アマゾンで次々にイノベーションが起こるのはなぜなのか。『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)──イノベーション量産の方程式』は、アマゾン独自のイノベーション・メカニズムの全容を、日本企業が再現可能な形で紹介した一冊。3回目となる今回は、アマゾンのリーダーシップ原則について、著者の谷敏行さんが解説します。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
上司ではなく顧客の意見を重視
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回も、『 Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)──イノベーション量産の方程式 』の著者である谷敏行さんにお越しいただいています。では谷さん、本作で取り上げているアマゾンの「リーダーシップ原則」について教えていただけますか。
谷敏行(以下、谷) アマゾンには16項目のリーダーシップ原則があります。これは日本語でいうと行動規範のようなものですね。
その1番目に挙げられているのが「Customer Obsession」、つまり顧客を大切にするという信念です。アマゾンでは顧客を重要視し、顧客に信頼される会社になることを第一に考えています。他の15個の原則については順位付けされていないことからも、アマゾンにとっていかに「Customer Obsession」が特別なものかが分かります。
アマゾンでは、すべてのレイヤーの社員が「顧客にとって何がベストなのか」を考えて行動しています。チーム内で、顧客よりも利益を優先するような意見が出れば「それはCustomer Obsessionが足りない提案ではないでしょうか」というフィードバックがくるでしょう。そうした社風を見るにつれ、これがアマゾンの強さの理由なのだと感じましたね。彼らが仕事をするなかで最も重視しているのは、上司ではなく顧客の意見なんです。
尾上 そのうえで谷さんは、この原則がなければイノベーションを起こせないわけではない、とも書かれています。
谷 アマゾンに入社する人に、はじめからこうした考えが身に付いているわけではありません。アマゾンの仕組みを知ってイノベーションを体験したり、周囲の社員から話を聞いたりするうちに腹落ちするものです。そうした経験を通して、イノベーションを起こすようになっていくのです。
日本企業でも、このような仕組みを取り入れることでイノベーションを起こしやすくなっていくはずです。そのとき、私が本書で体系化した仕組みで足りない場合は、現場でディスカッションをして補い、独自の行動規範を設定していただきたいと思います。そうすればアマゾンと同じように、イノベーションを起こせるようになるのではないでしょうか。
今、イノベーション創出力が必要な理由
尾上 この本には、日本のあらゆる企業と個人にイノベーション創出力が必要となる理由も書かれていますね。
谷 バブル以降、現在までの時間は「失われた30年」といわれています。大きなイノベーションが起こることもなく、日本経済が芳しくない状況にあるのは周知の事実です。そして、この状況がさらに続く可能性を危惧する人もたくさんいます。
尾上 なぜこうなってしまったのでしょうか。
谷 これまでも定期的に、イノベーションプラットフォームになるような技術は出てきています。例えば90年代や2000年ごろには、コンピューターとインターネットのプラットフォームが出てきました。しかし、日本企業はその波に乗り切れなかった部分があったのです。
そして実は今、次の波がきています。エネルギー貯蔵、AI、ロボティクス、ゲノム解析、ブロックチェーン技術といった大きな波がすでに5つもきていて、そのインパクトはインターネットよりもずっと大きいといわれています。『2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ』(NewsPicksパブリッシング)という本のなかで著者の一人であるピーター・ディアマンディスが書いていますが、デジタル化と技術のコンバージョンによって、技術がエクスポネンシャルに進化していく。今後10年でインターネットの何倍にも相当する波がくるといわれています。
波に乗るタイミングを見逃すな
尾上 その波に乗れなかったら、どうなるのでしょう。
谷 「失われた30年」どころの話ではなくなってしまいます。だからこそ私は危機感を持っていて、この波に乗りイノベーションを起こしていく仕組みを、日本企業にも取り入れてほしいと考えてこの本を書きました。
尾上 先ほどおっしゃっていた5つの大きな波に乗っていけるかどうかですね。
谷 今はまさに、それらの波に乗れるかどうかのはざまにいると思っています。私は2000年ごろにシリコンバレーでコンサルタントをしていたのですが、インターネットの波がきていたその頃、多くの日本企業の方々が訪れて技術を吸収したり、投資をしたりして波に乗ろうとしていました。当時と今の状況は、とてもよく似ていると感じています。しかし、結局そのタイミングで日本は波に乗り切れなかった。だから今度こそは、しっかりと波をとらえなければまずいと思っています。
尾上 20~30年前と今とでは世界のトップ企業もがらりと変わりました。さらにここからの20~30年で大きく変わっていく可能性があります。だからこそ波に乗り、イノベーションを起こすことが求められているのですね。
谷 そうですね。日本企業には優秀な人材が多く、資本力もあるので、十分にその力があると思っています。波に乗ってイノベーションを起こすべくチャレンジしていけば、成功する企業も多いのではないでしょうか。
構成/谷和美
