ポーラ社長の及川美紀さんは、常にさまざまなジャンルの本を読み、いい本を人に薦める読書インフルエンサーだ。そんな及川さんが、今年の課題図書として手に取った1冊の本があるという。

 私は、どちらかというと話すことは得意です。今も、インタビューでひたすら自分の思いを話し続けてしまっています(笑)。しかし…、「聞くこと」となると、これが本当に苦手なんですよね。実は、子どもの頃からずっと「自分のことばかり話すんじゃない」「人の話を聞きなさい」と言われ続けてきました。

「『あなたは人の話を聞かない』そう、言われ続けてきたのです」
「『あなたは人の話を聞かない』そう、言われ続けてきたのです」
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 社会人になり、マネジメントを担う立場になってからも、その悪癖は改善できず、「発信力はあるけれど、受信力がない」と指摘される日々…。そんな私にとって、「聞くこと」は、積年の課題でした。

 だから、この 『LISTEN』(ケイト・マーフィ著、篠田真貴子訳、日経BP) は、自分への戒めも込め、「聞くこと」を今年のテーマにしようと思って読みました。

「私は話を聞けていない――自覚はあります。『LISTEN』を読むと、心に響く言葉ばかり」
「私は話を聞けていない――自覚はあります。『LISTEN』を読むと、心に響く言葉ばかり」
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 本書の「私たちはきちんと話を聞いてもらえた経験が少ない」という言葉は、私の後輩や部下たちの声として読みました…。というのも、実は先日、仲のいい部下から「及川さん、話があるので聞いてくださいよ」と言われ、一緒にご飯を食べたのですが、いつもの癖で結局、私がずっと喋りっぱなし。彼女から、「及川さん、これって“聞く聞く詐欺”ですよ(笑)」と言われたばかりでしたから。

私は対話ができていなかった

 話をしていると、つい熱くなって「私はこう思うよ」と語り始めてしまうんです。こうなると、もはや対話ではないですよね。この本には、ただひたすら相手の話に耳を傾ける「傾聴」の大切さが書かれています。「聞くことは最高の知性」という言葉が、胸にズーンときました。

 ほかにも、「チームワークは話をコントロールしたいという思いを手放したところにやってくる」「会話には我慢という技術がいる」などなど、心に響く言葉がたくさん詰まっていて、マネジメントの立場にある人や子育て中の人にも大いに参考になると思います。

 私自身、「人は誰もが意見を持った一つの人格である」と頭では分かったつもりでいるのですが、つい自分の意見を押し付けてしまったり、話の最中で「相手の質問にどう答えようか」「なにかアドバイスをしなくては」といった気持ちが先立ってしまったり。

 つまりそれは、相手の話に集中できていないということ。ただひたすら「聞く」ということがいかに大切で、そして難しいかを思い知りました。

「黙って聞く」を実践するために

 私はアウトプットしながら思考を組み立てていくタイプなので、会議や打ち合わせなどで発言するときには、必ずホワイトボードに書き込みながら話すんです。

 口と手を動かさないと脳が働かない私にとって、「黙って聞くこと」はかなりハードルが高く、常に心がけていないと難しい。ですから、この本をいつもデスクの目につくところに置いて、意識するようにしています。

 会議でもつい話しまくりになりがちです。今年は、昨年よりも「黙って聞く」ことがテーマ。自分なりに頑張っていて、おそらく経営会議の議事録を見ると、去年よりも私が話している時間が短くなっているはずなのですが、それでも「そろそろいいかな…」とタイミングを見計っていると相手も喋り始めることが多く、「あと10秒待つべきだったんだな」と気付くことも。

「ドキッとしますよね。部下や後輩の声のような気がして…」
「ドキッとしますよね。部下や後輩の声のような気がして…」
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 「相手が話したいことは何か」をきちんと理解し、そこに誠実に答えることが大事。「自分と違う他人を尊重せよ」ということなんだろうなと思っています。

 もう1冊、私の課題を解決してくれる本があります。

  『日本人のための憲法原論』(小室直樹著、集英社インターナショナル愛蔵版) は、とある社外研修での課題図書でした。

及川さんが社外研修で出合った課題図書だった
及川さんが社外研修で出合った課題図書だった
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 かなり分厚い本ですし、「憲法」とタイトルにあるのでとっつきにくいイメージがありますが、内容は、憲法を入り口に宗教や言論、人権などについて分かりやすい表現で書かれ、すごく読みやすいですし、どこかエキサイティングで面白い。読後感が痛快なのも気に入っています。

 私にとって「民主主義とは何か」ということを考えるきっかけになると同時に、「自分は何も知らないんだな」ということをまざまざと突き付けられました。

 本書では、歴史の背景などが多面的な視点から書かれていて、思わず引き込まれます。日本人的な思考とグローバルな思考の違いについても随所に記されているので、視界が広がりました。現代日本社会の枠組み、市民・国民として果たすべき役割、普遍的な原理原則などはなく、「変えていけるもの」だということに気付かされました。

 この本は、その社外研修の最初の課題図書でしたし、内容的にもきちんと理解しながら読まなくてはいけないと思ったので、学生のようにノートをとりながら読み進めました。

 1章ずつ内容を整理してサマリーを作るのですが、文章にしたり、感想やイラストを描いたりして、自分なりに理解を深めていきましたね。

 とはいえ、私は読書のたびに常にメモを取るわけではないんです。ノートを作っても5ページ目で終わっていたり、A4のコピー用紙の裏に書き込んでホチキスで留めていたりと、気まぐれ。ルールを決めると苦痛になってしまうので、ページを折るだけの時もあれば、本に感想を書き込んだり、線を引くなど、その時その時の気持ちのままに、読書を楽しんでいます。

 逆にうちの夫は、すべてきちっと読書メモを作るタイプ。ありがたいことに、それをきれいにパワーポイントにまとめて共有してくれたりします。本の読み方は本当に人それぞれだなと思いますね。

取材・文/西尾英子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也