その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は横山哲也さんの 『ストーリーで学ぶWindows Server ひとり情シスのためのITシステム構築入門』 です。
【はじめに】
数年前、旧知のITエンジニアがこんなことを言っていました。
「今、お金出して読みたい技術書ってある?」
もちろんありますが、書籍に求められるものは変わってきました。以前は公式ドキュメントが不十分だったので、機能を網羅するものが好まれました。現在は、Web上に詳細な公式ドキュメントが大量に無料公開されています。特にマイクロソフトは昔から情報公開に熱心で、わからないことはほとんどありません。古い情報が混じっていたり、検索が困難だったりする問題はあるものの、たいていのことはわかります。そのため、単に機能を順に紹介するだけの書籍にはあまり意味がありません。
現在、書籍に求められるのは「その機能がどういう状況で使われるのか」「この課題を解決するのはどうすればよいのか」「なぜこのような仕組みになっているのか」ということではないでしょうか。こうした情報は、公式ドキュメントにはほとんどなく、せいぜい開発者がブログでふれる程度です。しかし、どういう状況で、どんな使い方をするのか、それはなぜか、こういったことが想像できないと、機能を深く理解することはできません。不適切な使い方をしてしまって、トラブルになることもあるでしょう。そのため、多くの書籍は「実務に役立つ」「背景が理解できる」ということをうたっていますが、現実の状況に当てはめて理解するのは、特に初心者には難しいようです。
本書は、実際にIT環境を構築する過程をストーリーとしてたどることで、「どのような状況でその機能が使われるのか」を明確にすることを心がけました。また、前提知識の解説や、今すぐ必要ではない機能の紹介は最小限にとどめ、実際に必要になったときに解説するようにしました。これにより、公式ドキュメントにありがちな「どういう状況で使えばいいのかわからない」「なんのための機能かわからない」という不満は減るはずです。さらに、会話形式にすることで、重要なことを繰り返し説明したり、間違えやすい設定を指摘したりしています。一般的な技術書に比べると冗長に感じるかもしれませんが、重要なことは印象に残り、想定される使い方だけではなく、望ましくない使い方についても理解できるはずです。
しかし、こうした構成は、1つの機能の解説が複数の章に分散してしまう欠点があります。そのため、最初から順番に読まないと「説明が抜けている」と感じるかもしれません。辞書的に使うのも難しいでしょう。その点はあらかじめお詫びしておきます。
また、ITシステムの全体像がつかめるように、各機能の解説は最小限にとどめています。特定のサービスの詳細を網羅的に調べたい場合は、毛嫌いせずに公式ドキュメントを参照してください。本書で全体を把握していれば理解しやすいはずです。
本書の内容全般について、同僚でありWindows Serverの研修を最初期から担当した加藤由利子氏に技術チェックをお願いしました。Microsoft 365に関しては、同じく同僚でMicrosoft MVP(Office Apps & Services)の目代昌幸氏にも協力をいただきました。また、同僚の濱口由加氏にはイラストをお願いしました。いずれも快く引き受けていただいたことに感謝します。ありがとうございました。
本書の出版にあたり、勤務先であるトレノケート株式会社テクニカルトレーニング第4部部長の多田博一氏には、執筆作業に対して多大な配慮をしていただきました。ただし、本書の執筆自体は個人的な活動であり、内容についても勤務先とは無関係であることをお断りしておきます。
本書が「お金出して読みたい技術書」になれることを願っています。
2022年4月20日 横山哲也
【目次】