「マネジメントの権威」として世界的に高名な経営学者ピーター・ドラッカー。ドラッカーから直接教えを受けた藤田勝利さんが『 新版 ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント 』を2021年4月12日に出版した。本書に込めた思いと読みどころを聞いた。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
ドラッカー・スクールでマネジメントを学ぶ
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 藤田さんは、現在どのような活動をしているのですか。
藤田勝利(以下、藤田) 現在は、大学で教壇に立ち、企業の経営層へ向けた育成プログラムの設計や提供、スタートアップやイノベーションの機会を創発する非営利事業の経営マネジメントといった、多様な分野で活動しています。
尾上 アメリカのクレアモント大学院大学のドラッカー・スクールオブマネジメントでMBAを取得されていますが、ドラッカーさんから直接教わったのですか。
藤田 私が在籍した2002年から2004年は、ドラッカーさんはもう90歳を過ぎたご高齢で、さすがに毎週教壇に立つことはありませんでした。でも時々学校に来て生徒とディスカッションしたり、地域の方と一緒に話したりする場を作ってくださいましたね。
尾上 マネジメントスクールとしてはどのような特徴が?
藤田 MBAを取得するためのビジネス科目が多いですが、非常に特徴的だったのは、ビジネスのためだけではなく、最終的には優れた組織を経営すること、そのリーダーになることを目指し、学んでいくというのがコンセプトになっていることだと思います。
組織が抱える課題は、共通している
尾上 改めて新版を出されたのには、きっかけがあったのでしょうか。
藤田 2013年に初版を出版したあと、自分の研究を進めていくなかで、時代や企業の様子が変化してきたことを感じていました。さらにドラッカー・スクールの先生方とディスカッションや勉強会などを続けていて知見が広がったこともあり、そろそろ新版を出せたら面白いなと思ったのです。
尾上 今、ドラッカーが社会に必要とされていると思いますか。
藤田 ドラッカーの著作は、時代を超えて多くの人に読まれています。特にマネジメントを実践している読者が多く、組織のリーダーになる方が参考にされているようです。
私は今、大企業やスタートアップ、地方自治体などに関わっていますが、抱えているマネジメントの課題は共通する点が多いと感じています。ですから、もう一度より分かりやすく、そういう方たちの役に立ちたいと思いました。
尾上 共通している課題とは、具体的にどういうものでしょう。
藤田 人が集まって成果を出そうとするときに、そこが研究所か病院か株式会社かで、成果をあげる方法はそれぞれ違うと思うんです。けれど、何を考えるべきか、どこに留意しなければいけないのか、何をしたらNGなのかといった部分にはほぼ共通したフレームワークを使えて、なかでも一番汎用的なものを示したのがピーター・ドラッカーだったと思います。
ドラッカー以前はマネジメントのフレームワークというものがなくて、ドラッカー自身で一つの大きな概念体系を作らざるを得なかった。その後経営学やマーケティング、会計などさまざまなフレームワークやセオリーが出てきたけれど、やはりドラッカーという源流をたどって全体を見渡すやり方が、間違いないと思います。
マネジメントは強みを生かした創造活動
尾上 本のタイトルにある「本当のマネジメント」とは、何でしょうか。
藤田 「本当の」とわざわざ付けたのは、誤解を恐れずに言えば、ほとんどの会社がマネジメントは管理だと誤解しているのではないかと、多くの相談を受けるなかで気づいたからです。マネジメントはコントロール的な要素も必要ですが、ルールを順守してもらうことが主ではありません。目的を掲げ、人が協力し合って、創造・創発活動を実行していくことがマネジメントです。その最もベースの部分を間違えてしまっていて、管理職になりたい、なりたくないという議論が横行していたので、あえて「本当の」を付けました。
尾上 確かに、マネジメントは管理だとイメージしがちですね。
藤田 マネジメントという言葉が日本に入ってきたときは管理という訳が主流だったので、そこから企業の中でも管理というイメージがついてしまったのでしょう。また、右肩上がりで経済が成長してきた時代は、管理をすれば結果が出ることが多かったのではと思います。
尾上 この本では、マネジメントは管理ではなく創造と捉えています。
藤田 集団による創造や創発の活動が、マネジメントだと考えます。ひとりで何かを創造するのは、スキルがあればさほど難しいことではないかもしれません。しかし人が増えていくほど、当初の目的からズレていったり、強みでないことを周囲から無理強いされてギクシャクしたり、あるいはコミュニケーションが円滑に進まなくなったり。そもそも誰にこの価値を提供するのか最初は明確にしていたつもりでも、人が増えるとそこからズレていくこともあると思うんですよね。確認すべき問題はいくつもあって、それらを整理し、マネジメントという体系全体でお伝えしています。
尾上 「強み」というキーワードも出てきますね。
藤田 ドラッカーの経営学で一番強調される言葉に「Build on your own strength」というのがあります。これは、企業、そして人を生かすために、その人独自の強みの上に施策を築いていきなさい、ということです。優れた結果を出したければ、人の弱みではなく強みを打ち出さなければいけない。これはとても重要なメッセージです。
構成/佐々木恵美