「マネジメントの権威」として世界的に高名な経営学者ピーター・ドラッカー。ドラッカーから直接教えを受けた藤田勝利さんが『 新版 ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント 』を2021年4月12日に出版した。本書に込めた思いと読みどころを聞いた。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
マネジメントがもたらす社会的意義
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) ドラッカーが目指したマネジメントの社会的意義について、教えてください。
藤田勝利(以下、藤田) ドラッカーの思想の源流をたどると、どのようにすれば社会と人を幸福にできるかというところから始まっています。それは社会と人それぞれにアプローチするというよりも、社会と人との間にある組織に焦点を当て、そこでいかに優れたマネジメントをするかが重要だと考えられます。
それが為されれば、働く人は自身の成長や人とのつながりを感じるようになり、笑顔で家に帰ることができる。また、そういった優れたマネジメントを実現した企業からは、財やサービスなど、社会に多くの富がもたらされることになります。
企業のマネジメントは、社会に貢献するための重要な役割を果たします。このことが、ドラッカーがマネジメントを研究対象にした所以であるということは強調しておきたいですね。
尾上 社会的意義を求めるところは、ドラッカーが尊敬していた渋沢栄一にも通じますね。
藤田 ドラッカーが世界で尊敬する事業家を3人挙げるとしたら、間違いなく渋沢栄一が入りますね。渋沢は『論語と算盤』で有名ですが、マネジメントにおいて重要なのは社会的責任であるということに誰よりも早く気づいていた人物だと思います。
尾上 マネジメントの中にも責任が出てくるのですね。
藤田 企業の社会的責任については、CSRやSDGsのような単語で語られることが多くなりました。しかしドラッカーの視点では、日々の一人ひとりの仕事がどのような社会の幸福を生み出しているか、また、それをマネジャーが言語化できているかという点をみています。CSRの部署が全部まとめてやってくれています、ということではなくて、今日行われている経理や営業、マーケティングの仕事ひとつひとつの先にはどのような社会幸福があるのか、そこに人々の幸せな顔を描けているかが大切です。それが共有されている職場は、やりがいやパフォーマンスが高いという話もよく聞きます。
尾上 企業に限らず、組織を立ち上げて動き出すとき、社会を幸福にするための活動へとどうつなげていくかが大切なんですね。
藤田 そのとおりです。ドラッカーのマネジメント理論は非常にすそ野が広い考え方なので、病院やスポーツ球団の経営者、NPO、政府、学校の先生方など、幅広い分野で活用できるのではないでしょうか。ドラッカーのクライアントも多種多様だったそうですから。
尾上 最後の章では、情報技術やITコミュニケーションの分野にも話題が広がっています。
藤田 私にはシステム開発のプロジェクトをリードする仕事に長く携わった経験があり、システム開発の現場こそマネジメントの知識を取り入れないと迷走しやすいのではと感じていました。プロジェクトの本質的な目的は何か、システム導入によって喜ばせたい顧客やその価値など、マネジメントの課題をシステム開発の現場でも考えていく必要があると思います。
マネジメントはリベラルアーツである
尾上 本書では、マネジメントはリベラルアーツであるともお話されていますよね。
藤田 これもドラッカーが伝えた有名な言葉です。今は本屋さんに行くと、経営とリベラルアーツを結びつけることは経営者にとって必要な考え方だと謳う本がたくさん出ていますが、それを最初に伝えたのはドラッカーだと思います。
マネジメントはリベラルアーツだと語るうえでは、3つのポイントがあります。マネジメントは、役職者でもそれ以外の人でもポケットにしまうように身に付け、いつでも使えるようにする一般教養だというのが1つ。2つ目は、マネジメントは人や社会に関わるテーマなので、経営学だけでなく心理学や社会学、政治学、経済学、技術など、いろいろなことに関心を持たなければならないということ。
そして3つ目が一番重要で、リベラルアーツの名の通り、マネジメントは自由になれる知識であること。新しい組織のマネジメントを任されたときに、受け身になって固まってしまうこともあるかもしれません。でも、マネジメントの知識を活かせれば、仕事を自由に設計し、やるべきこと、やってはいけないことの判断ができて、ますます自由な働き方ができるようになるのではないでしょうか。
人と関わり成果をあげたい人に読んでほしい
尾上 私はこの本を読んで、まずはセルフマネジメント、そしてほかのメンバーの強みにフォーカスしていくことが大切なのだと思いました。
藤田 ドラッカー自身も、自分自身をマネジメントできない人は他者をマネジメントできないと言っていますね。
尾上 藤田さんはこの本をどんな方に読んでもらいたいと考えますか。
藤田 今はセルフマネジメントの時代で、リモートやウェブ型の組織が浸透していくとともに、入社1年目でもプロジェクトをリードするような立場の方が増えています。役職のあるなしにかかわらず、人と関わって価値ある成果をあげたいと願う人にぜひ読んでいただきたいですね。マネジメントを学ぶとますます仕事が楽しくなり、この人と一緒に仕事をすると生産的だな、今日1日楽しく働けたな、とまわりの人たちも感じてくれるようになると思いますよ。
構成/佐々木恵美