人類は古より、「死にたくない」「永遠の命が欲しい」と不死への欲求を抱いてきました。しかし、どれだけ文明が発達してもそれは実現できず、今後もかなうことはないかもしれません。人類は、どう生きるべきなのでしょうか。『ケンブリッジ大学・人気哲学者の「不死」の講義』を基に、編集を担当した宮本沙織さんに聞きました。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
「自分が死ぬ」ことに執着しない
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 前回は、『 ケンブリッジ大学・人気哲学者の「不死」の講義 』から、不死に至るための4つのシナリオについて伺いました。本書ではその結論として、最後の第10章があります。
宮本沙織・日経BP(以下、宮本) 著者のスティーヴン・ケイヴさんは、「これから先もしばらくは不死にたどり着けないだろう」と言っています。いつかは必ず死ぬことを踏まえたうえで、「どう生きていくのがいいのか、しっかり考えることが重要である」と結論づけています。
尾上 そのために3つの戦略があるのですね。
宮本 どうしても逃れられない死にとらわれるのではなく、より充実して生きるための戦略です。1つ目が「『自分』に対する執着レベルを下げる」、2つ目が「『明日死んでも後悔しない』かつ『明日死ななくても後悔しない』道を選ぶ」、3つ目が「『不可避の死』からの副産物に感謝の念を持つ」です。
人類は、どうやって生き残るか、生き延びるかということを考えた結果、進歩してきました。しかし、「自分が必ず死ぬ」という事実に真正面から向き合うと、結局そこからは逃れられないということが分かる。だから、自分が死ぬという事実だけではなく、例えば「遺産(レガシー)」シナリオにおいて、他人との共感や共有、自分が生み出してきたもの、自分が歩んできた道を視野に入れて生きる。そうやって、自分が死ぬという事実と向き合い過ぎないようにしようというのが、1つ目の「『自分』に対する執着レベルを下げる」です。
尾上 あまり執着し過ぎないという戦略ですね。
宮本 はい。どれだけ考えても克服できないので、そうするしかないですよね。それから2つ目は「『明日死んでも後悔しない』かつ『明日死ななくても後悔しない』道を選ぶ」。よく、「今日が人生最後の日であるように生きなさい」と言われますよね。
尾上 はい、言われますね。
宮本 でも、心のどこかで、「いや、別に今日が人生最後の日じゃないし」と思ってしまいます。ただ「今日死んでも後悔しないけど、死ななくても後悔しない」はすごく建設的だし、ふに落ちるメッセージだと感じました。
尾上 「もし、明日死ぬとしても後悔しない」ように、大嫌いな仕事を辞めるかもしれない。でも、「死なないとしても後悔しないように生きる」ことが、去り際に上司に一発お見舞いするのを思いとどまらせてくれるはずだ、という著者の言葉は面白いですね(笑)。そして3つ目は。
宮本 3つ目は「『不可避の死』からの副産物に感謝の念を持つ」。著者は「死があるから生の意味がより出てくる」と言っています。永遠に生き続けられるのだったら、今日仕事に行くかどうか迷っても結局布団から出ないですよね。
そして、自分が死ぬことを避けられないから子孫を残す、医学を発展させる、文化を残す。それが人類の文明というかたちで受け継がれてきました。もし、ある時点で不死が達成できたら、それらもすべて止まるでしょう。人類がこれまで不死を追求し、達成できないからこそ積み上げてきたものを大事にしようと言っています。
永遠に生きたとして、何をするのか
尾上 不死が実現すると、時間の概念がなくなるという話もありますね。
宮本 編集を担当した『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義』(文響社)にも書かれている例ですが、「永遠に生き続けるとして、何をするのか問題」があります。永遠に生き続けるということは、世の中のあらゆる物事をすることが可能です。例えばパズルが好きな人だったら、1万問でも2万問でも3万問でも解く時間がある。でも、それでも時間は使い果たせないとなると、時間の意味がなくなります。
尾上 時間が限られているからこそ、今これをしたい、と思う。でも、時間が無限にあると、欲求や意欲が失われるでしょうね。生きている意味すら感じなくなってしまいそうです。
宮本 やはり生きているからこそ、いろいろな物事は楽しいし、ご飯はおいしいし、お布団で寝ることは気持ちいい。死は避けられないし、完全になくすことはできない。でも、人生を豊かにするという意味はあると思います。
尾上 著者はよい物語を自分でつくっていくと考えて、生きることに向き合おうとも言っていますね。時間の概念や生きるということを改めて考えるきっかけになった気がします。
この『「不死」の講義』と、宮本さんが担当された『「死」とは何か』が同じ年に書かれているのも面白いですね。
宮本 哲学ど真ん中のテーマを読みたいならば『「死」とは何か』のほうを、読みものとして面白いものを読みたいなら『「不死」の講義』をお薦めします。
コロナ禍で、命について考える機会のあった方も多いと思います。そうしたなかで、今も疑問が中ぶらりんになっているなら、これらの本を読んで考えを深めていただけたらうれしいです。
構成/三浦香代子
