化など、ビジネスに少しでもお役に立てれば幸甚である。

日経クロステック/日経エレクトロニクス編集委員
内田 泰


【目次】

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