人によって読書スタイルはいろいろですよね。読書をするとき、私は読みながらそのときの感情に任せて、心に響いた箇所に線を引いたり、走り書きしたり、ページを折ったり、気付きをメモ書きしたり。本にどんどん自分の足跡を付けていくタイプです。

及川さんの本は、ページを折り込んで印を付けていたり、中に書き込みがあったり
及川さんの本は、ページを折り込んで印を付けていたり、中に書き込みがあったり
画像のクリックで拡大表示

 後から読み返したときに、この足跡がすごく面白くて。「私はなぜあのとき、ここに線を引いたんだろう?」と、過去の自分と出会えるのも楽しみの一つ。「これって大したことじゃないなあ」と思うこともあれば、「そうそう、やっぱりそうだよね!」とうなずく箇所もたくさんある。自分の成長を実感することもできるんです。

新入社員に贈った『問い続ける力』

 そんな、何度も読み返したくなる本の一つが、一昨年の新入社員に贈った 『問い続ける力』(石川善樹著、ちくま新書) です。

及川さん自身が「救われた本」だという
及川さん自身が「救われた本」だという
画像のクリックで拡大表示

 よく、「イノベーションを起こすには、これまでのやり方や常識を疑うことが大事」といいますが、私はそのために必要なのが、まさしくこの「問う力」だと思っています。

 「これって本当だろうか?」「なぜこうなんだろう?」と常に問い続けること。この“問い”を発信できない限り、結局は、前例踏襲型の仕事になってしまう、と感じることが多いのです。

 とはいえ、どうすればその力を養うことができるのか。すごく難しい。私自身、その重要性は認識していたものの、具体的にどうすればいいのか、よく分からなかったんです。でも、この本の最初のページを開いた途端、「やられた…」と心をつかまれました。

「私が抱いてきたもやもやの正体はこれだったんだ、と目からうろこが落ちたんです」
「私が抱いてきたもやもやの正体はこれだったんだ、と目からうろこが落ちたんです」
画像のクリックで拡大表示

 人には2種類のタイプがあり、情報から答えを求める「○○では…」派と、問いを求める「○○とは…」派がいるという一文。これが私には大きなインパクトでした。

知識不足がずっとコンプレックス

 私たちはつい、安心感を得るために、過去に経験したことを選びがちです。でも、それでは新しいものは生み出せないし、変化のスピードが速いこれからの時代を生き抜いていけない。そこを打ち破るには、誰かに「頑張れ!」と発破を掛けてもらう以上に、「これってどうしてなんだろう、なぜだろう」という好奇心が必要なんだ、と説いている。

 「○○では…」と考える場合、結局は情報量の勝負になり、知識のある人が有利になる。一方で、「○○とは…」と問う場合は、前提条件となる知識がなくてもできる。小さな“なぜ?”を積み重ねていけばいい、とも書かれています。それなら自分にもできそうだな、と私は思ったんです。

 私は学生時代にあまり勉強をしていませんでした。その知識不足がずっとコンプレックスだったのです。でも、この本を読むと、知識がない私でも問うことはできる。肩肘を張らなくてもいいし、格好つけなくていいんだよと、励まされた気がして、なんだかホッとしたんですね(笑)。

 「知らない」ということにメリットがあるなんて! そう思うと、どんな本を読んでも新鮮に感じられるし、喜びや楽しみもたくさん得られるようになりませんか。

「私は、“知らないこと”はむしろ、自分の利点なんだなと思うようになりました」
「私は、“知らないこと”はむしろ、自分の利点なんだなと思うようになりました」
画像のクリックで拡大表示

 新入社員は、初めて社会に出て、希望と不安が入り交じっている状態ですよね。職場に出たら知らないことだらけです。だからこそ、自分の強みを生かしてほしい。「問い」を続けてほしい、きっとそれが自分にとっても、組織にとってもイノベーションにつながる。そう感じてもらいたくて、プレゼントをしたのでした。

 『考える』をテーマにした本のなかでとても読みやすいのが、この 『41歳からの哲学』(池田晶子著、新潮社) です。

「哲学とタイトルにありますがそれほど堅苦しくなく、易しい言葉で書かれています」
「哲学とタイトルにありますがそれほど堅苦しくなく、易しい言葉で書かれています」
画像のクリックで拡大表示

 自らの死生観、戦争や自殺に対する考えなど、なかには結構過激な思想についても書かれてあるのですが、“死”を主なテーマに鋭い視点で考察を深めていく様子に、「一つの事柄をこんなふうに捉えることができるのだな」とハッとさせられます。

 日々さまざまな情報に触れて「知ったつもり」になっていた私に、「その情報をもとに思考を深めて、意見を持つこと」の大切さを教えてくれた本です。

 この本を読んで気付いたんです。それまでの私はニュースを見ても、「ふうん、そうなんだ」と、事実を捉えるだけで終わっていたんだな、と。さまざまな情報に触れるだけで「知ったつもり」になっていたんだな、と。

 これでは思考が始まらない。著者のように「それってなぜなんだろう」「これに何の意味があるんだろう」と立ち止まって考えを深めて、初めて自分の意見を持てるんですよね。

 私は、今ある現象や物事を解説しているような本よりも、著者が一生懸命、自分なりに答えを探求している様子のなかに、本人のキャラクターがにじみ出ているような本が好きなんだと思います。著者作者が近くに感じられるようで、親しみも湧いてきて。

 ちなみに、この本が発売されたのは2004年ですから、すでに20年近くも前の本になります。最近、昔の本を読み返すことが多いのですが、いつも思うのは、世の中がどれほど進化を遂げても、人間の本質ってあまり変わらないのだなということ。私たちは常に同じことを求められていて、その時代ごとに、物事の真価について考えさせられているのかもしれません。

「考える力」が欲しかった

 最後にもう1冊。発売当初から話題になり、ベストセラーだったので手に取ったのですが、とにかく面白かったのが 『13歳からのアート思考』(末永幸歩著、ダイヤモンド社) です。

図解と合わせてわかりやすく解説しているのが特徴
図解と合わせてわかりやすく解説しているのが特徴
画像のクリックで拡大表示

 アートを鑑賞するときの視点から、表面的なものだけを見るのではなく、深める大切さを解説してくれている本です。「物事は見方によって異なるよね、だから広い視野をもって自分の頭でちゃんと考え、自分なりの視点を持つことが大事」だと教えてくれます。

 私の本棚には、「考える」や「思考」をテーマにした本がたくさんあります。なぜかというと、昔からいつも「もっと深く考えろ」と言われ続けてきたからなんです。その一方で、うちの娘からは、「受け身な人生を送ってきた人」とも言われています。

 その時々の責任をきちんと果たしたいという思いだけは強く、これまで与えられたことに対して、一生懸命に答えを出してきました。でも、どこかで「自分で考えていないんじゃないのか。このままではいけないんだろうな」という気持ちがあり、外から何かを与えてもらわなくても自ら課題をつくり出せる人間になりたいと常々考えていたのです。

 単に情報を詰め込むだけでは、解決できない。「じゃあ、及川さんはそれに対してどう思うの?」と問われると、うまく答えられない。つまり、「考える力」が私にはなかった。だから、こういう本をヒントに考えるきっかけをもらっているんです。「考える」をテーマにした本を選ぶのは、私自身の課題に対する挑戦なんだと思います。

取材・文/西尾英子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也(及川さん)、スタジオキャスパー(本)