『数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方』(日経ビジネス人文庫)を上梓した深沢真太郎さん。ビジネス数学・教育家としてビジネスパーソンやトップアスリートの指導・研修を行う深沢さんが、AI時代の「数字の使い方」を解説。「仕事に数字を使う」ことの意味から、「数字に強い」ことの本質、AIに任せる部分と人が担う領域の線引きまで。データを使っての意思決定はもちろん、マネジメントや人材育成にも重要です。

「数字に強い人」の定義が変わった

 誰もがAIを活用する時代。「数字に強い人」の意味も変化していきます。

 従来の「数字に強い人」は計算が速い、理系、データに関心を持っている、会計や統計学を学んだ……という認識が一般的だったのではないでしょうか。
 しかしAI時代は違います。

 数字に強い人=「AIが示す数字」に「意味づけ」し、「ストーリーで伝えられる」人。

 順番に説明しましょう。

 まずは「AIが示す数字」という表現。
 これは、「数字(データ)を人に見せる役はAIになる」ことを意味しています。

 これまでは人間がデータベースに自らアクセスしたり、ネットで自ら調べたりと、行動することで数字を手にしていました。
 もちろんその行為がなくなることはありませんが、これからはAIが数字を提示してくれる場面が圧倒的に増えるでしょう。これは大きな変化です。

 次に、人間はその数字を見て解釈し、「意味づけ」を行うことになります。
 たとえば、「顧客満足度90%」という数字に対し、AIはもっともらしい見解を述べてくれるでしょう。
 それをどう解釈するのか、どう意味づけるかを考えるのは、あなた(人間)です。

AIが数字を出す、人が物語を語る

 そして、最後に登場する「ストーリーで伝える」。これも必須です。
 ビジネスの現場で、「ストーリーで話す」ことの重要性を実感している方は多いでしょう。この重要性はAIの登場前後で変わることはありません。

 むしろAI時代はこの「ストーリーで伝える」がなおさら重要になるというのが僕の考えです。

 それには理由があります。
 これからは誰もがAIを活用することで「正解の確率が高い答え」を一瞬で引き出せるようになります。
 その結果、主張や提案は「もっともらしい内容」に寄っていきます。「もっともらしさ」は武器になりにくくなるのです。

 そうではなく、そこに人間の血が通った、その結論に至る背景と物語を語ること。
 その結論を受け入れることで期待できる未来の(人間の)物語を語ること。
 それが人間の仕事になります。

AIの正解より、「あなたの考え」が問われる

 これからあなたの周囲では、きっとこのような主張が増えてきます。

 「AIが数値分析した結果、投資すべきと言っているので、投資しましょう」

 しかし、これは果たしてビジネスシーンで通用するのでしょうか。

 ご意見はさまざまかと思いますが、僕は「通用しない」と考える立場です。
 なぜなら、結局、次の疑問が残ってしまうからです。

 「で、あなたはどう思うの? それはなぜなの? 僕はAIではなく、あなたと仕事をしているのですが……」

 おそらく、僕は「AIが述べているから○○する」と言ってくる人とは、気持ちよく仕事ができないでしょう。
 つまり、「もっともらしさ」よりも「気持ちよさ」のほうが大事になるのです。

 AI時代は誰もが「もっともらしいこと」を、さも自分の考えのように述べることができます。
 それはすなわち、もっともらしいほど、「それってAIの分析結果だよね?」とツッコまれる確率が高くなるということです。

 「もっともらしさ」に価値がなくなる。これはとても重要な視点です。

 ここまでを振り返ると、新しい定義には3つの重要な概念があることに気づきます。

  1. AI
  2. 意味づけ
  3. ストーリー(で伝える)

「計測・意味づけ・伝達」を点検する

 AIとは究極までシンプルに言うなら、「とても優秀な計算機」です。
 計算機である以上、計算と分析がきわめて得意です。
 ここは迷わず、AIに任せればいいでしょう。

 しかし、AIがどれだけ優秀でも、手元に数字がなければ計算も分析もできません。
 ですからまずは何を計測するのか、どう計測するのかを考え、実際に計測し、その結果を用意してあげる必要があります。
 これは間違いなく、人間の仕事です。

 用意したデータをAIが計算と分析をし、結果を人間に示します。
 人間はそれを見て意味づけをし、メッセージや結論を決めます。
 そして最後に、相手に気持ちよく伝わるように、ストーリーにしてその情報を伝えます。

 AI時代に数字を使って仕事をするということは、次のモデルで整理できるわけです。

計測 → 計算と分析 → 意味づけ → 伝達
人間 →   AI   →  人間  → 人間

 このように、人間の領域は、計測、意味づけ、伝達、の3つになります。

どこを鍛えるべきか?

 そこでぜひあなたにも考えてもらいたいのです。
 あなたが属する組織のメンバー、あるいはあなた自身は、計測、意味づけ、伝達、のどこにもっとも課題があるでしょうか。

 いずれAIは誰もが当たり前のように同じ水準で使うようになります。
 ですから、AIの使い方そのものでは差がつきません。

 電卓、パソコン、スマホ……これらもすべて今は誰もが当たり前のように使いますが、その使い方に大きな差はありません。
 仕事の成果の一番の差が、実はパソコンのタイピングの違いにあるなんて話はあまり聞いたことがないでしょう。

 では、どこで差がつくか。
 人間が行う計測、意味づけ、伝達、のいずれかです。

 ここが教育の領域になるわけですが、人材育成や組織開発を真剣に考えている企業はすでにそれがわかっています。
 僕はこれまでそのような企業をサポートしてきました。

 あなた自身、あるいはあなたが属する組織のメンバーは、計測、意味づけ、伝達、の3つのうちどれにもっとも課題があるか。

 これこそ、AI時代に、あなたの強みと課題を見極める起点であり、同時に、人材育成と組織開発の出発点です。

もっともらしいだけでは通用しない(写真:Oleksandr/stock.adobe.com)
もっともらしいだけでは通用しない(写真:Oleksandr/stock.adobe.com)
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