「やりたいことは山積みなのに、なぜか一つも終わらない」「気づいたらスマホで時間をムダにしてしまう」――これはやる気の問題ではありません。脳が無意識にフル稼働し、休めなくなっているからです。休ませるカギは、タスクの切り替えを最小限に抑えること。その具体策を、神経心理学と実践知の両面から解き明かした書籍が『 脳をオフにせよ 仕事も人間関係もうまくいく集中術 』(マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳)。オランダで10万部超えのベストセラーの本書から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「最高に集中できるやり方とオススメの読書法」についてです。
簡単にできる、集中力を高める最高の方法
マルチタスクとタスクスイッチングを区別するためのごくシンプルな判断基準を教えましょう。一度に2つのことをしているという感覚があれば、それはタスクスイッチングです。マルチタスクの場合は、この感覚はありません。
マルチタスクの場合、メインタスクに対するサブタスクになるものは、電話(メインタスク)をかけながら歩く(サブタスク)など、無意識にできるタスクです。ですから、あくまでもメインタスクという1つのタスクだけをしているという感覚があるのです。では、別の例を見てみましょう。
これは、どんな音楽を聴くかによります。
もし、何千回も聴いたことのある音楽を聴いているのなら、脳にとって素晴らしい効果があります。私たちの脳は、馴染みのある音楽に意識的な注意を払いません。そのため、馴染みのある音楽を聴くことは、脳の気が散る余地を埋めるのに最適な方法であり、目の前のタスクに深く集中するのに役立つのです。
私はこの本の90%を、同一の長いプレイリストを何度も聴きながら書いています。同じプレイリストを繰り返し聴くのは退屈ではありません。それは集中力を高めるための最高の方法になるのです。
しかし、退屈なレポートを書きながら、お気に入りのアーティストがリリースしたばかりの新しいアルバムを聴くことにしたのなら話は別です。おそらくあなたは、音楽に気を取られてしまうでしょう。その結果、集中力を保つのが難しくなります。
車を運転しながら電話をするのはどうでしょう? これは、簡単なことでしょうか? 答えは人それぞれでしょうが、興味深い統計データがあるので紹介しましょう。
ドライバーの88%が、運転中に周りのドライバーが電話やメールをすることを極めて危険な行為だと見なしています。しかし、そのように答えているドライバーの80%は、自らも運転中にスマホを使うことがあるのを認めていて、かつそれは自分の安全運転には影響しないと感じているのです。
実際は、車の運転とスマホの操作には、どちらもかなりの注意が必要です。両方を同時に行うには、2つのタスクを切り替えなければなりません。また、私たちはこのようなタスクスイッチングを行うときに、自らの能力を過信する傾向があります。
「ハンズフリー通話なら問題ないのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、それはまったくの誤りです。たしかに、ハンズフリー通話ではハンドルから手を離すことなく通話ができます。しかし、ポイントはそこではありません。問題はハンドルではなく、私たちの脳にあるのです。
通話中、私たちの脳の処理能力の一部は、話の内容を理解するために使われます。その結果、周りの状況を把握するための処理能力が低下し、目の前で起きたことへの反応が遅くなってしまうのです。
なぜ読書と記憶は同時にできないのか
読書中に、その本に記されている情報を記憶しようとするだけでも、タスクを切り替える必要があります。情報を脳に記憶させるためには、何らかの意志的な作業が必要になるためです。
たとえば、記憶したい部分を再読する、メモを取る、ハイライトする(下線を引く、蛍光ペンでマークをつける)などです。どの方法も、読書そのものとは異なります。
つまり、読書をしながらそこに書いてある情報を記憶するには、「読書する」と「記憶する」という2つの作業が必要になるのです。どちらも選択的注意を向ける必要があるため、お互いに干渉します。
基本的に、読書中に内容を記憶しようとすればするほど、読むのに時間がかかります。逆に、読むことのみに集中すると、内容をあまり記憶できません。
何かを読み終えた後、しばらくしてその内容をはっきりと覚えていないことに気づき、「私の記憶力はザルのようだ」と感じたことがある人もいるかもしれません。しかしそれは、ただ本を読み終えれば、内容もすべて記憶できるはずだと思っていたからかもしれません。
実際には、選択的注意を向けて何らかの作業をしないと、情報を記憶に定着させるのは難しいのです。
この場合のアドバイスは、読書と記憶を分けて考えることです。
読書をするときは、まずは内容の理解に努めましょう。意味がうまくつかめない箇所があれば、その部分を読み直したり、調べ物をしたり、必要に応じて数ページ前に戻ったりします。
このように最初に内容をよく理解しながら最後まで読み、そのうえで記憶する作業に移りましょう。このように読書と記憶を分けることは、余計な手間や時間をかけることではありません。単に、時間の使い方が違うだけです。
「読む」→「覚える」→「読む」→「覚える」というふうに、2つの異なる作業を頻繁に切り替えるのではなく、まずは「読む」作業に集中して最後まで読み通し、次に「覚える」作業に集中するのです。
タスクスイッチングが減れば、注意残余も少なくなり、手間や労力もかからず、はるかに効果的になります。

マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳/日経BP/1980円(税込み)
