カリスマ的な人気を誇った元・駿台予備学校化学科講師で、その講義は日本一生徒を集めたといわれる犬塚壮志さん。著書『「よい説明」には型がある。』では、予備校講師時代の経験を経て編み出された「よい説明」を11の型に分類して、分かりやすく解説しています。本書の内容をまじえ、即使えて、かつ聞き手に伝わる説明テクニックについて伺いました。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
予備校クビの危機感から奮起
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、『 「よい説明」には型がある。 』の著者で、教育コンテンツプロデューサー、そして士教育代表取締役の犬塚壮志さんをお迎えしています。
犬塚さんの著書には『頭のいい説明は型で決まる』(PHP研究所)、『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『頭のいい人の対人関係』(サンクチュアリ出版)などがあり、今回の『「よい説明」には型がある。』は、2019年に出された『感動する説明「すぐできる」型』(PHP研究所)を大幅加筆、再構成、改題して文庫化したものということですね。
このように今まで何冊も「説明を解説する本」を出されていますが、やはり説明は難しいと感じてこられたのでしょうか。
犬塚壮志(以下、犬塚) そうですね。私自身、予備校講師になった当初からうまく説明ができたわけではありませんでした。私が受け持っていたのは化学で、元素記号を教えるときは「水兵リーベ僕の船」というおなじみの覚え方もあるし、説明スキルがなくてもどうにかなるだろうと思っていたんですね。

犬塚 でも、いざ人前に立って化学が苦手な子や初めて学ぶ子に伝えるとき、化学は自分の専門であるにもかかわらず「説明って、なんて難しいんだ」と感じました。自分が分かっていることを分かっていない人に興味を持ってもらえるよう伝えるのは、こんなにもスキルが必要なのか、と。予備校講師でいるためには、説明スキルを高めていくべきだと思いました。
尾上 説明が得意ではなかったとは、意外な感じがします。
犬塚 実は、説明が苦手でした。というより人前で話すのが苦手で、中学生の頃などはクラスメートの前で発表するときも、たったそれだけのことで手に汗びっしょりで、声が上ずって…という状態だったんです。でもそこは耐えて、予備校講師として生徒には化学というものをしっかり伝えたい、教育という仕事をしたいと思っていました。
尾上 でも予備校講師として経験を積まれてからは、犬塚さんが担当した夏期講習や冬期講習はかなりの人気だったと聞いています。
犬塚 10年間駿台予備学校に勤めて、9年目、10年目はありがたいことに「日本で一番、生徒が来てくれる化学の授業」と言われました。確か、社会人1年目の自分の売り上げは80万円くらいで、成果の出せなかった2年目はクビになるんじゃないかと毎日ヒヤヒヤしていましたが、売り上げが一番あった年は数千万円まで伸びていました。
尾上 すごい。成果によって2桁も3桁も売り上げが違うんですね。
犬塚 クビになる可能性を感じた社会人の2、3年目くらいから、「伝え方、話し方、説明力を高めなくては」と、もがき始めたのが分岐点だったと思っています。
売れっ子講師たちの共通点を発見
尾上 なるほど。そうした危機感から研究、分析に取り組み、話がうまく伝わらない原因を見いだしたわけですね。
犬塚 私の場合は予備校講師という仕事がきっかけでしたが、例えば何かの専門家や、その情報や知識にたけている場合でも、そうではない人に説明するとき、物事を捉えるスキルや情報量にギャップがあると感じると思います。そこをいかに埋めるかが、私も最初に苦しんだポイントでした。
でも、「ギャップを埋めるためにどうすべきか」と考えても、はじめは解決策がよく分かりませんでした。自分なりに試行錯誤してみたものの、顕著な変化はなかった。そこで、売れっ子講師たちの授業を見学させてもらったり、動画を見たりして、ひたすら分析しました。
それで見えてきたのが「説明がうまい人には共通点がある」ということ。科目や話す内容が違っていても、パターンがある。これを自分のものにするため、パターンや型を明確化したらうまくいくんじゃないかと仮説を立てたことが、自分が変わったきっかけでした。
尾上 本の中では、共通点やパターンだけでなく、相手や聞き手を意識することについても書かれていますね。
犬塚 はい、それも非常に重要です。自分がうまく伝えられたと思ったとしても、相手の中に「興味関心を持てるようになった」「スキルアップができた」「知識の習得ができた」「自分ごととしてアクションを起こせた」といった変化がないと、説明しなかったことに等しいのです。
これは予備校だけではなく、会社の中でも起こり得ます。仕事は細分化され複雑になり、専門性が高まっていますから、一人ひとりがやっていることをきちんと説明しないと、すれ違ったりトラブルが起きたりすることもありますよね。そういった考えもあり、きっと他の人にも役立つだろうと思い本にまとめました。
理屈より、ワクワクさせることが大切
尾上 第1章では、「なぜ『よい説明』ができないのか」について詳しく書かれています。犬塚さんが思う「よい説明」とは、どういうものなのでしょう。
犬塚 抽象的かもしれませんが、よい説明とは、聞き手の感情を刺激して、ワクワクして聞きたくなるような説明──と自分の中では定義しています。
説明が分かりにくいことも聞いてもらえない理由になるのですが、分かっても興味関心が持てない、自分には関係ない、この人は自分とは考え方が違うとなると、「つまらない」につながってしまいます。理屈や論理といったものよりも、どちらかというと情緒や感情に触れることが重要なのではないでしょうか。私自身、理系だったからか、そこに気付けませんでした。
尾上 なるほど。
犬塚 理屈を並べて論理構成がしっかりしていればみんな分かってくれる、話を聞いてくれたら通じる、心を通わせることができると思っていたのですが、それは大間違い。やはり、聞き手にどう関係するのか、メリットがあるのか、役に立つのかなどが感覚的に伝わらないと、「つまらない」と思ってしまい耳を傾けてくれないのですね。
尾上 受験生は特にそうでしょうけど、社会人でも同じですね。
犬塚 はい、本当にそう思います。
尾上 では、次回はその説明の「型」について詳しく教えてください。
文/三浦香代子 編集協力/山崎 綾