働き方改革で「長時間労働はよくない」という意識が浸透し、生成AIなど仕事に便利な道具が普及したものの、思うように残業時間が減らせないことが問題となっている。トヨタの現場で培われた「極限までムダを削る」思考法で仕事の「時短」を実現する『 トヨタの時短術(日経ビジネス人文庫) 』から一部を抜粋してお届けする。その第3回。
問題が起きたときに手を挙げやすくする
日本人には、真面目で責任感の強い人が多いという特徴があります。ただ、その特徴がアダとなってしまう局面があります。
その一つが、問題が発生したときです。
責任感の強い人は、業務でなんらかの問題が見つかると、なんとか自力で解決しようとします。しかし、これが問題解決をさらに遅らせる原因となり、ムダな時間や残業の増加につながってしまうケースが多いのです。
問題発生時に重要なのは、それを「いかに素早く察知するか」ではないでしょうか。ですからまず力を入れるべきは「見える化」であり、そのための仕組みを作ったり、コミュニケーションを活発化したりすることでしょう。つまり、「現場で問題が出たらすぐに把握できる仕組みを整える」とか、「スタッフが声を上げやすい雰囲気を作る」ということが重要なのです。
では具体的に、問題を早期発見するためにどんな仕組みを作り上げるべきなのでしょうか。それは、「手を挙げやすくする」ための仕組みです。
トヨタには、これを実現するための「アンドン」という仕組みがあります。
これは、トヨタの工場の製造ラインに吊り下げられている掲示板のことで、どこからでもひと目で、各工程や機械の稼働状況、目標に対する現状の成果数などがわかるよう、数値やランプが表示されるようになっています。
ちなみに、語源は照明器具の「行灯」からきています。
アンドンは有名な仕組みなので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
私も実際に現場に見にいったことがありますが、限られた見学時間のなかでも、アンドンのなかの数値は刻々と変化していました。
私が見学したのは、「アッセンブリープラント」と呼ばれる、数千種類の部品を組み立てる工場でしたが、アンドンはそれぞれ各ラインの中央に掲示されていました。担当者が製造工程で何か問題を見つけると、頭上にあるひもを引っ張ります。それがスイッチとなっており、アンドンの警告ランプが点灯するというわけです。

「不良は目の前に出せ」
ランプには、緑、黄、赤の3種類があり、緑が「異常なし」、黄が「異常発生」、赤は「ライン停止」を表しています。そして、黄色のランプが点灯すると、チームリーダーが現場に駆けつけ、その問題を一緒に解決し、赤のランプが灯ると、ラインが停止する仕組みになっているのです。
「工場のライン」と聞くと、常にスムーズに流れているものと考えてしまいがちですが、けっこうな頻度で黄色ランプが点灯していることに驚かされました。つまり、些細な問題でも、発生したらすぐに「アンドン」で手を挙げるという動きが徹底されているわけです。
こう聞くと「些細な問題で、いちいちラインを止めていたら、時間がいくらあっても足りないじゃないか」と感じる人もいるでしょう。
しかし、それは逆で、問題が小さいうちに対処しておけば、解決に時間のかかる大きな問題が起きる確率が下がり、業務が効率化され、それが残業を減らすことにもつながるのです。ちなみに、私が見学した工場の製造ラインは、ランプが点灯しても数分後には警告表示が消えて、また元のように稼働していました。
この「問題が発生したらすぐに知らせてオープンにする」という仕組みは、「不良は目の前に出せ」という、トヨタに昔からある考え方に基づいています。
多くの企業ではミスが歓迎されていませんから、工場でいうなら作業者は「ラインを止めないこと」が求められています。しかしこれでは、ミスが発生しても手が挙がりにくくなってしまうリスクがあります。さらに、ノルマまで課されていたりすると、「ノルマを達成するためには、何があってもラインを止めてはならない……」という考え方が定着してしまいます。
そうなると、「もしかしたら問題なのでは?」ということでも、そのままスルーしてしまうのが当たり前になり、それが積み重なると、いわゆる「企業の不祥事」として、ニュースに取り上げられるような事態にまで発展してしまうのです。
また、「不良は目の前に出せ」という考え方を実践して、業務効率を高めている現場には、「作業を細分化している」という特徴があります。
一つひとつの作業を1週間単位や数日単位など、長いスパンで設定していると、問題に気づくのが遅れてしまいます。不良を目の前に出しやすくするためにも、タスクを細分化する必要があるのです。タスクを細かく分割することで、作業が停滞していればすぐに気づいて手を打つことができます。
こういった取り組みを複数のプロジェクトで行ってその結果を検証すると、さらに効果を高められるのです。
[日経ビジネス電子版 2026年4月14日付の記事を転載]
原マサヒコ(著)/日経BP/1100円(税込み)
