人類は古より、「死にたくない」「永遠の命が欲しい」と不死への欲求を抱いてきました。しかし、どれだけ文明が発達してもそれは実現できず、今後もかなうことはないかもしれません。人類は、どう生きるべきなのでしょうか。『ケンブリッジ大学・人気哲学者の「不死」の講義』を基に、編集を担当した宮本沙織さんに聞きました。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
多くの人々を捉えた普遍的テーマ
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、『 ケンブリッジ大学・人気哲学者の「不死」の講義 』を取り上げます。ゲストは編集担当の宮本沙織さんです。こちらはどんな本なのか、紹介いただけますか。
宮本沙織・日経BP(以下、宮本) ケンブリッジ大学で哲学の教授をしている著者のスティーヴン・ケイヴさんの講義をまとめた本です。人間だけが持っている「死にたくない」「長生きしたい」という思いを通し、人類はどう発展してきたのか、そして、どうやって生きていくのかを考察している1冊です。
尾上 「不死」とは、少し重そうなテーマですね。
宮本 テーマとしては重いのですが、本書は私たちが歴史の授業などで聞いたことのある偉人や、身近なエピソードもたくさん入っています。さほど重さを感じることなく、読みながら考えさせられる1冊だと思います。
尾上 著者のTEDトークは、258万回も再生されているとか。
宮本 すごいですよね。やはり、どうやって生きるのか、やがて死ぬことをどう受け止めたらいいのかということは、多くの人が心に抱く普遍的なテーマなのだと思います。
尾上 同じようなテーマで、文響社から『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』という本が出ています。実は、この本の編集も宮本さんが担当されたそうですね。
宮本 はい。私が2019年に日経BPに入社する前、文響社にいたときに『「死」とは何か』を作りました。死とはどういうことなのか、何をもって死とするのか、自分とは何か、どう生きるべきかといったことを、イェール大学のシェリー・ケーガン教授が学生に語るようなかたちでまとめた1冊です。
尾上 『「死」とは何か』も、今回の『「不死」の講義』も、翻訳者は柴田裕之さんですね。
宮本 はい。『「死」とは何か』を担当するときにイメージしていたのが、柴田さんが翻訳された河出書房新社の『サピエンス全史』でした。『サピエンス全史』も、人類がどのように歩んできて、今後どのように歩んでいったらいいのかを考えさせる1冊です。その事実の述べ方、切り口、口調にすごく引かれまして、柴田さんにお願いしました。
尾上 『「不死」の講義』を翻訳する際、柴田さんは著者に直接メールで質問を送って、著者も丁寧に回答してくれたそうですね。
宮本 柴田さんは大ベテランの翻訳者ですが、訳すなかで、この言葉はどういうニュアンスで使っているのかと気になることがあるそうです。そのとき勝手に意訳せず、著者に教えてもらうことで、著者の意図を訳文に反映してくださっています。
必ず訪れる「死」から逃れられるのか
尾上 帯のコピーについても伺いたいのですが、『「死」とは何か』の帯には「だからこそ、どう生きるべきか」とあり、『「不死」の講義』の帯にも「私たちは、どう生きるべきなのか?」と書かれています。
宮本 実は、あえて似たようなことを書かせてもらいました。「死とは何か」、だから「どう生きるのか」、ということは自然に考えられると思います。そして、今回の『「不死」の講義』で、著者のケイヴさんは「死とは何か」以上に「どうやって生きたらいいのか」「不死を探求してきたけれども実現できておらず、かつこの先もおそらく実現できないであろう」「乗り越えられない厳しい現実に向き合っていくことができるのか」ということを大きなテーマにしています。今回はこのコピーこそが、著者が読者に一番訴えたいメッセージなのではないかと考えています。
尾上 TEDの動画を見ても、そのようなメッセージが伝わってきますね。
宮本 人類はエジプト文明の頃から、死なないために、より長生きするためにどうしたらいいのかということを繰り返し考え、現在まで歩んできました。でも、パンデミックや地震が起きると、どうしたって私たちは死ぬんだということを実感しますよね。そのうえで、死とどのように向き合えばいいのか、本当は逃げたいけれど逃げられないものとどう付き合っていくのかを考えさせられる本です。
尾上 この本の第1章やTEDの動画でも、ケイヴさんは「死のパラドックス」について話しています。人は必ず死ぬ。しかし、誰もが自分の死は受け入れられない、と。それが不死を求める人間らしさなのでしょうか。
宮本 そうですね。そして、人間の想像力の限界でもあると思います。この本では、人間だけが自分の死を想像して対応できたので、文明や文化を築くことができたとも言っています。しかし、本当の意味での自分の死を想像することは、まだ誰もできないんじゃないかとも述べられているんです。
尾上 本当の自分の死を想像することは、やはり難しいですね。
宮本 どう想像していいのかが分からないというのが現実ではないでしょうか。例えば自分が死んだとして、その死んだ体を見ている自分を想像することはできると思います。この状況は、死んだ自分を、意思のあるもう1人の自分、つまり生きている自分がそこにいて見ている ということですから、それは死を正しく想像しているわけではないだろうと。
尾上 確かにそうですね。そこがある意味パラドックスなのでしょうか。
宮本 そうなんです。人間の想像力ではたどり着けない。それができたら、もしかしたら不死は達成できるかもしれないですね。
尾上 不死への欲求が、人類の進歩の原動力だとも書かれていますね。では、次回から、どのように人間が不死を求めてきたのかを聞かせてください。
構成/三浦香代子
