その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中村直文さんの『 コンビニ全史 日本のライフスタイルを変えた50年の物語 』。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

 人類が属する哺乳類は10センチメートルにも満たない小さな生物として中生代に誕生した。恐竜の全盛期を生き抜き、巨大な隕石衝突など様々な危機を乗り越え、進化を遂げていく。そして人類の誕生につながり、地球の「覇者」として君臨するわけだが、哺乳類の進化のプロセスはどことなくコンビニエンスストアに似ている。

 1960年代後半から70年代初頭、小さいスーパーのような、町のよろず屋のような「異形」の小型商店がぽつりぽつりと姿を現していく。当時はコンビニという名称も認知されておらず、名無しの店だった。というのも当時はスーパーが本格的な出店に乗りだし、百貨店とともに大型小売店が恐竜のように個人消費の世界を支配していたのだから。

 コンビニは時代と逆行したように見え、今日のような発展を遂げるとは誰も予想していなかった。哺乳類が生きのびた一因はサイズの小ささだ。小回りがきき、特定の機能に特化しない柔軟性で環境に適応しながら進化を重ね、人類をはじめとする強力な生物群を生み出した。

 まさにコンビニも消費者への近さを武器に多様な利便性を提供し、強力な「生態系」を作り上げた。とりわけ1980年代以降、女性の社会進出、一人世帯の増加などで生存環境はさらに好転し、2010年代に向け、「店舗数爆発」が起きた。逆に小売りの盟主だった総合スーパーや百貨店などの大型店は出店・価格競争が激化し、大型生物のように淘汰が進んだ。

 日本フランチャイズチェーン協会によると、日本国内のコンビニ店舗数は7社で5万5000店を超え、2023年の年間売上高は11兆6593億円で160億人強が利用している。ここに大小様々なメーカー、卸、サービス企業が積極的な投資を進め、巨大な「コンビニ経済圏」を育んでいる。

 そんなコンビニも誕生してから半世紀、曲がり角を迎えている。人口減や少子高齢化に伴い、市場の先細り感が強まっているほか、人手不足も深刻化。さらに強みとしてきたきめ細かい店舗網と物流網の維持が難しくなってきたからだ。

 コンビニもかつての他の小売業態のように停滞期を迎えるのか、あるいは新たな進化を遂げるのか。コンビニの動向は日本での個人消費、いや経済全体の動きにも影響を及ぼすだけに、注目度は増している。

 2024年はちょうど日本独自のコンビニを作り上げたセブン―イレブン・ジャパンが1号店をオープンしてから50年という節目に当たる。2021年に米国のコンビニチェーン、スピードウェイを2兆円超で買収し、グローバルチェーンとして成長への上げ潮ムードが強まるかと思いきや、2024年8月に想定外のことが起きた。カナダの同業のアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたのだ。

 日本最強の小売り集団として君臨してきたセブンイレブンを傘下に置くセブン&アイ・ホールディングスが買収対象になることに、世の中は騒然とした。国内で圧倒的な競争力を持ちつつも、グローバル競争の波にのみ込まれてしまうのか。日本経済の弱さを露呈したようにも見え、先行きに不安を抱いた人も多い。そんな日本経済のカギを握るコンビニの未来を考える上で、半世紀の歴史を振り返る必要性があると感じた。本書は創業期の苦闘、商品開発を巡るドラマ、加盟店オーナーや経営者インタビューなどで構成している。ビジネスのヒントとして、あるいは経済史を彩るドラマとして楽しんでいただければ幸いである。

(本文中 敬称略)


【目次】

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