「私に合う本を教えて」「店長、お薦めの本ある?」。兵庫県のJR伊丹駅前にあるブックランドフレンズは、店主が来店客と会話をしながら本を選んでくれる本屋さん。2003年の開業当初はごく普通の駅前書店だったが、2007年ごろから次第に今のスタイルになっていった。小説、児童書、自己啓発書、ビジネス書など、さまざまな「推し本」が並ぶ光景は圧巻。店主の河田秀人さんにお話を聞いた。
鉄道事故で閉店の瀬戸際に
北海道のいわた書店のように顧客カルテを基に1万円分の選書をしたり、有料で選書サービスを手掛ける書店も増えていますが、書店員がお店でじかに本を選び、薦めてくれる店はめったに見かけません。今のような形になったのはいつからですか?
当店の開業は2003年、もうすぐ満22年になります。2007年ごろから次第に今のスタイルになっていきました。2015年には店舗を半分にして家賃負担を減らし、取り扱う書籍・雑誌の点数を絞りました。
以前は男性向けの趣味の本に重点を置いて、売り上げは順調に伸びていました。近くにあるショッピングモールに大型書店があり、こちらは女性や子ども向けの本が多かったので、当店は男性が欲しがる趣味の本をそろえようと思ったのです。
男性向けの趣味の本というと、具体的には?
漫画、鉄道、ミリタリー、車、バイク、カメラ、ゲームなどです。例えば1冊5000円以上する戦艦大和の図面集など、希少本を探して仕入れました。狙いは当たって、飛ぶように売れていました。
売り上げが順調だったのに、方針を変えたのは、何かきっかけがあったのですか?
2005年4月にJR福知山線脱線事故があり、2カ月間不通になったのがきっかけです。当店のお客様は地元の通勤客が多く、客数が3、4割減りました。
歩いて10分のところに阪急電鉄の伊丹駅もありますが、ここまでわざわざ来る方は少なかった。私はお客様の趣向に合わせて本をそろえてきたつもりでした。しかし、10分歩いて訪れるほど魅力のある店ではなかったことが分かり、がくぜんとしました。
当然赤字になり、蓄えもそんなにあるわけではなかった。資金的にはあと1カ月、頑張って3カ月というところまで追い詰められました。毎朝、店のシャッターを開けても、誰もやって来ません。これで本屋をやめることになるなら、悔いは残したくない。せめてお客様が欲しがる本ではなく、私が読んで良かった本を売りたいと思い至りました。
その頃はメンタルをやられていましたので、私は本に支えてもらっていました。本には力があって、人に影響を与えるものなんだということを、身をもって体験したのです。
好循環が始まる
それで私が読んで良かった本に手書きのPOPをつけて、お客様にお薦めするようにしました。すると、少ないなりにも売れ始めたのです。そして購入いただいたお客様の8割以上が再び来店され、「あの本良かったよ」などと、感想を話してくれるようになりました。
その後は好循環が生まれ、「次の本を紹介して」「この本、5冊、10冊ちょうだい」と、どんどん売れるようになりました。そのうち、会社の上司や友達に薦められたという新規のお客様が来店され、「私にも本を選んで」と依頼されるようになりました。
私はお客様に本を選ぶときには、「今どんなことをされていますか?」「普段どんな本を読まれますか?」など、いくつかの質問をします。その結果、本だけでなくお客様の人生に深く関わっていくことになります。私は、本屋の一番のやりがいはこれなんだと気づきました。
その当時薦めていた本で、今も店頭にある本はありますか?
当時の本は品切れになってしまったり、忘れてしまったりしたものもありますが、今も展開しているのは、この『感動は心の扉をひらく しらくも君の運命を変えたものは?』(椋鳩十著/あすなろ書房)です。動物というのはそれぞれ同じ才能を持っています。例えばチーターなら皆足が速い。しかし人間の才能はそれぞれ違っていて、その才能がいつ発揮されるかはわからない、でもおおむね感動した時、人は才能に出合うと、書いてありました。私はこの本を読んで、自分も才能がないのではなく、才能を見つけていないだけなんだと、希望を持てるようになりました。
それまでは書店経営の参考にしようと、マーケティングや経営の本を読んでいたのですが、「やり方」よりも「心のあり方」が大事だと思うようになりました。そこであまり読まなかった児童書や物語を読んで、お客様に薦めるようになったのです。
お店の「いち推し本」はどれですか?
当店で一番の人気作家は喜多川泰さんです。2007年に初めて読みました。メッセージがあり、自分に寄り添ってくれる本だと感じ、推すようになりました。ある日、京都で行われた喜多川さんの講演会・サイン会に参加しました。サイン会は初めてでしたが、列の前に並んでいる人が自己紹介をしていたのを見習って、私も持っていた名刺を喜多川さんに渡しました。
すると喜多川さんから「噂は聞いています。僕の本を薦めてくださっているんですね」という言葉が返ってきて、驚きました。そこから喜多川さんとのつながりができました。
小説のモデルになる
喜多川泰さんは2008年、『「福」に憑かれた男 人生を豊かに変える3つの習慣』(総合法令出版)という本を出版しました。この小説は当店と東京にある「読書のすすめ」という書店がモデル。店の近くに大型書籍チェーンの新店舗ができたという設定はうちの店がベースです。その後は、この本の読者が来店されるようになりました。
オノ・ヨーコさんの本がたくさん並んでいますね。例えばこうした本はどのようにお客様に薦めているのですか?
昨日もあるお客様にお薦めしました。そのお客様は理屈っぽいことをよく話す方で、いつも難解な本を読んでおられるようなタイプでした。そんな方にさらに難しい本を薦めるよりは、短い言葉で心に刺さるオノ・ヨーコさんの本がいいと思ったからです。
30代から40代の働く人たちにお薦めのビジネス書はありますか?
この『営業の神さま 営業が進化する9つの問いかけ』(中村信二著/エイチエス)という本は、営業がテーマですが、あらゆる職種に役立ちます。営業の仕事は単にモノを売ることではなく、人の問題解決に貢献することで、人間力が問われるものです。この本には9つの問いかけがあります。
例えば、あなたは何を売っていらっしゃいますか? お客様は何を買ってくださっていますか? あなたが売っているものとお客様が買っているものは同じですか? あなたは何屋さんですか?などなど。
私はこの本にある「あなたは何を売っているのか」という問いに答えられませんでした。本屋なので確かに本を売っているわけですが、答えはそうではなく、何かの価値を売っているはずだ。10年考えて今は、「前に進む力を売っています」と言えるようになりました。
この『新装版 人蕩し術(ひとたらしじゅつ)』(無能唱元著/日本経営合理化協会)はどんな本ですか?
人の魅力とは何かが書いてある本です。本書によると、魅力的な人とは人に何かを与えられる人で、与えられるようになるには悩み事や心配事がない人になる必要がある。ではどうすればいいのか。また、人に何かを与えると言っても、与えるものは人それぞれ違うのでそれも考えるべきだ。そういったことが書かれています。1万円を超す本ですが、経営者のお客様に年何十冊も売れますね。
お客様に本を紹介して、その人の人生が変わっていったような例はありますか?
当店に来ていたある高校生が、将来何になりたいのか分からないし、自信がないと言っていました。いくつか本を紹介した中に、植松努さんの本がありました。植松さんは、北海道の植松電機という町工場の経営者で、池井戸潤の小説『下町ロケット』のモデルになった人です。その高校生は植松さんの本を読んで、自分は靴職人になりたかったんだと気づき、今はイタリアで修業をしています。まさに本が人の人生を動かした例ですね。
これからやっていきたいことはありますか?
子どもたちが行きたくなるような「本のある場」を作りたいと思っています。最初は本屋をもっと増やしたいと思いましたが、私は当店を守るだけで精いっぱいだし、書店を開業するには資金面などハードルが高い。図書館もいいのですが、少し硬いイメージがある。もっと日常の中で本に触れる場所が作れないかリサーチしているところです。
「本屋」ではないけれど、うちのお客様の中には同じ本を10冊、20冊、100冊と買って人に薦めている方がいます。その結果、今まで本を読まなかった人が本を読むようになります。私はお客様と一緒に読書普及活動をしているんですね。
読書会も読書普及の場になります。私は読書会立ち上げの場に出向いていって、読書するとこんなにいいことがあるんですよ、人生にこんなに影響を及ぼすんですよ、といったことを話しています。
最後に、お店を訪れたついでに立ち寄るといいお薦めのスポットはありますか?
伊丹空港に隣接している公園の伊丹スカイパークです。ここでは頭の真上に離着陸する飛行機を見ることができます。とくにお子様連れの方にお薦めしています。
取材・文/桜井保幸 写真/行友重治
参考サイト ブックランドフレンズ【フォトギャラリー】




















