2003年から漫画雑誌『モーニング』に連載されて、2021年には『ドラゴン桜2』がドラマ化。偏差値36の高校生を東京大学に合格させるストーリーや勉強法が話題となった。そんな大ヒット作をテーマにした 『東大メンタル』 の著者は、現役東大生の西岡壱誠さん。読みどころを聞くと、多くの人に役立つヒントが見えてきた。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

偏差値35から東大合格の“リアルドラゴン桜”

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 西岡さんは現役の東大生(収録当時)で、漫画『ドラゴン桜2』に関わり、ドラマも監修されたそうですね。

西岡壱誠(以下、西岡) 僕は勉強が大嫌いで、いろいろ中途半端な感じの人間だったのですが、学校の先生に「そのままじゃダメだ」とドラゴン桜の桜木先生のように声をかけてもらったのがきっかけで、東大を目指すようになりました。偏差値35から東大に合格した“リアルドラゴン桜”なんです。もちろん当時『ドラゴン桜』も読んでいて、影響を受けました。

『ドラゴン桜』は、もともと東大卒の佐渡島庸平さんが編集者として監修されていました。そして、ちょうど「2」が始まるとき、最新の東大生たちの勉強法を取り入れたいということで、声をかけていただきました。

偏差値35から東大合格して、『ドラゴン桜2』の編集担当になった著者が、東大生に学んだメンタル・テクニックを解説した『東大メンタル』
偏差値35から東大合格して、『ドラゴン桜2』の編集担当になった著者が、東大生に学んだメンタル・テクニックを解説した『東大メンタル』

やるべき勉強の本質は変わらない

尾上 「1」のときと、今回の「2」で、大きく変わったところはありますか。

西岡 それは作者の三田紀房先生ともお話ししたのですが、基本的に本質は変わっていません。ただ、例えば計算のスピードを上げることが大切という考えを基に、「1」ではドリル形式で問題を解いていたのが、「2」になるとLINEで送られてきた数字を送り返してバトルをする。時代に合わせて、ITツールを活用するというようなやり方は変わっていると思います。

尾上 西岡さんの本のタイトルにある「メンタル」も、変わらないテーマでしょうか。

西岡 はい。三田先生はずっと野球漫画を描いていたんです。だから、『ドラゴン桜』を出したときは驚いた方が結構いたそうです。でも、先生は受験をスポーツと捉え、「受験はスポ根です」と言っています。スポーツは自分の身体能力はもちろん、精神面を鍛えるものとしても注目されていますよね。

 みなさんは、スポーツの語源を知っていますか? ラテン語の「deportare」(デポルターレ)に由来しますが、さらに分解して「port(港)」を「super(超える)」と捉えることもできます。今いる場所から、今の日常から、全然違う場所に行くための努力をすること。これがスポーツの本質であるとも考えられます。受験や『ドラゴン桜』も、偏差値が低いところから高いところへジャンプアップする。スポーツと同じなんですね。

受験によって「非認知能力」を得られる

尾上 スポーツと受験には共通点があり、今も本質は変わらないということですね。この本では「非認知能力」が大きく取り上げられています。改めて「非認知能力」とはどんなものですか。

西岡 最近、「認知能力」と「非認知能力」という言葉が注目されています。この「2」では、共著の中山芳一先生に非認知能力のスペシャリストとしてお話を伺いました。

「認知能力」というのは、例えば数学が何点、国語が何点というように点数化できる能力のこと。受験においては、その能力が上がる・下がるという話になります。一方で、主体性やメタ認知力、コミュニケーション能力、忍耐力のような数値化できない能力のことは「非認知能力」と呼ばれています。そして、この「非認知能力」は受験では得られないといわれる傾向がこれまで強かったのですが、実はそんなことはないと思っています。

 人には、「やりたくない」とか「大変だから」という理由でモチベーションが上がらない時期があります。でも、そのなかで何とか自力で、いろいろな壁や問題を乗り越えていく。その過程で人間的にどんどん成長していくことができます。『ドラゴン桜』はそういうことを伝えてくれる漫画なんです。それを別の形にしたくて、今回の本を書きました。

尾上 『ドラゴン桜2』のドラマ(2021年TBS系列で放送)を見ていると、受験のために単に学力を上げていくだけでなく、生徒たちが成長していく姿が垣間見えますよね。その点は、先ほど言われていたスポ根に通じますね。

西岡 いわゆるスポーツドラマって、生徒たちがどんどん成長していくじゃないですか。その過程は『ドラゴン桜』も同じだと思うんですよね。取り扱っているテーマがスポーツか受験かというのは、実はさしたる違いはなくて。そこから学ぶことは多いと思います。

尾上 確かに、スポーツにおいても、技術がいくら向上しても結果が出ないというのは、そうした人間性の成長が伴っていないから、という部分もありそうですね。

西岡 その通りだと思います。

構成/佐々木恵美 

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