2020年4月施行の改正意匠法で導入された「建築物・内装の意匠権」は、建築設計者やデザイナー、店舗運営に関わる事業者であれば押さえておくべき事項です。『建築 意匠権対策マニュアル』は、その基礎知識や実務ノウハウを紹介する1冊。今回は、著作権と意匠権の違いなどについて、著者の池谷和浩さんに聞きました。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

反響を呼んだ意匠権特集

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、『 建築 意匠権対策マニュアル 』の著者、池谷和浩さんにお越しいただきました。本書は、雑誌『日経アーキテクチュア』に掲載された特集を1冊にまとめたものということですね。

池谷和浩(以下、池谷) はい、『日経アーキテクチュア』は主に、設計事務所や建設会社、不動産デベロッパーなどで建築に携わる方々に読まれている専門誌です。

 建築にまつわる事件や事故、法制度、新たなプロジェクトなどを総合的に取り上げており、2021年4月に、近年話題になっている意匠権についての特集を組みました。その特集への反響が大きかったこともあり、『建築 意匠権対策マニュアル』の出版が決まりました。

住宅・建築関連の事件や事故の記事は注目度も高いとのこと。なかでも、建築デザインの模倣問題は深刻さを増していました
住宅・建築関連の事件や事故の記事は注目度も高いとのこと。なかでも、建築デザインの模倣問題は深刻さを増していました
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尾上 なるほど。では、池谷さんの自己紹介もお願いします。

池谷 『住宅産業新聞』という業界紙の記者を経て、フリーライターとして『日経アーキテクチュア』、そして、1999年に創刊され現在は休刊となっている『日経ホームビルダー』などに携わってきました。主に、事件や事故、訴訟、ニュースなどの記事を執筆しており、『日経ホームビルダー』では「住宅事件簿」というコラムも担当していました。

尾上 住宅実務情報誌である『日経ホームビルダー』の「住宅事件簿」は名物コラムとして知られていましたね。

池谷 「住宅事件簿」しか読まない、という人も少なくありませんでした。住宅関連の事件や事故は読者の関心が高く、記事のテーマとしても珍しかったのだと思います。

建築物の模倣問題、その深刻さ

尾上 これらの雑誌で住宅事件としてよく取り上げられていたのが、施工不良や設計図などによるものでした。こうした事件は、実際に多く存在したわけですよね。

池谷 『日経ホームビルダー』の創刊時期が、ちょうど欠陥住宅問題が勃発した頃でした。そうした背景もあって私も欠陥住宅問題は数多く見てきましたし、誌面でもたくさん紹介してきました。

 また、今回の著書でも「住宅事件簿」の記事を収録しています。積水ハウスが地域の工務店を訴えたというものです。自社のモデルハウスにそっくりなものを勝手につくられたため著作権法違反で訴えたのですが、棄却されました。

 この記事がよく読まれたということから、建築物の模倣問題の深刻さをずっと感じていました。そうした経緯もあり、1冊の本にまとめることができてよかったと思っています。

尾上 積水ハウスの記事というのは、本書の6章に登場するグルニエ・ダイン事件ですね。これは著作権に関わる事件なのですね。

池谷 はい、建築界では有名な事件で、私は一審から取材をしていたのですが、判決が出るまでに長い時間がかかりました。積水ハウスが販売した注文住宅「グルニエ・ダイン」はグッドデザイン賞も受賞した建築物ですが、それでも著作物には当たらないという結果に終わっています。

建築デザインを法で守る

尾上 この事件の記事が雑誌に掲載された当時から、建築物の著作権についての議論は多かったのでしょうか。

池谷 そうですね。建築家にしてみれば、自分が手掛けた建築物は自身の表現の発露であるわけです。「建築物にも著作権があってしかるべきだ」という議論は、当然のようにありました。

 しかし、模倣ともいえる建築物がつくられて、いざ訴えを起こしてみると「確かによく似ているが、著作権法が保護する対象ではない」と言われてしまう。そうした理不尽な判断をされ続けてきた歴史があります。

尾上 なるほど。そのような歴史があって、今回の著書のテーマでもある「意匠権」が出てくるわけですね。

池谷 意匠権は、特許権・商標権・実用新案権とともに、知的財産権のなかの「産業財産権」に含まれ、産業上の権利を保護するものとされています。つまり産業財産権は、「商売の役に立つかどうか」という視点で判断されます。

 一方で著作権は、限りなく人権に近いもの。例えば著作者人格権という、著作物を改変させない権利が含まれます。似ているようで意味合いが異なるわけですね。

 意匠権は知的財産権の一つではありますが、2019年の法改正まで、建築物は対象外とされていました。建築物以外では、例えば、キッコーマンのしょうゆ差しはその形状が意匠登録されており意匠権を持っています。そのため、デザインを模倣されることなく守られるという権利がある。そうした権利を建築物にまで広げたのが、この法改正なのです。

尾上 2019年に法改正されたということですから、最近の出来事ですよね。

池谷 2019年に法改正が行われ、2020年4月に施行されたばかりです。本書では、建築物や内装のデザイン領域における事件を解説するとともに、この新法の使いこなし方を提案しています。

構成/谷和美

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