京都市に残る路地の中でも、上部を屋根が覆う路地を「トンネル路地」という。堀川五条近くの、醒ヶ井(さめがい)通沿いにあるhoka booksは、このトンネル路地をくぐった一角にある。同店は2021年7月、30代の編集者2人が、町家を改装して開業した。扱う冊数は1000冊弱、陰影のある空間に大半の本が面展開されており、ギャラリーのようなたたずまい。店主の嶋田翔伍さんと西尾圭悟さんにお話を伺った。
映画サークルで出会う
嶋田さんと西尾さんは同年代。大学時代に映画サークルで出会い、社会に出てからは2人とも編集者となり、その後一緒にhoka booksを開業したそうですね。その辺りの経緯を教えてください。
嶋田翔伍さん(以下、嶋田) 僕は京都府立大学の文学部出身です。映画サークルに入りたかったのですが、府立大学には映画サークルがありませんでした。たまたま京都大学の映画サークルの人がビラ配りに来ていたのがきっかけで、入ることになりました。そのサークルで西尾君と知り合ったのです。
その後、お2人とも編集者になるわけですね。
嶋田 4回生にもなると、就活が始まって僕はサークルに顔を出さなくなりました。漫画編集者志望だったので、東京の大手出版社をいろいろ受けましたが、全部落ちました。結局、東京と大阪に拠点がある出版社に就職し、大阪で主に社史編集の仕事をすることになりました。
西尾圭悟さん(以下、西尾) 僕は京都大学の建築学科に入ったのですが、周りが就活に躍起になっているのに対して、僕は将来何をやれるのだろうと悶々としていました。大学院を修了するタイミングで、たまたま、ある建築団体の機関誌を作る仕事を紹介していただいたので、取りあえずその仕事をやりながら、設計の依頼があればやってもいいかなと思っていました。結局そこから編集者の道を歩むことになります。
建築の本は図面や写真、スケッチなど様々な素材を駆使して作られるので、編集者であっても専門性が生かせる分野です。大手からリトルプレスまで出版も盛んなので、なんとかやっていけるだろうと思いました。
25歳の時、僕は大学院を出たばかり、嶋田君は出版社の仕事をしていましたが、他にやりたいことがあるようでした。「久しぶりにご飯を食べようよ」と再会、そこに同級生や写真家なども加わってuugというグループができました。ビジネスの集団というよりは、5人ほどのフリーランスが集うネットワークでした。
本屋開業へ
嶋田 シェアオフィスで個人がそれぞれ仕事をする中で、最初は週末に街歩きをするぐらいでしたが、そのうち小さな「豆本」を作ってみたり、新潟の「大地の芸術祭」に参加したりしました。
その後、僕は自分で出版社をやりたいなと考えるようになりました。世間ではひとり出版社が活躍していて、僕にもできるんじゃないかと、烽火(ほうか)書房を立ち上げます。
コロナの影響もあって、オフィス移転を考えていた時期で、どうせなら本屋も作ろうと、hoka booksの開業につながっていきます。
西尾 この場所に引っ越したのは2020年です。コロナ禍の最中でした。僕はこの1部屋を住居としても借りて、職住一体で生活するようになりました。
「hoka books」の店名は「烽火書房」から来ているのですか?
嶋田 ルーツはそうですね。書店としての運営を2人でやるうえで、烽火書房との関連性と位置付けを考えて、ローマ字にして意味を弱めるぐらいがちょうどいいかなと、店の名前にしました。
ジャンルに収まりにくい本を
どのような店にするか、どのような本を置くか、お2人の間でコンセンサスはできましたか?
嶋田 それぞれフリーとして働きながら、たまに一緒に仕事をする中で、お互いに選書の価値観は擦り合わせられるだろうとは思っていました。
西尾 強いて言えば、この店は何らかの形で「ものづくり」や「作ること」に関わる本が多いです。
嶋田 西尾君は建築出身ですけれど、当店には建築の専門本はそれほど置いていません。
西尾 建築の専門家なら建築の本を探そうとするとき、京都なら河原町三条のMEDIA SHOP、東京なら神保町の南洋堂書店に行くでしょう。それらの店と競争するつもりはありません。うちで扱っている建築の本は専門家以外の一般読者が手に取れるものです。
嶋田 建築書に限らず、1つのカテゴリーを超えて読まれる本や、ジャンルに収まらない広がりをもった本を集めています。本の形態で言えば、文章だけの本、写真だけの本よりは、テキスト、写真、イラストが入っていて読みやすい本が多いですね。
2人は編集者なので、編集にこだわっている本もそろえたいと思っています。
この店には棚差しの本が少なく、面展開中心で、表紙がよく見えます。あえてそのようにしているのですか?
西尾 当初は1階に本を棚差し中心に展開し、2階はイベント時に使う程度でした。今年3月に2階を常設店舗にしてからは、本を面展開中心で置くようにしました。当店で扱っている本は1000冊もないので、なるべく本の表紙を見せたかったからです。他店で棚差しになっている本も、当店なら面展開できますし。
ここには嶋田さんが烽火書房で刊行した本と西尾さんがフリー編集者として担当した本があります。それぞれ紹介していただけますか。
嶋田 烽火書房で最初に作ったのが、『Go to Togo 一着の服を旅してつくる』(中須俊治著)という本です。同世代の知人でもある中須俊治さんが京都とアフリカのトーゴを行き来して、ものづくりをするドキュメントです。章によって文章のレイアウトが逆さまになるなど、凝った構成にしています。
今、熱心に作っているのが、『たやさない つづけつづけるためのマガジン』というリトルプレスです。ひとり出版社や本屋をやっていると、続けていくことがいかに大変なのかを思い知らされます。他の人はどうやってなりわいを続けているのか知りたいと思って始めました。1冊ずつ手作業で、表紙の左側をカッターで切り取り、しおりとして挟み込んでいます。
西尾 僕はフリー編集者として、出版社や個人が出版している本の編集を手掛けています。昨今は建築系のインディペンデント出版社や建築設計事務所が自ら本を出す例も増えています。この『青華―伊藤豊雄との対話』(大西麻貴著/o+h books)は、建築家・大西麻貴+百田有希/o+hが主宰する出版社から刊行されたもので、3年以上かけてインタビューを重ね、じっくり丁寧に作られました。普通の出版社ではできない函入り、布張りの上製本です。
こちらは建築家で京都大学名誉教授の竹山聖と竹山研究室編の『庭 のびやかな建築の思考』(エイアンドエフ)で、函に穴が開いていてこれも凝った装丁になっています。
お2人のお薦めの本を紹介してください。
嶋田 『道具のブツリ』(田中幸、結城千代子 文/大塚文香 絵/雷鳥社)は、まさに書名の通り、道具の形やしくみを物理学的に解説した本なのですが、このテーマを読者に伝えるために、ビジュアル、本の構成が有機的で、文章も分かりやすい。本好きの心をくすぐる本です。ページをフラットに開くことができる特殊な造本になっています。
デザイナーによる妊娠・出産・育児エッセー
西尾 『色と形のずっと手前で』(長嶋りかこ著/村畑出版)は、最近読んで非常に感銘を受けた本です。38歳で子供を授かったグラフィックデザイナーによる妊娠、出産、育児についてのエッセーなのですが、そこにデザイナーとしての視点が重なってくるのがユニークです。例えば「丸」や「四角」、「グラデーション」など、イメージを喚起する言葉遣いが出てきます。
この辺りは京都らしい風情のある景観が残っていますね。京町家の維持・保存はうまくいっているのでしょうか?
西尾 路地の中の建物は原則、建て替えができず、改修にも制限があります。この路地には職人さんの仕事場があったり、おばあさんが猫に餌付けをしていたり、今はとてもいい雰囲気を保っていますが、これからは分かりません。
この4年間でも、住人の高齢化が進み、亡くなられたり、引っ越されたりして、空き物件が増えています。近所でも、路地がまるごと壊されてアパートや駐車場になっています。町家を改修したゲストハウスも増えていますが、町の豊かさが高まっているとは言えません。
これからやっていきたいことはありますか。
嶋田 2階にギャラリースペースを作ったので、イベントを積極的にやっていきたいと思います。10月からは約2カ月間、文庫本の選書フェアを行います。文庫はどこの書店でも扱っているので、違いをつくりにくいのですが、僕らなりに切り口を見つけて文庫本の新たな価値を提案したいと思っています。
取材・文/桜井保幸 写真/山本尚侍
参考サイト 京都・ろじの本屋 hoka books【フォトギャラリー】





















