ソフトバンクの孫正義さんの下で、数々の“むちゃぶり”をスピーディーに実行してきた池田昌人さん。大きな仕事を効率的に進めるための小さな習慣を紹介した著書『仕事は1枚の表にまとめなさい。』を基に、「表」を活用することで結果を出し、さらには人を動かしていく仕事術について、じっくりと掘り下げます。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

ソフトバンクと並行して子どもたちの未来を守る

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回から、『 仕事は1枚の表にまとめなさい。 』を取り上げます。ゲストには、著者の池田昌人さんにお越しいただきました。池田さんは、ソフトバンクでCSR本部長兼ESG推進室長、そして子ども未来支援財団の専務理事を務めていらっしゃるのですね。

池田昌人(以下、池田) ソフトバンクのCSRや子ども未来支援財団では、社会貢献に関わる仕事をしています。他にも、総務省から地域のDXを推進するアドバイザーのような仕事を受けたり、一般社団法人の事務局長をしたりと、様々な立場を活用しながら、自分のリソースや会社をうまく使って社会貢献をしていく、そんなことを中心に活動しています。

「子ども未来支援財団」での活動と同時に、ソフトバンクでの仕事にも従事している池田昌人さん。その多忙な日々の業務を支えていたのは、「表」でした/画像クリックでAmazonリンクへ
「子ども未来支援財団」での活動と同時に、ソフトバンクでの仕事にも従事している池田昌人さん。その多忙な日々の業務を支えていたのは、「表」でした/画像クリックでAmazonリンクへ

尾上 子ども未来支援財団とは、どのような組織なのでしょうか。

池田 もともとは、2011年3月11日に東日本大震災が起きた際、ソフトバンクの孫正義が個人で100億円の義援金を出すということで、その100億円のうち40億円を預かり、子どもを支援するために立ち上げた公益財団法人です。東北の子どもたちに「夢や希望を捨てないでほしい、未来は明るい」と伝えるために、子どもに関する奨学金や団体を支援してきました。東日本大震災から10年以上たち、東北だけでなく全国にも広げて子どもたちを支援していきたいと考え、子ども未来支援財団として活動を展開しているところです。

尾上 子どもたちの未来を支援するため、例えばどのようなことをされているのですか。

池田 被災して経済的に苦しくなった家庭に対して、大学生やひとり親になられた方への奨学金はあるのですが、高校生に対する奨学金制度はほとんどないのが実情でした。そこで財団では、困っている家庭に対して、高校生対象給付型奨学金「まなべる基金」という制度を運営しています。

 もう1つは、子どもを取り巻く環境の改善を目指して活動するNPOや支援団体の皆さんを助成金というかたちで支援し、地域の課題解決に役立てていただく。そういったサポートをする中間支援団体のような活動もしています。

尾上 普段のお仕事と、この財団のお仕事は、どのような割合でされているのでしょうか。

池田 本業であるソフトバンクの仕事が全体の6割くらいで、子ども未来支援財団やその他の活動が4割くらいかなと思います。

「表」はプライベートでも活用できる

尾上 そのように多忙ななか書かれたのが、本書『仕事は1枚の表にまとめなさい。』なのですね。池田さんは、様々な場面で「表」を活用されているということでしょうか。

池田 はい。表は誰でも使えて、情報を整理整頓しやすく、かつ伝わりやすいという特性があります。表をうまく使って仕事をすることは、とても有意義だと感じています。

尾上 「はじめに」では、仕事だけでなく、プライベートでも表を活用していると書かれていますね。

池田 そうですね。いろいろな情報を整理整頓する機能とともに、例えば人と話をしながら方向性を決めたり、前提を整理しながら合意形成をしたりするときに、表という形式は大変役に立ちます。本書の中では、「5W1H表」や「効果分析表」という言い方で紹介しています。

尾上 「はじめに」では、プライベートでの引っ越しのお話も出てきます。

池田 そこに掲載している表は、実際に今、私が住んでいる家を購入するときに、妻と合意形成を図るために作ったものを基にしています。マイホームを購入することは、人生の中でとても大きな買い物ですよね。買った後に妻と「ここがいいと言うから買ったんだろう」なんて言い争いになるのは望ましくありませんから、プライベートであっても「この方向でいいよね」と合意形成をするためには、表という形式が役に立つという事例の1つとして紹介しました。

マイホーム購入という失敗できないプロジェクトでも、家族の合意形成を図るために「表」がとても役に立ったとのこと/画像クリックでAmazonリンクへ
マイホーム購入という失敗できないプロジェクトでも、家族の合意形成を図るために「表」がとても役に立ったとのこと/画像クリックでAmazonリンクへ

文章で伝えきれないことを分かりやすく

尾上 池田さんは、どのような経緯で表を活用するというスタイルにたどり着いたのですか。

池田 実務をしていくなかで、表というかたちが一番いいと日ごろから感じていました。というのも、マーケティングの仕事をしていると、物事を同時にいくつも分析しないといけない場面があります。ただ物事って、例えば2軸ですんなりまとまるほど簡単なものではなく、複雑怪奇な状況になっていることもあるわけです。

 以前、孫(正義)に「君の分析はちょっと甘い。もっと分析を深めて、3Dで物事を見ろ」と言われたことがあるのですが、私は物事を3Dで理解できるほど頭がいいわけではありません。それで孫は、「何枚も何枚も分析して、それを重ねると立体に見えてくるから、表を何枚もやれ」と。この言葉がきっかけで、表というものになじんだ、というエピソードがまず1つあります。

 それともう1つは、上層部に込み入った提案をするとき、スライドを1枚1枚使って長々と説明しても、聞いている側は結局何を説明されたのかよく分からない、という状況がありました。最終的にサマリーで伝え直すとき、文章ではなく表形式にして整理整頓すると伝わりやすかった、という経験があり、表はいろいろな場面で使える、と実感したわけです。

尾上 説明をしていくプロセスで、聞いている側は自分の関心があることや理解できる部分は聞いているけど、それ以外のところは聞き逃したり、ちゃんと聞いていなかったりしますよね。

池田 おっしゃる通りです。人は1点に注目してそこに意識が集中してしまったり、逆にいろいろなことに思いを巡らせたりしてしまうので、結果、話をあまり聞いておらず、後々議論をすると前提が狂っていた──ということもあります。これを防ぐためにも、表は大変便利なツールだと思います。

尾上 話や説明をするとき、「この表のこの部分の話をしますよ」と伝えれば、聞く側はそこに集中できますしね。

池田 はい。全体と部分、両方を把握できることが表を使うメリットだと思います。

 また、相手とともに意思決定をするときなども、相手が何を気にしているのかをメモの文章だけで捉えると、いざ判断するとき、相手にとって重要だったことが自分にとっては重要ではなくなってしまうなど、判断を誤ってしまうことがあるのです。それを防ぐためにも、お互いがどこを意識しているのか──あなたはここ、私はここ、ということをつまびらかにできる点も、表のいいところだと思います。

文/佐々木恵美 構成/山崎 綾、市川史樹(日経BOOKプラス編集)

音声でこの記事を楽しみたい人は…