カリスマ的な人気を誇った元・駿台予備学校化学科講師で、その講義は日本一生徒を集めたといわれる犬塚壮志さん。著書『「よい説明」には型がある。』では、予備校講師時代の経験を経て編み出された「よい説明」を11の型に分類して、分かりやすく解説しています。本書の内容をまじえ、即使えて、かつ聞き手に伝わる説明テクニックについて伺いました。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
全部伝えることが「よい説明」ではない
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 前回は、犬塚さんがどうやって「よい説明」という考えにたどり着いたのかを伺いました。今回は、それらを紹介する著作『 「よい説明」には型がある。 』から、よい説明の型について具体的に伺いたいと思います。まず、その型は11あるとのことですが…
第1の型「メリット訴求」
第2の型「対比」
第3の型「因果」
第4の型「カットダウン」
第5の型「破壊」
第6の型「ニュース」
第7の型「希少性」
第8の型「伏線回収」
第9の型「決断誘導」
第10の型「自己主張」
第11の型「欠如アピール」
…結構いっぱいありますね。
犬塚壮志(以下、犬塚) そうですね(笑)。11は多いなと感じる人はいるかもしれませんね。

尾上 いくつかピックアップして紹介しますが、まず第4の型「カットダウン」。これはどういうことでしょうか。
犬塚 説明するときには、大前提として聞き手よりも話し手のほうが情報をたくさん持っています。今の社会には情報があふれていて、皆さん情報を選別して受け取るのに労力を費やしていますよね。そこで、話し手は聞き手の負担を減らすことに意識を向け、情報量を減らす。これが「カットダウン」、つまり削減です。
聞き手は、全部でどのくらいの情報量があるのか分からないなかで急に「じゃあ、今からカットダウンという型を説明します」と言われても、そこにいきなり興味関心を持つのは難しいですよね。その場合、「まず11の型があります」「スライド資料は全部で120ページあります」など、全部でどれだけあるかを聞き手に示す。そして「それを全部説明すると時間がかかる」「時間には限りがある」と伝えた上で、「なので、カットダウンの型に絞ってお話しします」とすることで、初めて相手は「ああ、大切な情報に絞ってくれている」と価値を感じます。
説明は、相手の中にいかに残すか、その後に相手がアクションを起こしてくれるかが大事です。全部伝えることが目的になってしまうと、結局相手のストレスになって変化につながらず、現実でも変化は起こらない。それが一番もったいないですよね。
尾上 なるほど。型を意識できれば、使うのは難しくなさそうですね。
犬塚 型は堅苦しい、はめ込むのが大変、手順が難しそうと思う人もいるかもしれませんが、なにげなく使っていたり、聞いたりしたものも結構あります。意外とすぐ使えるものもありますよ。
「対比」を使うとイメージしやすい
尾上 では次に、少し戻って第2の型「対比」についても解説をお願いします。
犬塚 人は「比べないと分からない」ことがあります。例えば前回、予備校講師時代の初年度の売り上げが80万円くらいだったとお話ししましたが、80万円という金額が実際どの程度なのか、多いのか少ないのかピンとこないですよね。そこで「売り上げの平均は400万〜500万円」「私は多いときで数千万円」「場合によっては億いきます」と言うと、80万円の少なさが伝わります。
ですので、特に聞き手の専門外、知らない分野の数字を出すときは、比較をするとイメージしやすい。これが対比のベースになります。
尾上 確かに。前回「80万円」と聞いたとき、多いのか少ないのか最初はよく分かりませんでした。
犬塚 自分では少ないと思っているけれども、いざ他の人に伝えたときに、多いのか少ないのか相手はよく分からないという事態はたびたび起こります。例えば、不動産業の人が「今月、家1件の契約を取ったんだ」と言ったときに、その業界的には「1件取れたんだ、すごいな」となるかもしれないけれど、小売業の人だと日々多くの取引をしているでしょうから、「えっ、たったの1件!?」と思われる可能性もあるわけです。
こういう場合に、例えば業界平均では年間で契約1件取れればいいほうなのに、今月すでに1件契約したということなら、初めて「その数字はすごいんだ」と分かります。
尾上 話し手と聞き手の情報にギャップがあるからこそ、この手法を使うと効果的なんですね。
犬塚 その通りです。また、数値ではなく、食べ物のおいしさを伝えるのにも使えると思います。例えば、ハンバーグを食べたとき「おいしかった」だけでもいいのですが、「今まで食べたハンバーグと比べると、ここが違っていた」「ナイフを入れたときの肉汁のあふれ出し方が桁違いだった」と、何かと比べてどうだったかは数字でなくても伝えられます。そしてできるだけ相手も知っているものと比較をすると、イメージしやすいです。
共通の敵をつくり、主張を際立たせる
尾上 さらに、その対比を使うときに「選抜」と「仮想敵」という2つの武器を使うと効果的だそうですね。
犬塚 「カットダウン」でもお話ししたように、今は情報過多の時代で、人がその分野すべての情報を知ることは不可能です。ただ専門家であれば、ある程度全体像を把握しています。そこで情報を持っていない人に、「この専門分野に関係する本は1000冊あるけれども、その中であなたに一番ぴったりの1冊を選んできました」と「選抜」すると、残りの999冊に比べて、この1冊の価値が上がります。「とりあえずこれを読んでおいて」と言うよりも、圧倒的に相手の意欲をかき立てることができます。
尾上 なるほど。それが「選抜」という武器なのですね。
犬塚 もう1つの「仮想敵」は、例えば昔話の桃太郎の物語は悪者である鬼を退治したところに価値があり、別の言い方をすると、鬼という敵がいなかったら成り立ちませんよね。
仮想敵とは、何らかの敵を設定することによって、自分の主張の価値を高める手法です。ただ、企業などを敵にするとハレーションが起きたり、攻撃的になり過ぎたりするので、例えば貧困や格差など概念的なものを敵にして、そこに対する自分の主張を際立たせていくほうがいいと思います。
尾上 敵を具体的にし過ぎると、角が立つ部分もありそうです。
犬塚 そうですね。ポジショントークになったり、アンチを生みやすくなったり、忖度(そんたく)が起きたりするので、あくまで概念的なものであったり仮想のものにしたりしたほうがいいと思っています。
尾上 聞き手と話し手が同じベクトルを見つけられると、説明が分かりやすく伝わるということですね。
文/三浦香代子 編集協力/山崎 綾