その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は長谷部智也さん、河野博さんの『 戦略コンサルの技術 70のスキームで身につける思考と分析力 』です。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

本書執筆に至った問題意識

 私は1999年から20年以上、戦略コンサルの業界にいた。その間に、コンサルティング市場の拡大が進み、サービスは大衆化し、正確な数字は分からないが、日本のコンサル業界は、戦略コンサルと業務コンサルを合わせると、20年前の20倍以上の規模にまでなっているのではないだろうか。
 自分のキャリアの長い期間を過ごした業界が、成長を続けているのは喜ばしい限りではあるが、「競技人口」の増加とともに、提供するサービスの「質の劣化」が、憂慮すべきレベルで起こっている。

 コンサルティングファームは各社とも、教育を十分にできないくらいのスピード感で、急激な規模の拡大に邁進している。OJT(On the Job Training)の名のもと、プロジェクトの実地で教育を行うのであるが、マネジャーレベルの人材が十分に育っていないため、なかなかうまく、タレントの拡大再生産ができていない。

 また、コンサル業界の内外を超えた激しい人材獲得競争(War for talentと呼ばれる)のなか、他社に負けぬよう、人材の量的確保を優先させるため、自ずと採用している人材の質の低下が起こっている。トレーナビリティ、すなわち、そもそも「教育すれば育つ水準の、素養がある人材を本当に採用しているのか?」と疑問を呈してしまうような状況の、コンサルティングファームもある。

 昔は、クライアント業界に関する知識は少ないが、地頭が良く、あっという間にプロジェクト開始後にキャッチアップして、持ち前の分析力や論理思考力で、クライアントが想像していなかったような答えを出し、当該業界での実務経験がなくても、クライアントの役員に直言できるような人材がいた。そういったコンサルタントの絶対量は、現在はだいぶ減ってしまっていると思う。

 一方で、個人的考えではあるが、コンサルティングは「後学可能」なスキルであると確信している。例えが適切かどうかわからないが、大学受験の数学や物理と似ている。要は、パターン認識であり、「解法の型」をある程度身につければ、ベースの思考力の底上げや、答えを導出する能力の向上が可能なのである。
 型がそのまま適用されるような、まるっきり同じ問題はあまりないが、パターンを習得することで、ゼロベースで考えていてもなかなか解けなかった問題が、型の応用編と分かればスムーズに解けるようになる。そして、その型というのは、何千個も種類がある訳もなく、せいぜい数十パターンしかない。

 また、分析と同様に、プロジェクト運営にも型がある。プロジェクトのあるタイミングでクライアントの満足度が高まらず炎上してしまっても、「この炎上パターンは、昔こうやって解決したなあ」「ああ、次来るのはこのパターンね」的に、何が起こり、そこで何をすべきかが、先回りして想像できるものである。

 私が本書を執筆しようと考えたのは、規模の拡大とともに大衆化が進展し、質の劣化が進行するコンサル業界に、高い品質水準を持つ「プロフェッショナリズム」を取り戻してもらいたい、と、強く思ったからである。現在のコンサル業界が、クライアントに提供しているサービス品質の平均レベルの低下は、20年以上自身のキャリアをそこに捧げた者からすると、恥ずべき状態と言わざるを得ない。

 本書で詳述するパターンをしっかりと叩き込めば、私個人が20年以上かけて習得したスキルのベースを、2年程度で速習できると思う。いずれにしても、コンサル業界の調査分析の方法論と知恵の出し方を、体系化しておくことは、多くの企業が正しい答えを出すうえでも有用であろうと考え、本書を世に出すことにした。多くの駆け出しのコンサルタントや、事業会社の企画スタッフの方々に、お読みいただきたい。
 なお、本書はなるべくかみ砕いて、前提知識がなくても読めるように書いたつもりではあるが、以下の項目について既に習得されている読者を想定している。

  • 日経テレコン、帝国データバンク、SPEEDA、各業界のデータベース、各種の統計資料、GPTを使った調査、基礎的な情報収集スキル
  • エクセル、SAS、ワード、パワーポイント、などを分析、書類作成で使えるスキル

 このあたりの習得方法などについては、別書に譲らせていただく。
 それでは話を進めていきたい。

2025 年11 月

長谷部 智也

【目次】

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