『数学女子 智香が教える 「数字に強い人」の仕事の進め方』(日経ビジネス人文庫)を上梓した深沢真太郎さん。ビジネス数学・教育家としてビジネスパーソンやトップアスリートの指導・研修を行う深沢さんが、AI時代の「数字の使い方」を解説します。今や意思決定にも経営判断にも欠かせない存在の生成AI。そのAI活用でもっとも大事なことは、実は「尋ねる前の下準備」。具体的には「計測」です。その理由とは?

生成AIが「使えない」本当の理由

 生成AIの活用が加速する中、僕がひそかに懸念していることがあります。
 それは──、

 「みんなAIの使い方(尋ね方)ばかり知りたがるけれど、AIに尋ねる前のことはあまり重要だと思っていない」

 ということです。

 AIはきわめて優秀な計算機です。
 イメージしやすいように、いったん「電卓」に置き換えてみましょう。

 電卓は優秀です。ただ、それを使う人間が何を計算させるのかを考えなければ、何の役にも立ちません。
 もっと本質的なことを言えば、人間の脳内に数字が存在しなければその電卓もまた存在する意味がありません。

 あなたが電卓を使って税込金額を計算するとき、あなたの脳内には「税別の金額」と「税率」という2つの数字が存在しているはずです。
 このごく当たり前のことから得られる教訓があります。

 人間が数字を存在させないと、計算機は存在する意味がない。

「ハック」は二次的なもの

 生成AIブームとも言える今、AIを使ったデータ分析やAIと一緒に考えるためのプロンプトに注目が集まっています。
 ここさえハックすれば仕事は劇的にうまくいく。今からでも一発逆転できる。そうした風潮さえ感じるほどです。

 しかし、とても冷めたことを申し上げるようですが、そのような話を聞いたり学んだりしたところで、残念ながらほとんどの企業や人材はAIを使ったデータ活用ができるようにはなりません。

 というか、データ活用それ自体をすることもないでしょう。答えは先ほどのあの言葉「人間が数字を存在させないと、計算機は存在する意味がない」にあります。

計算より先に計測

 僕はこれまでたくさんの企業やビジネスパーソンを対象にデータ活用研修を提供してきました。
 参加者も研修中はその内容を理解していただけるし、実行するイメージも湧くようです。

 しかし、現場に戻るとせっかく学んだことが実践できない。
 いったいなぜか。

 結論から言えば、唯一にして最大の理由がこれです。

 「データ活用したくても、データがない」

 いくらAIの活用法に長(た)けていても、この課題をクリアしない限り、AIは単なるオモチャに過ぎません。

 ですから、真に「数字に強い人」や組織は「計測」に注目します。
 決してAIによる計算や分析が最優先ではありません。

 そもそも計測してデータを保有・蓄積していなければ、AIがどれほど優秀でも、「計算と分析」というプロセスは動きません。
 計算と分析がなければ、そこから先の「意味づけ」も「伝達」も始まりません。

 何が起きていて、なぜそう言えるのか──相手が納得するストーリーとして共有するための根拠が立たず、気持ちよく伝わる説明にもならないのです。

 優れた計算機の登場は、間違いなく計算と分析のプロセスを圧倒的に短縮化し精度も上げます。
 だからこそAIに学習させるデータをどれだけ持っているかが肝になるのです。

本質は数字への感度

 僕は実際の企業研修で次の2つを必ず質問します。

Q あなたの職場は必要なデータをちゃんと計測できる体制や仕組みがあるでしょうか?
Q そもそも、必要なデータとは何かがわかっているでしょうか?

 Googleも、ソフトバンクも、サイゼリヤも、キーエンスも、ニトリも、経営者はデータドリブンの必要性を声高に語り、現場にも徹底してそれを浸透させています。
 おそらくこの2つの問いに、即答で「YES」と答えるはずです。
 もちろんそのために必要な投資もしているでしょう。

 けれど、このようなお話をすると、「それは予算が潤沢な大企業だからできることだよ」と反論されることがあります。
 その通りかもしれません。
 一方、「だから余裕のない中小企業はできない」という結論はいかがなものかとも思います。

 これまでの現場経験から申し上げることですが、「お金がないからできない」「時間がないのでできない」とおっしゃる人ほど、普段どれくらいお金を使っているのか、どれくらい時間があればできるのかを答えられません。

 お金も時間も数字です。
 つまり組織の規模や予算の潤沢さの問題ではなく、そもそもの数字に対する感度の問題なのです。

まず1つ数えてみよう

 思い当たる節のある人は、まず今の職場において現状の環境や仕組みでも「数えられる」ものはないかを考えてみましょう。

 オフィス内を歩いた歩数。プリントアウトした枚数。ミーティングに費やした時間。企画を1つ完成させるまでにかけた時間とコストの概算。最近の部下は笑顔が増えたか減ったか……。

 その気になれば、いくらでも計測するテーマは転がっています。まずはできることから始めてみてはいかがでしょうか。

 計測しない人と組織に計算機は使えません。

 正直に言えば、今の世の中はAIに注目しすぎです。
 その手前にもっと基本的で、もっと大切なことがあります。繰り返しましょう。

 「みんなAIの使い方(尋ね方)ばかり知りたがるけれど、AIに尋ねる前のことはあまり重要だと思っていない」

 研修現場で生身のビジネスパーソンをたくさん見てきて、僕はそれを今、痛切に感じています。

 最後に1つ。
 繰り返しになりますが、僕が企業研修やコンサルティングで指導している「数字で仕事をする4つのプロセス」があります。

計測 → 計算と分析 → 意味づけ → 伝達
人間 →   AI   →  人間  → 人間

 2番目のみAIの領域であり、残り3つは人間の仕事としてこれからも残ります。
 今回は1番目の「計測」と2番目の「計算と分析」をテーマとしました。3番目の「意味づけ」と4番目の「伝達」は連載 2回目 で説明しています。もしよろしければ参照ください。

AIに尋ねるための準備がカギ(写真:Prathankarnpap/stock.adobe.com)
AIに尋ねるための準備がカギ(写真:Prathankarnpap/stock.adobe.com)
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