アメリカは変わった。トランプ第二次政権発足から1年あまり、アメリカを深く知り、日本の進むべき針路を考えるうえで補助線となるのが『 同盟の転機 アメリカの変貌と日本の戦略 』と『 信望なき大国 日本人が知らない「トランプのアメリカ」 』。今回は著者のジョシュア・ウォーカー氏と大越匡洋氏に「トランプ後」まで見据えてアメリカと日本との関係について語ってもらった。第1回は高市早苗新政権の発足で日米関係はどう変わるか。

国際秩序の「妨害者」と化したアメリカ
大越匡洋氏(以下、大越):高市首相の登場とトランプ2.0(第2期政権)によって日米関係がどのように変わっていくか、日米同盟そのものが転機を迎えているという視点は非常に重要だと思います。ジョシュアさんは『同盟の転機』をあえて日本語で執筆されたわけです。きょうの対話も日本語で進めますが、どんなメッセージを届けたいと考えたのですか。
ジョシュア・ウォーカー氏(以下、ウォーカー):もともとは世界に向けて日本がどのような国で、どう変化しているのか伝えたいと思いました。ただ書き進めるうちに、世界よりも日本人にこそ私のメッセージを分かってほしいと思うようになりました。

戦後80年を振り返ると、日本人にとって日米同盟の位置づけは大きく変わっていません。アメリカはいつも日本のトモダチ、いつもそこにいる、という意識です。これに対してアメリカは変貌しています。たとえば、トランプ2.0は1.0(第1期政権)と全く異なります。1.0は従来の共和党の政権と行動に大きな差はなかったけれど、2.0は世界でも見たことのない、これが民主主義なのかと思うような行動をとり続けています。
大越さんが『信望なき大国』で描いているように、トランプ大統領は「(分断の)結果であって原因ではない」わけです。2月24日の一般教書演説を聞いても、トランプ氏は政策や理念をまったく語らず、民主党を敵として攻撃し続けました。
大越:アメリカ人が抱く世界における自分たちの役割に対する自画像も大きく変わってしまいました。アメリカは20世紀を通じて培った世界からの信望という最大の無形資産を食い潰し、せっかく築き上げた秩序まで壊してしまっています。その破壊力の源泉はアメリカ国内の政治的、文化的な分断なので、ほかの国の人々がいくら何を言おうが軌道修正できるようなしろものではありません。
ウォーカー:ドイツで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」やスイスでの世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」を見ると、世界も変わってしまったことが分かります。アメリカは世界の安全保障の提供者ではなく、妨害者になってしまいました。アメリカと中国はどちらも大国ですが、これまでは国際秩序からみて中国が妨害者、アメリカは提供者という位置づけだったのに、いまはどちらも妨害者です。
大越:ルールに基づく国際秩序がきしんでいるというより、ガタガタと音を立てて壊れていく世界が現実になっています。アメリカは「太平洋国家」を自認していますが、中国やロシアがいて、インドなどの新興国もひしめくインド太平洋の状況を考えれば、アメリカにとって日米同盟の重要性は一段と増しているといえますね。
ウォーカー:日米同盟はレジリエント(強靱)です。簡単になくなるわけではない。戦後80年、日米の専門家が一緒になって懸命に守ってきました。
ただこれからは大統領と首相だけでなく、アメリカと日本の人と人、社会と社会を結びつけるもっと深いストーリーに焦点を当てていかなければならないと思います。ワシントンと永田町の間だけで終わらせてはいけない。日本の人たちがアメリカの国の中にもっと入り込み、影響力を発揮していってほしいという思いが私にはあります。
分断を積極的に利用するトランプ氏
大越:トランプ氏の頭の中で日米同盟をどうとらえられているか想像すると、少し心もとないところがあります。そもそもトランプ氏の頭の中にある世界地図の中でアジアの位置づけそのものが大きいようには感じられません。
ウォーカー:そうですね。トランプ氏の頭の中で安全保障上の同盟は大きな地位を占めてはいないでしょう。彼はビジネスマン、不動産取引業者です。すべてのものに値段がある世界の人です。「トモダチ」「同盟」があったとしても、中国がもっと高い値段のものをくれるのならそっちに行くという、アメリカ大統領として過去に例がない人物です。
日本は日米同盟が最重要ですし、日米同盟を通じて世界を見ます。しかし現在はその視点だけで世界を見るのは不利になります。アメリカからみると、在日米軍基地を含めた同盟のストラクチャーは非常に大事だけど、一般のアメリカ人は同盟システムが自分たちにとって役に立っているのか疑問を抱いています。
大越:アメリカは自身が盟主として世界に張り巡らせた同盟システムの恩恵を当然受けているわけですが、一般のアメリカ人はそれを実感できず、「他国がただ乗りしている、アメリカを搾取している」という感情を抱いているわけですよね。グローバルな国際貿易システムについても同じ文脈で捉えているわけです。
ウォーカー:アメリカ人は戦略的に物事を考え、第1次、第2次世界大戦を経てプロアクティブ(能動的)に同盟関係を管理するようになりました。いま戦後80年が経過し、一般のアメリカ人は過去の教訓を忘れてしまいました。トランプ氏の世界観は100年前の勢力圏の発想と同じで、アメリカは西半球の中心という意識です。
高市首相が台湾有事をめぐって国会答弁した2025年11月以降、中国は日本への威圧を強めています。衆院選に大勝した高市首相はトランプ氏との関係、日米同盟をうまく利用して、中国との関係を均衡させることが大事になります。ただトランプ氏との個人的な関係だけうまくやっても、アメリカ全体は動きません。企業も一般の人々も一緒に、日本が全体となってアメリカ人に自分たちの考えを発信していく必要があります。
大越:たとえ故安倍晋三元首相が健在でも、いまのトランプ2.0との関係をうまくマネージするのはそれほど簡単ではないでしょうね。
ウォーカー:難しいでしょうね。1.0ではトランプ氏個人のエゴをうまく扱えば、その関心を他にそらすことができました。しかし、いまのトランプ氏はある意味、支持者の関心事にしっかり集中しています。先ほど話が出た一般教書演説は民主党側からみれば「クレージー」と思う内容ですが、トランプ支持者からみれば自分たちの関心事をしっかり話し、民主党を攻撃するという満足できる内容でした。党派分断を戦略的に利用しています。

高市首相に期待するリーダーシップ
大越:高市首相はどんなリーダーシップを発揮すべきでしょうか。
ウォーカー:高市首相のコミュニケーション能力は高いですね。とても簡潔に説明するし、説明しすぎない。この能力をトランプ氏だけに向けるのではなく、アメリカ全体に向けて使ってほしいです。英語でどのように立場を説明するかも大事です。
日米同盟を維持・管理するために腐心してきた専門家に任せておけば、これまでなら大きな問題は生じませんでした。これからはあらゆる人たちがそれぞれ自分で取り組んでいかないとダメです。英語で発信し、ソーシャルメディアも使う。日本企業で働いている外国人、アメリカに暮らしながら日本文化を愛する人たちをすべて動員し、日本のためにアメリカ全体に発信していくことが大事になるでしょう。
大越:トランプ2.0になり、欧州は「アメリカ抜きの安全保障」の議論に本気で取り組まざるを得なくなりました。一般のアメリカ人に日米同盟が大事であると実感してもらうことは可能でしょうか。
ウォーカー:アメリカ人は世界が自分たちのために何もしてくれないと現状に怒っていますが、ではどうしたいのかと聞かれると、何がほしいのか答えられない状態です。アメリカの外交・安保の専門家はエリートの間でしか議論せず、一般の人々と対話しません。トランプ氏は一般の人々とつながっています。そこが異質です。だから日本は一丸となり、とにかくアメリカの中に入り込んで発信してほしいのです。
(文・構成=大越匡洋、写真=井田貴子)
アメリカファーストを推し進める大国のもと、長らく続く日米関係は新たなフェーズに入っている。日本とアメリカの関係を再構築し、国際社会でのプレゼンスを高めるためにはどうすればいいのか。新時代のリーダーに向けて、知日派の著者が提言する。
ジョシュア・ウォーカー著、石垣友明訳/日本経済新聞出版/2860円(税込み)
一国に2つのアメリカがあるような「冷たい内戦」をもたらすものの正体に、トランプ信者、反トランプ主義者、マイノリティ、不法移民ほか、多数の現場取材から描き出す。 日本には届かない生の声を現地特派員が丹念に拾った渾身のルポルタージュ!
大越匡洋著/日本経済新聞出版/2640円(税込み)

