日経新聞の記事がきっかけで、「#生涯子供なし」というハッシュタグがSNSで大きな話題となりました。その記事を記した福山絵里子記者の著書『 #生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか 』によると、日本では50歳時点で子供を持たない女性が1970年生まれで27%となり、2000年生まれでは4割近くに達する可能性があるそうです。今なぜこの本を読むべきか、何を知っておくべきなのか──。ダイバーシティについて長年取材・執筆をされている浜田敬子さんが読み解きます。

 かつて編集長を務めていた週刊誌「AERA」で「子なしハラスメント」という特集を組んだことがある。2015年のことだったが、当時、安倍政権は成長戦略の一つとして「輝く女性政策」を掲げ、子育てと仕事の両立を後押しし、待機児童対策として保育園の新設も後押ししていた。企業もワーキングマザー向けの施策に力を入れるなど、次世代を産み育てることを礼賛する空気が日本中に充満していた。

 その中で、「子供を持ちたくない」「持ちたくても持てない」という当事者の声はかき消されがちだった。ある読者から聞いた「子供を持たないことで肩身の狭い思いをする、まるで子なしハラスメントに遭(あ)っているようだ」という言葉が今でも強烈に残っている。

 さらに今少子化が深刻化する中で、当時以上に「産み育て」に対する圧力は強まっていないだろうか。

 2023年1月の日経新聞の「生涯子供なし」という記事に多くの反響があったのは、「子供がいない」つまり「無子」状態の人たちがこれだけ存在したということと同時に、「個人の選択の結果」とみなされ、社会的にも政策的にも精神的にも何の支援も受けられていないことに対しての悲痛な思いの表れだと感じた。

 本書『#生涯子供なし』で取り上げられている一人ひとりの声を見ると、子供のいない理由はキャリアとの両立で諦めた人から、金銭的・時間的な問題に不安を覚える人、そもそも「望んでいない」人までそれぞれだ。だが通底するのは個人というより社会構造上の問題であり、女性だけでなく男性も含めた問題だということだ。

 衝撃は、日本は世界の中でも突出した「無子大国」であり、すでに50歳の女性の3割近くに子供がいないという現実だ。そしてこの「子供がいない」という状況が、経済状況や雇用の状態と深く関わっていることを、本書ではデータを使って明らかにしていく。

 少子化対策は確かに重要だが、その内容が子育てや出産支援に偏ってしまえば、ますます「産む意思」のある人や子供がいる人と「子供なし」の人との格差や分断を大きくすることになる。すでにSNS上には子供がいる人たちに対して「子持ち様」と揶揄(やゆ)することが広がっている。分断をこれ以上拡大させないためにも、「子供なし」の人たちの声に真摯に向き合うことが求められる。

<評者> 浜田敬子(はまだ・けいこ) ジャーナリスト
1989年に朝日新聞社に入社。99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。2017年3月末に朝日新聞社を退社後、世界12カ国で展開する経済オンラインメディア「Business Insider」の日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。2022年7月に一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構を設立。2022年度ソーシャルジャーナリスト賞受賞。2023年10月からBリーグ理事も務める。 「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」「News23」のコメンテーターや、ダイバーシティなどについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』『いいね!ボタンを押す前に』(共著)。

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