生成AIに関する技術と業界の最先端の情報を米シリコンバレー駐在記者が徹底取材した『 生成AI 真の勝者 』(島津翔著、日経BP)。その読みどころを、 早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が解き明かす。数ある類書と一線を画す、本書を読むべき3つの理由とは。
2024年現時点において、世界の生成AIに関する技術と業界の動向を俯瞰(ふかん)し、基本レベルを上回る知識と情報を得る上で、本書を超えるものはないのではないだろうか。生成AIになじみのない方だけでなく、業界関係者にもおすすめできる(理由は後述する)。
本書は5章構成。まず第1章で生成AI業界の現状を俯瞰し、OpenAI(オープンAI)とMicrosoft(マイクロソフト)連合が一歩抜きんでているものの、独自AIを開発するGoogle(グーグル)や、オープンAIのライバルであるAnthropic(アンソロピック)と組んだAmazon.com(アマゾン・ドット・コム)も急速に追い上げている現状を解説する。生成AIのプロセスはAIにデータを学ばせる「学習」と、その後の「推論」に分かれるが、巨大なデータを学習させる前者では規模がものを言うため、この「ビッグ3」グループが主導する形となりそうだ。
第2章では、生成AIに欠かせないAI半導体の現状にスポットを当てる。まずは、この分野で現在ダントツで飛躍するNVIDIA(エヌビディア)の強さの理由を解き明かし、他方でビッグ3もAI半導体の独自開発を進めている現状を解説する。日本のRapidus(ラピダス)の小池淳義社長のインタビューも必読だ。
第3章は、この生成AIを動かす場所となるクラウドの戦いだ。これもビッグ3がそれぞれ独自のクラウドを持つが、実はこの戦いに思わぬプレーヤーが参入してきており、潜在的な脅威足り得るのかもしれない。このように生成AIは「生成AIモデル業界」「AI半導体業界」「クラウド業界」の三業界全体のエコシステムを俯瞰しないと、最低限の理解ができないのだ。
そして第4章では、生成AI分野の特許を飛び抜けて持っているのが中国という衝撃の事実から始まり、生成AIの地政学問題を議論する。第5章では、生成AIの普及は人間の仕事をどのように奪うのか、人はAIと共存できるのかについて、著者の意見も交えながらの最新の議論が行われる。
本書を強くおすすめできる理由は三つある。
第一に、本書は生成AIに関する最新の情報を「包括的」「網羅的」にまとめた唯一無二のものだからだ。先にも述べたように、生成AIの世界を理解するときには、生成AIモデル業界、AI半導体業界、クラウド業界の三つを俯瞰しなければ、その全容を理解したことにならない。しかしこのように各領域をまたがって体系的に説明した本はほぼなかったのではないだろうか。
第二に、本書は技術論からビジネスモデルまで、かなり精緻に取材と情報収集を重ねていることだ。これだけの情報を、(しかもおそらくかなりの短期間で)積み上げた著者の労力には賛辞を贈りたい。中でも、著者の所属する日経クロステックとパテントフィールドによる生成AIの特許分析は、たいへん迫力があった。加えて言えば、評者は、グーグルが有するDeepMind(ディープマインド)の共同創業者で、現在は生成AI企業Inflection AI(インフレクションAI)を創業したばかりのムスタファ・スレイマン氏と昨年末に対談した。そのときには米国での期待感も大きかったインフレクションAIだが、本書によると実は今年春に主力事業を断念したようだ。この業界の変化スピードのすさまじさに改めて驚くとともに、そのような最新情報までしっかりと本書ではカバーされている。
第三に、このようにかなり専門的な情報も含む本書だが、非常にわかりやすく、初心者でも気軽に読み通せる点だ。実は評者はもともと著者の島津翔氏とは古くからの付き合いである。島津氏の良さは、とにかく好奇心が強く、フットワークが軽いこと。人柄が魅力的なので、おそらく取材を受け入れてもらいやすいこと(本書でもかなり広範囲の取材をしている)。他方で、そこで得た知識をわかりやすく届ける能力も一級品だ。まさにそんな島津氏の良さが存分に盛り込まれた一冊だと思う。
繰り返しだが、これほど俯瞰的に、わかりやすく、生成AIの情報と展望をまとめた本はなかなかない。しかもシリコンバレーに住む、信頼できる日本人記者が書いたものだ。「鮮度」が大事な一冊でもあるので、ぜひ急いで手に入れていただきたい。
