「やりたいことは山積みなのに、なぜか一つも終わらない」「気づいたらスマホで時間をムダにしてしまう」――これはやる気の問題ではありません。脳が無意識にフル稼働し、休めなくなっているからです。休ませるカギは、タスクの切り替えを最小限に抑えること。その具体策を、神経心理学と実践知の両面から解き明かした書籍が『 脳をオフにせよ 仕事も人間関係もうまくいく集中術 』(マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳)。オランダで10万部超えのベストセラーの本書から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「賢い人ほど気が散る脳の仕組み」についてです。
私たちを不幸にするマインドワンダリング
「ねえ、聞いてるの?」ガールフレンドが苛立ちを隠せない様子で尋ねてきました。
会話の最中に私の心がさまよってしまったのは、これが初めてではありません。彼女の言う通りでした。私は、話を半分しか聞いていませんでした。雑念が次々と頭に浮かんできて、彼女の話に集中できなかったのです。
昔からずっとそうでした。私は人の話をうわの空で聞いてしまい、相手を苛立たせ、自分も罪悪感を味わうことになってしまうのです。
同じような経験を、読書中にすることがあるという人もいるかもしれません。
文字を目で追っているはずなのに、頭の中にはそれとは無関係の“やらなければならないこと”が次々とよぎっていくのです。最後まで読み終えても、内容がほとんど頭に残っていません。フラストレーションが溜まります。
このように、今していることとは別の何かに意識が向いてしまう現象は、心理学用語で「マインドワンダリング」と呼ばれます。実は、人は起きている時間の約半分、このような心がさまよう状態にあります。この事実は、私たちの集中力がどれほど限られているかをよく示しています。
“今この瞬間に起きていない何か”について思いを巡らせることができるのは、私たち人間が持つ優れた認知能力だといえます。これは、ヒトとほかの動物を区別する大きな特徴の1つです。
しかし、代償もあります。
ハーバード大学の研究によれば、マインドワンダリングは私たちを不幸にします。それは「今この瞬間に意識を向けること」とは正反対の行為であり、一緒にいる相手とも深いつながりを築きにくくなってしまうからです。
集中力を高めることのメリットは、効率性の向上だけではありません。そう、それは私たちの幸福感にもつながっているのです。
では、どうすれば心がさまようのを止められるのでしょうか?
読書や会話をしているときに、注意力を保つには何が必要なのでしょう?
すべてのカギは、「フロー状態」に入れるかどうかにかかっています。
「脳の能力を10%しか使っていない」はウソ
「人間は脳の能力を10%しか使っていない」という話を聞いたことはないでしょうか?
実は、これはまったくの間違いです。人は常に、脳の能力の100%をフルに使っています。そして、だからこそ、私たちは簡単に気が散ってしまうのです。
私たちの脳は、ほぼ常に「オン」になっています。まったく何も考えないようにすることは、実質的に不可能です。しかも、思考のペースは高速です。
研究によって推定値にはばらつきがあるものの、人間の脳は1分間に約1400語〔訳注:英語など欧文言語の場合。日本語では2800文字前後だと考えられる〕相当の情報を処理できると考えられています。
私たちの脳内で絶えず思考が飛び交っているのも不思議ではありません。
このように、私たちの脳(正確には、思考を司る脳の領域である前頭前皮質)は、100%で動作するようにできています。そのため、目の前のタスクに脳の処理能力がすべて使われていない場合、パーソナル・アシスタントはほかの刺激を入れ始めます。
これによって脳はフル稼働するようになります。そのため、効率性は高まります。しかし、同時にデメリットも生じるのです。

賢い人ほど気が散る理由
脳は、常に新しい刺激を求めています。私たちが行うタスクの多くは、脳の能力の20%程度しか必要としません。つまり、気が散る余地がたくさんあるのです。
たとえば、私たちの平均的な読書速度は毎分約250語で、思考速度よりもかなり遅いペースです。
読んでいる文章が退屈だと感じたら、脳がほかのことを考え始めるのも無理はありません。なにしろ、脳には余力がたっぷりあるのですから。
人間の平均的な会話速度は毎分125語。これは、思考速度をはるかに下回っています。つまり、話をしているあいだ、私たちの頭の中はほかの刺激であふれかえっているということです。
このことをよく実感するのは、話すペースがかなりゆったりした人と電話をしているときです。
あなたが2分前にした話の内容を相手がようやく理解しようとしている頃には、あなたは退屈まぎれに手元のメモ帳に熱帯雨林のジャングルを思わせるようなびっしりとした落書きを書き込んでいるかもしれません。
目の前のタスクにわずかしか注意を向けていないとき、脳には周りの刺激を受け取るための処理能力が大幅に余っていることになります。その結果、隣で電話をしている同僚や、脇を通りすぎる人などに気を取られやすくなるのです。
しかも、知能が高いとさらにデメリットが生じます。IQと、脳の思考能力のあいだには、明確な相関関係があります。すなわち、知能が高いほど脳の思考能力は高くなります。
もちろん、それには利点があります。しかし、欠点もあります。たとえば退屈するとほかのことを考えやすくなるという点です。人は頭が良ければ良いほど気が散りやすくなるのです。
気が散る対象を遮断したいときに役立つ、2つのキーワードがあります。それは、「ノルアドレナリン」と「マルチタスク」です。

(第5回に続く)
マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳/日経BP/1980円(税込み)
