「やりたいことは山積みなのに、なぜか一つも終わらない」「気づいたらスマホで時間をムダにしてしまう」――これはやる気の問題ではありません。脳が無意識にフル稼働し、休めなくなっているからです。休ませるカギは、タスクの切り替えを最小限に抑えること。その具体策を、神経心理学と実践知の両面から解き明かした書籍が『 脳をオフにせよ 仕事も人間関係もうまくいく集中術 』(マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳)。オランダで10万部超えのベストセラーの本書から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「マルチタスクとタスクスイッチングの違い、およびマルチタスクのすごさ」についてです。
落書きは集中力を29%向上させる
“別の簡単なタスクを並行して行う”のは、簡単なタスクの難易度を上げる方法です。
たとえば、電話での会話が退屈だったりペースが遅かったりするとき、私たちはよく手元の紙切れに落書きをします。イギリスの大学の研究によれば、こうした落書き(ドゥードリング)は人間の集中力を29%も高めることがわかっています。
落書きは、わずかな脳の容量しか必要としません。そのため、落書きをしながらでも、相手の話に集中できます。その一方で、落書きによって脳の容量の一部が使われることで、雑念が湧くのを防ぐ効果も得られるのです。
つまり、余力がありすぎる場合とは違い、頭の中にToDoリストを浮かべたりすることなく、会話に注意を向けやすくなるのです。
しかし、ここで疑問が生じます。これは、マルチタスクではないのでしょうか? その通り、これはマルチタスクです。
さらに驚きの事実をお伝えしましょう。世間で言われているのとは違い、マルチタスクは、注意力や集中力を高めるのにとても効果的なのです。むしろマルチタスクは、私たちがフロー状態に入り、タスクに没頭するための重要な要素です。
これは、“マルチタスクは絶対に避けるべきもの”という、通説とは矛盾しているように思うかもしれません。しかし、実はこの考え方は正しくはありません。それどころか、私たちはマルチタスクを意図的に活用すべきなのです。
とはいえ、塩を使いすぎるとおいしい料理が台無しになってしまうのと同じように、マルチタスクの扱いを間違えると、ストレスを感じやすくなり、ミスも増えてしまいます。マルチタスクの仕組みと、使うべきとき、そうでないときを知ることで、集中力に大きな影響を与えられます。これから、詳しく見ていきましょう。
まずは、「マルチタスク」と「タスクスイッチング」は違うものであることを知っておきましょう。
異なるのはタスクをどう遂行しているか
「落書きをする」「人の話を聞く」などの単純なタスクを2つ同時に行うのは、マルチタスクです。これに対し、タスクスイッチングとは、2つ以上の複雑なタスクを頻繁に切り替えながら行うことです。
たとえば、電話をしながら別の相手に急いでメールを書いて送ろうとすることなどが、タスクスイッチングに当てはまります。この切り替えは一見すると素早く、同時に2つのことをしているように思えます。しかし、このテーマに関する多数の研究によって、決して同時に2つのタスクをしているのではないことがわかっています。
つまりこのような場合、私たちは単にタスクを切り替えているだけなのです。その結果、直前のタスクに気を取られた状態(注意残余)が絶えず続くことになります。当然、どちらのタスクでもミスをしがちになり、完了するまでになんと4倍から10倍もの時間がかかってしまうのです。
マルチタスクとタスクスイッチングの主な違いは、サブタスクに選択的注意(targeted attention)を向ける必要があるかどうかです。
選択的注意とは、対象に意図的に注意を向けることを指します。選択的注意を向ける必要がなければ、それはマルチタスクです。向ける必要があれば、それはタスクスイッチングになります。タスクスイッチングをしていると、ミスが増え、時間もかかることになります。
落書きの例に戻りましょう。
簡単な内容のプレゼンを聴きながら、何も考えずに手元の紙に落書きをすることは、マルチタスクです。これは脳の隙間を埋め、集中力を保つための良い方法になります。
しかし、陰影をつけた立体的で精巧な落書きを描こうとすれば、このバランスが崩れてしまいます。手の込んだ絵を描くには、選択的注意を向けなければなりません。そのため、プレゼンを聴くことと、落書きをすることに、それぞれ交互に注意を向ける必要が生じます(つまり、マルチタスクだったものが、タスクスイッチングになります)。その結果、プレゼンの重要な情報を聞き逃しやすくなってしまうのです。

(第6回に続く)
マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳/日経BP/1980円(税込み)


