その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はインターブランドジャパン(編)の『 経営としてのブランディング 』です。
【まえがき】
ブランディングの発展を願って
私はどうあれば、インターブランドジャパンというブランドを実現できるのだろうか?
社長に就任した時に、最初にこんな問いを自分に向けた。思うに、ブランディングとは多分にパーソナルである。カタカナをやめれば、“自分事”と表現できるのである。
これまでインターブランドジャパンとして、様々な形で情報を発信してきたが、書籍という形では2冊。1冊目は2012年に刊行した『ブランディング7つの原則』(日本経済新聞出版)である。この書籍では、ブランディングの実践がわかるように、ハウツー本としても機能するように、という点を大切にした。結果、明確な7ステップはブランドに携わる方々の支持を受け、いまでも愛読いただいている読者が多い。そして2019年に刊行した『ブランディング 7つの原則【実践編】』(日本経済新聞出版)においては、インターブランドジャパンが主催しているJapan Branding Awardsの受賞10企業の事例集を世に発信した。Japan Branding Awardsの精神である「事例の共有を促すことでブランディングがリアルに世に広まる」の加速を目指した書籍である。そのために、受賞企業の実際のブランディングの現場で何が起きているのかをご紹介し、1冊目の『7つの原則』では味付けであった実例を、2冊目の『7つの原則【実践編】』では主菜としてご提供した。
この2冊を通じて、より適切なブランディングの理解は世の中に広がったと感じている。同時に、この2冊を通じて、ブランディングへのアプローチの“正解”であり“ベストプラクティス”を世の中に作ってしまった側面も否めない。この2冊で紹介した方法論や取り組みは、いまの時代でも、そしてこれからも有効である。だが、それだけが正解ではないのである。
本書の目的は、まさにそこである。いまの時代における「ブランドの実現」の可能性の広がりと、その必然性を三度世に問いたい。
本書の構成をまず説明しよう。大きくは、思想編と実践編の2部で構成されている。思想編は序章と第1章から第3章、そして最終前章と最終章。実践編は第4章から第9章までである。
思想編では、なぜいまのブランディングは変わる必然があり、いま変わることは何を意味しており、それはなぜよいのかを伝えている。ここにおいて我々が重要視しているのは、過去の成功則の形式知化・方法論化を示すことではなく、変化を読み取った時に、必然として、機会として、そして可能性として、「いま何を考えどう動くべきなのか」に対する思想でありメッセージである。
翻って実践編では、インターブランドの経験と知見という確固たる実績に立脚した、1つの正解の提示を目指している。方法論やケーススタディを中心に、いま読者がやるべきことをできるだけ具体的に、できるだけ実践的に示そうという試みである。
結果として、思想編と実践編では、内容や表現のテイストがかなり異なっている。特にテイストに関しては、執筆者が分かれているというのも1つの理由である。当然、1つのテイストに集約することもできるのだが、我々としてはこのテイストの違いも含めて味わってほしいと考えている。本書のスタイルの結果をブランド論的に表現すれば、インターブランドが考える強いブランドは、「一貫性があるブランド」から「整合性があるブランド」へとシフトしていることの表現でもあると捉えてほしい。
では、各章を紹介していく。
序章では、新しいブランディングを考えたほうがいい理由、考えるべき理由を、よりマクロな視点から説明している。世の中の変化を根底に置き、経営の変化や経営論の変化を捉えている。
ただ、本書の主題は経営論ではなく、ブランディングである。そこを誤らないように、全ての示唆はブランディングの視点からの再解釈につなげている。そこから導き出される、「リーダーシップ・享受価値・事業との統合」という3つのテーマを導入している。
第1章では、「リーダーシップ」というキーコンセプトを軸にブランドの在り方を探っている。世の中が求めるブランドの在り方を起点に、ブランドがリーダーシップを取るとはどういうことか、それはどのように実現することを考えるべきなのかを描いている。第1章では「ブランドが世界を変える推進役となり媒介役となること」を目指している。
第2章では、「享受価値」という概念をもとに、「人間を軸とした戦略」の根底にある人の捉え方を取り扱っている。概念の紹介はもちろんだが、それが実務においてどんな意味を持ちうるのか、なぜそれは事業においても(ブランドとしてだけでなく)重要なのかを浮き彫りにした。この章では「ブランドがなぜ本質的に人間のことなのか」を「人間とは何か」という哲学的な問いから実務的な視点への橋渡しの中で取り扱っている。
第3章では、事業とブランドを統合するということに挑戦する。特に「人間を軸にする」「体験を軸にする」ことの事業戦略における意味合いや、事業戦略の転換とは何であるかを探りながら、競争戦略から成長戦略へのシフトの在り方を探る。第3章では「ブランドが真に事業と同期する姿」を見つける。ここまでが思想編。
そして、ここからが実践編。第4章では、思想編で説明してきたこれからのブランディングについて、実践していくためにはどうしたらよいのか、第5章から第9章までの全体像としてのフレームワーク「ブランドリーダーシップキャンバス」を紹介する。
第5章では、ブランドリーダーシップキャンバスの基礎となる出発地点(デパーチャーポイント)と目的と目標地点(パーパス&アンビション)について、その意味とその設計アプローチについて説明していく。
第6章では、その出発地点から目標地点へ辿り着くための軌道となる戦略テーマ(トラジェクトリー)、そして軌道推進のための戦略アクション(ムーブス)について説明する。
第7章では、ロードマップの全体に適用されるべきファンダメンタルな要素であるエキスペリエンスについて、全てのブランド体験に差別性と一貫性を持たせ、顧客との深い絆を築き、最適に価値を蓄積するための仕組みを紹介する。
第8章では、同じくファンダメンタルな要素として、人とカルチャーについて、ブランドが戦略アクションを実行する上で欠かせないリーダーから現場のメンバーまでの行動定義について検討する。
第9章では、実践編の最後にブランド価値とその評価方法について紹介する。企業の重要な資産であるブランド価値の評価方法とそれを活用したブランドマネジメントについて、前著『ブランディング 7つの原則』で紹介した内容に加え、アップデートした部分について触れていく。
ここまでが実践編。
そしてもう一度思想編に戻る。
最終前章では、これからのブランディングにおいて鍵となりうる、倫理・プラットフォーム・(創発的ブランディング)ガバナンスの可能性を探る。また、ここまでの内容を確認する視点として、ブランディングの枠組みの可能性を1つ提示する。この章の目的は、「ブランディングが再び停滞しないためのヒントの提示」である。
そして最終章では、ブランディングを成功させるために必要なことを「お願い」としてお伝えする。ブランディングが失敗する理由やブランディングが時代遅れにならないために、1人ひとりが意識できることをお伝えしている。最終章において「読者が自らを革新しながら成功できる留意点」を伝えることで、本書が知的好奇心を満たす以上の、ハウツー本以上の影響をもたらすことを狙う。
最後に、本書で取り上げている事例やケーススタディは、必ずしもインターブランドが関わったものではない。ボリュームで言えば、インターブランドが関わっていない事例への言及のほうが多いかもしれない。これは、本書の意図として、あるべき姿を浮き彫りにすることに重きを置いているからであり、インターブランドの実績紹介の書籍にする意図がないからである。中立性を担保するために、あえてインターブランドがお関わりした事例ではない事例に言及することを試みた部分もある。
では、次の世界のブランディングを探しにいこう!
2024年12月
執筆者を代表して
並木 将仁
【目次】








